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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

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ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
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2018年12月の記事一覧

ぼくが僕になるまで(幼少期⑤)

ぼくが僕になるまで(幼少期⑤)

★人のテリトリーにずがずかと入る奴は、マンボウにでもなるがいい。

 父さんはぼくの部屋にノックもしないで入ってくると、中には入らずにドアのところで立ち止まった。足を肩幅に開き、腕を胸の前で組むと、何かを点検するかみたいに部屋の中を見回しはじめた。用紙にチェックを書き加えていくみたく、一つ一つ正確に視線の合図を送っていく。特に本だなについては時間をかけていた。それから父さんは納得したように頷くと、

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ぼくが僕になるまで(青年期④)

ぼくが僕になるまで(青年期④)

★会う場所はどこでもいい。約束は建前だ。

 僕は冷たい空気と連れだって、長らくお世話になった山手線の車内から降りた。天候は晴れ。気温はすこぶる高い。肌を焦がすにも、溜まりに溜まった日々の老廃物を外に出すのにも絶好の日和。もちろん、一週間分の光を摂取するにももってこいの日だ。
 通勤時間を外したからだろう、改札前のロビーはそこまで混んでいなかった。学生やリュックサックを背負った外国人がちらほらいる

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ぼくが僕になるまで(少年期④)

ぼくが僕になるまで(少年期④)

★自分の世話は自分で見れると思っているうちは、まだガキだ。

 協定その四: マンションの他の住人にはちゃんと目を見てあいさつする。

 爪先で探り、扇風機のスイッチを入れた。弱のボタンの上に赤いランプが点き、扇風機はゆっくりと稼働し始める。首が動き、空気の流れを部屋に作る。三十度ほど首を回転させて、また元の位置へ戻る。古いのか、常にカタカタと何かに擦れる音がする。
 甲野さんは窓際に立ち、オーガ

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ぼくが僕になるまで(幼少期④)

ぼくが僕になるまで(幼少期④)

★ぼくは誰のために生きている?それが分かっている人は幸いだ。

 リビングでは父さんと母さんが向かいあって話してた。まるで作戦をねってるみたいに、こぶし一個分の距離で話してる。にっくき相手のチームには聞かれないよう、内輪だけでの作戦会議だ。ぼくはそれを横目にすり抜けて、キッチンに向かった。
 その時、マコト、とリビングから呼びかけられた。担任の先生みたいにしっかりとした発音だ。声のした方へぼくは顔

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