【人間関係】2つ以上のメッセージを同時に送り、どちらを選んでもダメ――パワハラしてくる人の手口と対処法②
こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
パワハラ、モラハラをしてくる人は、悪意ある人は意図的に、あるいは、彼らが積み重ねてきた経験を基に無意識的に、他者(こちら側)を支配する心理術を使ってくることは、先日のnote記事で「ストローマン論法」を通じてお伝えしました。
今回は、パワハラしてくる人の手口②として、日本随一のコミュニケーショントレーナーとして1万人以上レクチャーしている司拓也さんが新刊『嫌われずに「言い返す」技術』の中で紹介しているパワハラ、モラハラで使われる代表的な心理術の1つ、「ダブルバインド」について解説、その対処法を紹介している該当箇所を一部編集して公開します。
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精神無限拷問──ダブルバインド
ダブルバインドは、ひと言で言えば「精神無限拷問」です。私は「メンタルトーチャー」と読んでいます。相手の心を翻弄することで、拷問のごとく心と身体を痛めつける行為です。
「君はどう思う? 自由な意見がほしい」と意見を聞かれ、意見を言ったら「違う」「ダメだ」と永遠にダメ出しが繰り返される状況を想像してみてください。
心理学者グレゴリー・ベイトソンによって初めて提唱されました。
相手に対して2つ以上の命令やメッセージを同時に送り、どちらを選んでも批判、非難する手法です。言われた側は、矛盾した要求に対処することで混乱し、ストレスを感じることになります。
パワハラ、モラハラ的に使用される場合、指示どおりに行動しても叱責を受け、いったい何が正しいのかわからなくなることにつながります。そして、自分の判断や行動に確信が持てず、疑念を抱くようになり、常に相手の顔色をうかがう自分になってしまいます。
ダブルバインドのメッセージを受ける側は、強制的に緊張、ストレス、混乱にさらされる、ひどい場合は、精神的な疾患に陥る危険性があります。
2つ以上のメッセージを同時に送り、どちらを選んでもダメ──悪用事例①
日常生活の中でのダブルバインドの事例を挙げてみます。
教団の心理操作──悪用事例②
悪質なカルト的宗教団体による精神的影響の初期段階は、個人の現状を完全に否定することから始まります。メッセージは「あなたはこの世界で失敗するだろう」とか、「あなたの現状では家族すら救えない」といった具合です。
これにより、個人は自己改善のための修行や行為に駆り立てられます。しかし、その努力が「十分ではない」と一蹴され、結果として、ますます従属的な立場に追い込まれるのです。
DVと心理的依存──悪用事例③
DV(ドメスティックバイオレンス)の犠牲者が加害者から離れられないのは、矛盾した状況による精神的な罠に陥っているからです。暴力行為の後に「ごめん、本当は傷つけたくないんだ。お前のことを思ってのことだから……」と慰められることで、被害者は「彼(彼女)は本当は優しい人だ。悪いのは私。彼(彼女)なしでは生きていけない」と感じ、加害者に依存する状態になります。
ダブルバインダーの背後にあるもの
これらの不条理で一貫性のない指示に、まずは混乱や怒り、絶望が込み上げてくるものです。
しかし、これが繰り返されるうちに、言われた側は、自己防衛のために感情をなくしてしまい、何も感じずにいたいと思うようになり、ただのストレスや疲労を超え、心身を蝕むしばんでいきます。
私はこのダブルバインドを仕掛けてくる相手のことを「ダブルバインダー」と呼んでいます。
ダブルバインダーの背後には、実際のところ、一貫した指示や相手の成長を願う意図はありません。
彼らの目的は、相手を混乱させ、その混乱を楽しむことにあるか(性悪ダブルバインダー)、あるいは、彼ら自身が何を言っているのか理解できておらず、単に指示能力が欠けているか(無能ダブルバインダー)のどちらかです。
ダブルバインドから身を守る方法──対処法
まずはマインドづくりです。
もし自分をダブルバインドの複雑なジレンマに追い込まれていると感じたら、「おや、またこれか」と心の中で思うことです。この自己対話が、感情の高ぶりを鎮め、頭を冷やして対応する手助けになります。
結局、どれだけ頑張っても、相手からは肯定的なフィードバックを得られないので、「わかった、わかった」と自分自身に言い聞かせ、受け入れることが肝心です。
相手は、あなたが要求にどれだけ誠実に応じようとしても、のらりくらりと「ああしろ、こうしろ」と不当な要求を突きつけてきます。あなたが動揺し、焦燥する様子を見て、喜びを感じるのです。
相手の要求に応えることは、結局のところ、あなた自身にとっての時間やエネルギーの損失になります。
私がこの問題に対して強く警鐘を鳴らしているのは、一度ダブルバインドの罠に陥ると、そこから脱出するのが非常に困難だからです。
この状況は、ある種、心が洗脳されたような状態になるため、極めて注意が必要です。
その上で、現実的な対応をお伝えします。
◎正論で返すパターン(ダブルバインドでお返し)
指示されたことを穏やかに思い出させる手法です。
「え!?」という驚愕の声と表情にニコッと笑ってリアクションを示すことは、相手に「本当にそんなことを言ったのだろうか?」と自問自答させることになります。
自分のおへそ(丹田)を相手に向けるポーズは、自信に満ちた態度を表現しています。
これは、相手にダブルバインド攻撃をこちらから仕掛けていることになります。
相手は、あなたが猫背で肩を落として、声を震わせながら申し訳なさそうに「すみません」と言うことを期待しています。その期待とは真逆の態度を見せることで、「相手はこんなはずでは」と驚き、混乱するでしょう。
これは、性悪ダブルバインダーや無能ダブルバインダーにも効果的なアプローチです。
もう1つ重要なことは、迅速に相談の主題に移行し、実りのある議論を開始することです。無意味な攻撃にはいっさい時間を割かず、「私たちの議論はもっと建設的なものに集中すべきだ」というスタンスを明確に示すのです。
このように、具体的なアドバイスを求めるのも効果的です。
内心、「またダブルバインドのパターンか」と冷静に状況判断し、表面上は落ち着いてニッコリと伝えましょう。
相手の過去のセリフにあった「いつでもいい」「遠慮なく聞いて」と言っていたことについては、意図的にスルーします。あくまで「予算について相談」に関しての目的遂行に照準を当てます。
「あなたの心理的な罠は、私には通用しない」という強い裏メッセージを含んだ対応となり、次回から、相手が攻撃的な態度を控えるよう影響を与えることができます。
◎正論を避けるパターン
いきなり正論で返す対応が難しいと感じる方は、いったん、次の対応を挟んでから、先ほどお伝えした正論で返すパターンで対応をしてみてください。
①即座に柔軟な対応を見せる
②上司の立場を尊重してあげて、流れるように対応する
または、
相手の性格や状況に応じて、これらの返答を使い分けましょう。
自分自身の感情をコントロールするためには、言葉が重要です。ここで挙げた言葉を口に出して口慣らししておくことがポイントです。各々10回程度口に出してみるだけで、ダブルバインドの状況が訪れたときに咄嗟(とっさ)に言葉が出てくることに気づくはずです。
ハラスメントを事前回避する秘策──ダブルバインド殺し
ダブルバインドが起こるのが必然ならば、先に予防策を立てておくことをおすすめします。私はこれを「ダブルバインド殺し」と呼んでいます。物騒な言い方と思われるかもしれません。
しかし、あなたにダブルバインドは危険な行為だとちゃんと認識していただきたいために、あえてこの言葉を使わせていただきます。
相手が行なう悪質なダブルバインドは、あなたの心と身体を蝕み、人生をダメにしてしまう、いわば魂の殺人行為です。
相手の意図的なダブルバインドを防ぐには、コミュニケーションの濃度を高めるしかありません。
濃度を高めるとは「明確性」と「具体性」を高めて、こちらから提案するということです。
事例を見てみます。
◎明確なコミュニケーションをいつも心がける
◎具体的な情報を要求する
このように相手に問いかけ、明確な回答を促します。
いずれの場合も、あとから「言ってない」「そんなつもりでなかった」と相手からの虚偽発言を防ぐために行ないます。
さらに、
なども行なっておくと安心です。
それでも相手からの執拗なダブルバインドが続いたら……
これらの事象が続き、他の人に相談しても改善の余地がない環境なら、その環境から離れることも考えましょう。
職場の文化、相手の性格、組織の方針などによって異なり、個人だけでなく組織全体にもネガティブな影響を及ぼす可能性があります。
繰り返しますが、性悪ダブルバインダーは、相手を混乱させ、その混乱を楽しんでいる可能性があります。無能ダブルバインダーは、自分で何を指示したかも、いかに相手を振り回しているかにも気づいていません。
そうした相手のせいで、こちらの心が傷つけられるのは避けたいものです。
その上で冷静に対応し、その中で適切に相手の話を聞くことが大切です。この意識を持つことで、自分の心を守ることができます。
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今回ご紹介した新刊『嫌われずに「言い返す」技術』の著者・司拓也さんは、日本で随一のコミュニケーショントレーナー。心理学をベースに、話し方、声の出し方を、1万人以上にレクチャーしています。
嫌われずに言い返す、著者オリジナルのメソッド「ポーカーボイス&トーク」の重要エッセンスを、多くの会話事例を交えながら徹底解説した新刊『嫌われずに「言い返す」技術』(司 拓也・著)は、全国書店、ネット書店で発売中です。興味のある方はチェックしてみてください。
▼『嫌われずに「言い返す」技術』の「はじめに」「目次」はこちらで読めます。
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