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HRBPを語る 【後編 - 成功に向けて】

前回の「HRBPを語る【前編】」では、「HRBPとは何か」と「HRBPが必要とされる背景」について自身の経験を踏まえて導入解説しました。 

 【後編】では、実体験からくる具体的ケースを交えながら解説します。 


HRBPのミッションとアクション実例ケース


「戦略人事」
は、1990年代に米国ミシガン大学の教授 デイビッド・ウルリッチ氏が提唱した考え方です。ウルリッチ教授は「戦略人事」の役割を4つに定義し、その内、経営戦略/事業戦略と人事戦略を紐づけ実行する推進役を「HRBP」と呼んでおります。  

HRBPは、担当本部・部門の人事責任者として、そこに所属する組織リーダーの方々(主に、本部長・部長、時にマネージャー含む)に、戦略立案・実行・推進に必要となる人財・組織面での施策の助言や提案を提供します。
まさに「組織リーダーの右腕的存在」です。
 
いくつか実例ケースがある方がイメージしやすいかと思いますので、以下で共有したいと思います。


【私のHRBP時代の実例ケース】

前編でのストーリーにある通り、私自身のHRBP経験スタートは、2008年という、日本にHRBPという概念が一般的に普及されるよりも前のタイミングでした。HRBPとして担当責任を持っていた2つの本部(マーケティング本部と事業企画本部)に対して、上記に記載した「組織リーダーの右腕的存在」として働きかけることが、当時のJob Description(各ポジションに対する職務記述書)のミッション項目の一つとして明記されておりました。
 
当時私が担当していたマーケティング本部の本部長は、ドイツ本国からのExpats(本国の本社や親会社等から各国の法人に派遣される主にエグゼクティブ層の駐在員)、事業企画本部の本部長は、営業本部で支店長をご経験された後に当本部の本部長に任命された方でした。
 
両本部長それぞれ、そしてその傘下にいらっしゃる各部長と1on1を実施し、各本部・各部の事業戦略を伺いながら、人財施策(採用・異動・登用・後継者特定等、そして時に労務問題 etc.)と組織施策(組織編制や統合・新設・廃止プランの議論・精査・調整・決定、組織風土醸成施策の立案 etc.)を推進していきます。そして、各施策の内容・目的・意義を鑑みながら、誰が前面に出ることが受け手目線で効果的かコンセンサスを取ります。その結果、組織リーダーとHRBPが協働で推進するのか、HRBPがイニシアティブを取るのか、HRBPが裏でコーディネーションしたうえで組織リーダーがイニシアティブを取るのか、各施策ごとに臨機応変に対応します。

部長以上が参加必須の各本部の戦略会議に「部門付き人事責任者」という立ち位置で毎回参加することもHRBPの大事な役割の一つでした。そこで議論されて決定される本部戦略・施策の背景からの理解に繋がるだけではなく、誰がどのような発言をしているか、どのようなやり取りをしているかをダイレクトに見て体感しておくことは、HRBPとして非常に有益なことです。
 
私が心掛けていたHRBP像は、組織リーダーが事業戦略の具体化とその実行と実現を果たすために不可欠となる「人財」と「組織」の面で「Potential Risks(潜在的なリスク)」と「Opportunities(可能性のある好機)」を俊敏に察知して、客観的に提言することでした。
 
また、年間の全社共通のHR施策Planを各本部長・部長に共有し、提言をいただきながら遂行していくこともHRBPの役割でした。

全HRBP間で共通していた年間HR施策の幾つかの実例は・・・
 
◆ 組織変更と人事異動案に対してHRとしての客観的視点で意見をすること。またそれらの情報を取りまとめて、機密情報として繊細に扱いながら、他の本部・部門を担当するHRBPとも異動者情報を共有して精査・調整を試みること。各本部長・部長とすり合わせて確定後は、厳密なタイムラインのもと、該当者・各関連部門に適切なコミュニケーションを図ること。
◆ 所属する従業員の直近半期評価と現在の固定給与(職能給・職務給)のテーブルと各本部に割り当てられた昇給原資を鑑みて、客観的データとHR案を提供し、本部長・部長が決めた案に対してEquity(市場的な妥当性と社内バランスの妥当性)があるかどうかを精査し、各従業員の昇給率・昇給額の確定に向けた議論をすること。
◆  グローバルで推進するサクセッションプラン(後継者特定と育成計画)の日本組織でのファシリテーター役の責任を持つこと。各本部の「クリティカルロール(組織運営において無くてはならない重要度の高いポジション)」を特定し、そこの「Emergency(そのポジションに現在就いている方が万が一即日来られない場合に誰がバックアップするか)」をリスクマネジメント観点で決めておくこと。その上で、本来のサクセッションプランとして議論が必要となる「数年以内のサクセッサー候補」「中長期的な将来のポテンシャル層の候補」をリストアップしていくセッションの全てをファシリテーターとして回していくこと。
◆  上記のサクセッションプランセッションでリストアップされたタレントに対して、各本部長・部長と連携し、育成プランを策定し、必要に応じてストレッチアサインメントを与えたり、社内メンターをアサインしたりすること。同時に、社内タレントでリストが埋まらないクリティカルロールに対しては、各本部長・部長と議論し、目的と要件を定めて外部採用を計画的に進めていくこと。さらには、リストアップされたタレントのアサインメントプランが海外の場合、APAC(アジアパシフィック)主催のサクセッションプランセッション⇒本国主催のグローバルサクセッションプランセッションに候補としてあげ、ポテンシャル候補者としてプレゼンテーションすること。
◆  組織風土サーベイを実施し、その結果を各本部向けワークショップで共有し、組織の強みと課題を可視化し、強みを更に伸ばすための組織施策を立案すること。浮き彫りになった組織課題に対しては重要度・緊急度で優先順位を付けて改善のためのアクションプランを策定するファシリテーションをし、アクションに対してはオーナーを立ててモニタリングしていくこと。
 
等々です。上記は全HRBPが、自身の担当する本部に共通して実行していたHR施策のほんの一例です。

その上で、各本部・各部の事業戦略と事業計画の具体的内容は当然異なってきますので、各ニーズでカスタマイズした動きを取るのもHRBPの役割であります。カスタマイズしたアクションは、HRBP間で共有し、お互いを高めていくことにも繋げておりました。そのことが、結果として会社全体の人財と組織をElevateさせていくことに繋がるのです。
 
 

HRBPに求められる要件と成功要因


では、「HRBPに求められる要件」って具体的に何でしょうか。
私は、Talent Acquisition経験後、外資系企業4社(製薬・高級消費財・FMCG(日用消費財)・テクノロジーの各業界)で、戦略人事としては、2008年前半から約4年半はHRBP、2012年後半から7年弱は日本法人HRトップに就く機会をいただきました。その計11年間に渡る戦略人事経験を通して、いずれの企業においても当てはまる「HRBP共通要件」は以下の6点だと考えます。
 
① 会社の理解、経営・事業戦略の理解、それに加えて外部的な目線とそこからの洞察と見解
② 変革に対する関心・熱意と変革を導く実行プランの策定力と提案力
③ 巻き込み含めた実行プロセスの調整力と社内コンフリクトマネジメント力
④ 実行推進の際の背景含めた伝達力とその反応への感度と傾聴力、そしてファシリテーション力
⑤ 機密を遵守できる精神的成熟性と信頼性
⑥ 全てのベースとなる誠実さ

 
下記に少し補足説明も加えます。
 
① 会社の理解、経営・事業戦略の理解、それに加えて外部的な目線とそこからの洞察と見解
各本部・部門の組織リーダーと対峙するには、社内について一定以上精通していることは当然なのですが、Potential Risks(潜在的なリスク)とOpportunities(可能性のある好機)を客観的に提言できて、目先の成果と内向き目線に陥る可能性のある組織リーダーに気づきを与えるためには、「現在」と「これから(未来)」の市場動向を踏まえた外部的な目線を持ち、そこに自身の見解を加えていくことが必要です。
 
② 変革に対する関心・熱意と変革を導く実行プランの策定力と提案力
現状維持に満足するのではなく、違いをもたらすこと・新しいことを導入することの視点と、変えていこうというパッションが伴っていることが重要です。その方が、具体的実行プランの策定がより魂こもったものになります。とは言え、HRBPはスーパーパーソンではないわけで、具体的施策を策定し提案し実行するには、時に、本社HR機能であるCoE(Centre of Excellenceと呼ばれる採用・組織開発・人財開発・制度構築・福利厚生等を担うスペシャリスト集団)に協力を仰ぎ、連携することも重要です。
 
③ 巻き込み含めた実行プロセスの調整力と社内コンフリクトマネジメント力
上記の通り、CoEを効果的に巻き込み、場合によってはHR外の部門や外部リソース等を適切に見極め、全体のゴールとタイムラインから逆算してプランして実行しながらモニタリング・修正を加えていく力は様々なシーンで必要になります。また、社内顧客となる担当本部・部門の組織リーダーからは反発や異なる意見が出ることが頻繁にあります。自身でそのコンフリクトを解決に持っていくこともあれば、コンフリクトを好機と捉えて、ステークホルダーが誰かを見極めて、登場人物を効果的に生かしてコンフリクトから成果に変えて信頼を勝ち取ることも必要になります。私の経験上、これらができると、HRBPからHRトップへの道が大きく近づく可能性になると思います。
 
④ 実行推進の際の背景含めた伝達力とその反応への感度と傾聴力、そしてファシリテーション力
HRが策定した施策を社内展開する際、結構なケースで受け手側の心理的バイアスを伴います。「またHRが何か面倒なことをやろうとしている」「多忙なのにまた何かをやらないといけないのか」といった心理的バイアスです。よって、ただ単に実行内容を無機質に伝えるのではなく、HRBPの介在価値として、その施策の「背景と目的・期待効果」、つまり「Why」を自身の言葉で語れるかが大きな鍵になります。また、それに対する受け手側の反応を繊細に察知し、且つ聴き出す力と傾聴力が伴えば、鬼に金棒です。さらには、多様な社内ステークホルダーから意見を収集し、合意を取りながら推進するには、高いコミュニケーション力と交渉力に加え、意見を引き出しながらバランス良くまとめていく高度なファシリテーション力がものを言います。
 
⑤ 機密を遵守できる精神的成熟性と信頼性
HRが扱う、または知りえる情報は高度な機密を伴うことが多いです。私自身は紙で情報を扱うことはもともとしない傾向なのですが、案外、個人情報・機密情報が紙で扱われたり発行されたりするケースが会社によってはあるかもしれません(例: 人事異動や昇給等の通知書、評価フィードバックシート、労務問題の報告書 etc.)。また、HRBPとして自身が担当する本部・部門の社員の方から、こっそり何かを聞かれることもあったりします。人によっては仕事後に飲食を共にする方もいるのかもしれません。いかなる状況・関係性においても、考慮・配慮をするメンタリティと冷静さが必要です。ふとしたことが信頼を失う可能性につながると肝に銘じておくことは大事です。ただ、それだけだと堅苦しくなるため、同時に、相手をwelcomeする姿勢や雰囲気、自身の人間味を出しておくバランス感覚も成功要因です。
 
⑥ 全てのベースとなる誠実さ
上記に記載した全ての土台となるのは、私は「Integrity(誠実さ)」だと信じております。誠実に、対峙する目の前の事象と人に向き合えるか、です。
 
 
上記を全て見てしまうと「自分には無理だわ。。」と気落ちしてしまうかもしれませんが、再度ですが、HRBPはスーパーパーソンではありません。
上記の中で「自身の強み・優位性」は何かをまずは自分の見えている視点(アイデンティ)と他者に見えている視点(レピュテーション)の双方視点で捉えてみましょう。
 
そのうえで、「自身のキャリアに繋がる強み・成果に繋がりやすい強み・行動特性」に対して、より一層伸ばす意識と行動を持つことを優先すると良いでしょう。「埋めるべきギャップ・課題点」に対しては、優先順位を付けて、他者からタイムリーに透明性持ってフィードバックをいただきながら、気づきを持つことから気負わずに始めればまずは充分だと思います。
私は、その謙虚なマインドセットと姿勢も、最後に記した「全てのベースとなる誠実さ」の一つだと思います。

そして「情熱」です。
 
「誠実さ」と「情熱」が合わさることこそがシンプルに成功要因なのではないでしょうか。
 
ちなみにですが、HRBP経験を早期に積み、外資系企業2社と日系上場企業1社でHRトップの経験を積めた私は、今、自身で起業して「経営者」という立場を選択しました。それこそ、経営者として大事な要素は、今までの豊富な戦略人事、HRBP経験で培うことができた、この「誠実さと情熱」だと思い、日々邁進しております。同じように、お客様に対峙するアドバイザリー業務、コーチング業務でも、この「誠実さと情熱」を大事にしています。
 
起業して経営者となった今、そして、お客様と向き合う今、そのスタートラインに立ち、つくづくHRBPで良い経験をさせてもらえたと心底思います!

@Unsplash
 


最後に。

 
今回、「戦略人事」「HRBP」の概要と具体的実例をお伝えしました。

予測できない変化の激しい時代だからこそ、組織変革を牽引できるHRの力が必要不可欠になってきます。

それは言い換えると、戦略人事、そしてHRBPが効果的に生きている会社・組織かどうかが、そこの経営戦略と事業戦略の実現の可否を握っているということです。

そう信じているからこそ、私は、2023年3月に、

<Our Purpose>
E
mpower People & Organization
「働く人と組織のイキイキ」を実現する

<Our Mission>
C
reate value through HR
HRの介在で新たな価値を創造する

を掲げて、頭文字の大文字部分を合体させた「EpoCh」を起業したのです。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
 
EpoChが強みとする「組織戦略・人事戦略アドバイザリー」「戦略人事アドバイザリー(HR機能強化 / CHRO代行 / HRBP機能導入 / HRタレント育成・メンター etc.)」に対してご興味を持って頂いた方、ご依頼のある方は、是非当社website内の「Contact」ページよりお気軽にお問い合わせください!
 

<EpoCh公式website> 


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外資系17年(HRトップ 7年)とプライム市場上場企業 Global CHRO(最高人事責任者)経験の私が「誰もが独自性を強みとして持ち、新しい無限の可能性を秘めている」を自身のコーチング哲学に、2023年3月 起業をしました。サポートくださる方々と一緒に日本を元気にしたいです!