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スソノハジメ/ ITサッカー小説家
2020年7月21日 20:18
「驚いた?」 日葵が今度は無邪気な笑顔で拓真に訊いた。 「実は全部見てたんだよね。町田大学との試合も、みんなのVRトレーニングの進捗も」 「えっ?」 拓真は驚きの声をあげながら、パソコンの画面から目を離し、日葵の方を見た。 「日葵は俺が香川県に作ったFC MARUGAMEの学生コーチだった。年齢はお前と同じ、高校2年生だよ。3か月前に血液の病気になってしまって、ここに入院してる
2020年7月20日 22:06
正面口の自動ドアを通り、総合受付が見えた。簡易ではあるが、AI医療機器である「YDx-DI」が全国のドラッグストア内に設置されて以降、医療の状況は一変した。椅子に座り、網膜の写真を撮影するだけで、糖尿病などの初期症状を診断することができる。疾病疑いがある人や、希望者は、医師の立ち合いのもと、ドラッグストア駐車場に停められた総合検診車の中で指先から採血すれば、より高度なAI医療機器のもと、疾病の有
2020年7月19日 22:32
「緑が眩しい」 こんなことを思ったのは初めてだ。これまで感じたことのない透き通った気持ち。まるで自分の心が景色の中に溶けていくようだ。淀みのない緑の先には、互いに寄り添うように重なりあう二つの山が目に入った。なぜだかはわからないが、拓真にはそれが金丸と中岡の姿のように映った。 真言寺駅の改札を出ると、並木道に沿って白のワンボックスカーが停車してあった。リアガラスに「FC MARUGAME
2020年7月13日 17:24
ファミレスの向かいに座ったアユミは、下を向いたままだった。どうやら、先日のオンラインゲームのメンバーの誰かから情報が洩れ、会う約束を破ってバトルロイヤルに興じていたことがばれたらしい。何度か謝罪の言葉は口にしたが、あまり反応はなく、黙ったきりだ。祐二は溜まっていた気持ちを吐き出すように言葉を並べた。 「あのさぁ、自分が嘘ついててこんなこと言える立場じゃないんだけど、正直言って、重いんだよね」
2020年7月12日 22:14
学校から帰ると、祐二は居間でタブレットのスイッチを入れ、床に並行になるように置いた。筋トレ動画がアップロードされるのはそろそろだ。二週間前、初めてアップロードされた映像で、筋トレについての概要が説明された。映像は、中岡監督が内容を説明し、萩中コーチが実演をする形で進む。 「最初の2週間は自重でのトレーニングがメインのため、自宅や公園など、スペースを見つけて行って下さい。2週間を過ぎたら、ジム
2020年7月11日 22:46
須長祐二の携帯が鳴った。画面を見なくても誰からのPINEメッセージかはわかる。彼女のアユミからだ。今日も夕食前の18時ピッタリの時間だった。 「今日もしっかり筋トレやったかな?」 可愛らしいペンギンのキャラクターが腕立て伏せをしているスタンプのあとに、短いメッセージが添えられている。祐二は「バッチリ!」と文章を打ち、親指を立てたスタンプを返した。PINEはすぐさま既読になり、ものの10秒
2020年7月6日 21:28
見晴らしの良い広々としたバルコニーからは、青々とした海が光を反射させているのが一望できた。昨日までの遠征の疲れを癒すつもりで、本を片手に外に出てみたが、内容がちっとも入ってこない。頭を巡るのは、昨日の中岡の言葉ばかりだ。 アンヘルは、リクライニングチェアーに本を置き、しばらく海を見つめた。 「一体なぜ父親は、あのプロジェクトに参加させたのであろうか」 中岡の言葉への疑念は、同時に、
2020年7月5日 20:52
立ち上がりの10分間を観てフォーメーションを変えてきた町田大学に対し、Cyber FCはまったく対応ができなかった。相手のワイドの選手が大きく幅を取り、背後への駆け引きを繰り返すことで両サイドバックの動きを規制され、わずかにできた中盤との空間を使われる展開が続いた。 中央のスペースを支配され、遅れてプレスに出て行けば、それを利用されてワンツーのサポートからサイドを変えられる。サイドでは孤立し
2020年7月4日 21:54
萩中が両手で持つタブレットからは、攻撃シーンと守備シーンの動画がそれぞれ2つずつ流された。どれも15秒ほどの短い動画だが、前半の課題がうまく抽出されたものになっていた。ドローンの力は圧倒的で、俯瞰の映像からは選手たちの細かい動きのすべてが観察できた。 「この映像の編集って、萩中さんがやられたんですか?ドローンの撮影をしながら?」拓真が萩中に問いかけた。 「それは無理だよ。ドローンを操作しな