エドガワハナコ

都内の小さな会社で事務をやっています。愛犬と小説、コーヒーを飲みながらドーナツやクッキ…

エドガワハナコ

都内の小さな会社で事務をやっています。愛犬と小説、コーヒーを飲みながらドーナツやクッキーを食べるのが好きです。定期的に小説を投稿してみたいと思っています。Twitter→https://twitter.com/edghnk

記事一覧

小説・青木ひなこの日常(1)

午後はオフィスの気温が上がる。 肌寒いと思っていた秋が終わり、寒さが二段階ほどギアを上げたばかりの十二月初旬、冬の間にさらに寒くなるだろうからと、ダウンジャケッ…

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ボール遊びの絵・フェリックス・ヴァロットン

ポストカードは義母から届いた荷物の中に入っていた。美術館でよくみかける絵画のもので、表にはいつもどおり、達筆で季節の挨拶と、送るものについての説明と、夫と私を気…

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小説・うちの犬のきもち(22)・犬

膝に犬を乗せている。いつも左腕を枕にされて、犬の鼻息があたる。膝の上は重さも暖かい。それは幸せなことだ。犬の頭に口をつける。犬が顔を上げて、わたしの顔をぺろりと…

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小説・うちの犬のきもち(21)・ぼくの仕事

ハル君の家で話したことを、ママンに話した。 ママンはちょっと首をかしげていた。すぐには分からなくても、ママンはいつか分かってくれるはずだ。これまでもぼくの訴えを…

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小説・うちの犬のきもち(20)・仕事論

「ハル君、この前、ぼくの仕事って、何かなって考えたんだ。最初は、パトロールとか、遊んだり食べたり寝たりすることだと思ったんだよね。え、それだけって、思うでしょ?…

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小説・うちの犬のきもち(19)・仕事

ママンは会社で働いてお金をもらわないと生きていけないみたいな言い方をする。ママンの現実はそうなのだと思う。休日出勤したり家に仕事を持ち帰るママンに不平不満を言う…

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小説・うちの犬のきもち(18)・不在

河川敷の鳥の鳴き声に、きょうはかっこうが混じっていた。「かっこう」、「ギョエーっ」と鳴くキジ、「ホーロロロケキョケキョ」はウグイスかな。いつもの週末の夕方の散歩…

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小説・うちの犬のきもち(17)・旅行

庭のバラの花は、なんという種類か知らないけれど、薄いピンクで、外側の花びらは白く、一枚一枚の花びらの形が丸くて、たくさん花びらがあって、花ぜんたいも丸っこい。も…

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小説・うちの犬のきもち(16)・母の日

もうすぐ母の日なのだそうだ。 外は雨で、ぼくは散歩に行けずに自宅警備をしている。窓の外の様子を眺める。おばあちゃんが手入れをする庭は、今日は雨に濡れた土の匂いが…

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小説・うちの犬のきもち(15)・犬を飼うこと

ゴールデン・ウィークに入ったというのに、ママンは家でお仕事をする。家事の空き時間に仕事をしようとするから、朝起きて一時間、ぼくと散歩に行って掃除や洗濯を済ませ、…

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小説・うちの犬のきもち(14)・テレビについてのぼやき

うちのみんな、テレビに釘付けだ。 スコットランドでゴールデンレトリーバーの祭典というのがあるらしく、犬と飼い主たちが楽しく踊っているらしい。それから日本の女優さ…

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小説・うちの犬のきもち(13)・努力

旅行好きのおばあちゃんが、隣の駅の始発電車に乗りたいからと、早朝、パパンとママンと車で隣の駅まで送ることになった。駅でおばあちゃんを見送った後、パパンとママンと…

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小説・うちの犬のきもち(12)・桜の季節

最近のママン、平日の帰りは遅いけど、土曜日と日曜日をちゃんと休んでいる。どういう事情があったのかは知らないけれど、そういうのって悪くないと思う。 だから、金曜の…

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小説・うちの犬のきもち(11)・冷戦

パタンと静かにドアが閉まった。 ママンはひとりで一階に降りていった。 部屋に残ったパパンはひとりでiPadを見ている。 せっかくの土曜日なのに。 冷戦、というやつだ。 …

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小説・うちの犬のきもち(10)・生きていく上でのおおきな問題

今日は降らない予報だとママンが言うけれど、空気はずいぶんしっとりしている。 「洗濯もの、どうしようかな」 ママンはぼくの後ろでぶつぶつ言っている。朝のお散歩に出…

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小説・うちの犬のきもち(9)・もしも・・・

きょうはひとりでお留守番。 天気が良いから、土手の方に散歩に行ってみることにする。 家の鍵をかけて、元気よく土手に向かう。横断歩道をてくてく歩く。 「あら、しーち…

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小説・青木ひなこの日常(1)

小説・青木ひなこの日常(1)

午後はオフィスの気温が上がる。

肌寒いと思っていた秋が終わり、寒さが二段階ほどギアを上げたばかりの十二月初旬、冬の間にさらに寒くなるだろうからと、ダウンジャケットやヒートテックを着るのはまだ躊躇われ、寒さになれない身体をどうにか、薄いウールのコートだけで通勤してきた。

数日前に二十歳も年下の若い同僚ふたりに今日のランチに誘われて、二時間ほど前、青木ひなこは喜んで出かけた。若い同僚ふたりと、ひな

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ボール遊びの絵・フェリックス・ヴァロットン

ボール遊びの絵・フェリックス・ヴァロットン

ポストカードは義母から届いた荷物の中に入っていた。美術館でよくみかける絵画のもので、表にはいつもどおり、達筆で季節の挨拶と、送るものについての説明と、夫と私を気にかけてくれる言葉が書かれている。

その絵は、屋外の景色を斜め上から見下ろす構図になっている。日が当たる場所があり、子供が画面の真ん中あたりを左から右奥に向かって走る姿があり、先に赤いボールがある。子供は麦わら帽子を被り、白い服を着て、茶

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小説・うちの犬のきもち(22)・犬

小説・うちの犬のきもち(22)・犬

膝に犬を乗せている。いつも左腕を枕にされて、犬の鼻息があたる。膝の上は重さも暖かい。それは幸せなことだ。犬の頭に口をつける。犬が顔を上げて、わたしの顔をぺろりと、挨拶のように舐める。それからため息みたいな鼻息をして左腕のまくらに頭を戻す。

三十分くらいすると犬は膝から降りて一度のびをして、隣に座りなおし、顎を膝に乗せてくる。上目遣いでちらりとこちらを見るので、犬の身体をなでる。犬は満足そうに体重

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小説・うちの犬のきもち(21)・ぼくの仕事

小説・うちの犬のきもち(21)・ぼくの仕事

ハル君の家で話したことを、ママンに話した。

ママンはちょっと首をかしげていた。すぐには分からなくても、ママンはいつか分かってくれるはずだ。これまでもぼくの訴えを、分かってくれてきた。すぐには分からなくて、少し時間がかかることもある。それは10分後のこともあれば、数週間後、数ヶ月後なんてこともある。

たとえば、ぼくが大きくて元気のよい犬が苦手なことなんかはなかなか分かってくれなかった。大きな犬が

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小説・うちの犬のきもち(20)・仕事論

小説・うちの犬のきもち(20)・仕事論

「ハル君、この前、ぼくの仕事って、何かなって考えたんだ。最初は、パトロールとか、遊んだり食べたり寝たりすることだと思ったんだよね。え、それだけって、思うでしょ? ことばにするとそれだけのことかもしれないけど、ことばにならないこともたくさんあるんじゃないかな、って考えたんだよ。

人間の仕事は誰かに認めてもらってお金をもらうとか、お金をもらわなくても誰かの助けになっているとか、ただ自分のための作業で

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小説・うちの犬のきもち(19)・仕事

小説・うちの犬のきもち(19)・仕事

ママンは会社で働いてお金をもらわないと生きていけないみたいな言い方をする。ママンの現実はそうなのだと思う。休日出勤したり家に仕事を持ち帰るママンに不平不満を言うと、パパンが、しーちゃん、ママンがこうやって頑張っているから、しーちゃんも美味しいごはんが食べられるんだよ、とか言う。そういうのを「昭和」って言うらしい。ハル君に聞いた。

パパンが言うことは、パパンの本心でもなければ、ママンの本心でもない

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小説・うちの犬のきもち(18)・不在

小説・うちの犬のきもち(18)・不在

河川敷の鳥の鳴き声に、きょうはかっこうが混じっていた。「かっこう」、「ギョエーっ」と鳴くキジ、「ホーロロロケキョケキョ」はウグイスかな。いつもの週末の夕方の散歩。河川敷のグラウンドでは、いつものようにサッカーだとか野球だとかやっている、きょうは、めずらしくクリケットというスポーツをやっていた。拡声器で長々と挨拶と表彰をしているのか、みんなときどき歓声をあげていた。日本語ではなく、どこかの国の言葉だ

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小説・うちの犬のきもち(17)・旅行

小説・うちの犬のきもち(17)・旅行

庭のバラの花は、なんという種類か知らないけれど、薄いピンクで、外側の花びらは白く、一枚一枚の花びらの形が丸くて、たくさん花びらがあって、花ぜんたいも丸っこい。もっさり咲いて(というのは情緒を知らないママンの言葉)、近所の人が声をかけていく。
「きれいなバラですね」散歩中のおじいさんがバラを見て立ち止まり、庭の手入れをしているうちのおばあちゃんの姿に言う。
「ありがとうございます」
「写真撮っても良

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小説・うちの犬のきもち(16)・母の日

小説・うちの犬のきもち(16)・母の日

もうすぐ母の日なのだそうだ。

外は雨で、ぼくは散歩に行けずに自宅警備をしている。窓の外の様子を眺める。おばあちゃんが手入れをする庭は、今日は雨に濡れた土の匂いがして、庭の花も葉も土も植木鉢もどうやら喜んでいるようだ。
雨も悪くない。好きではないけど。

この季節は、空気が湿って、気温が高くなる。晴れの日は夏みたいに暑くなり、雨の日はじめっとしている。雨が多いと散歩も短くなる。雨の切れ目には、近所

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小説・うちの犬のきもち(15)・犬を飼うこと

小説・うちの犬のきもち(15)・犬を飼うこと

ゴールデン・ウィークに入ったというのに、ママンは家でお仕事をする。家事の空き時間に仕事をしようとするから、朝起きて一時間、ぼくと散歩に行って掃除や洗濯を済ませ、朝ご飯の後に一時間半、買い物から帰ってきて三十分、お昼ご飯の後に一時間、という具合に細切れ時間にしかできずに、捗らず、終わらせようと思っていた仕事が終わらなかったりするみたいだし、チーム全体で対応するためにだれかに連絡が必要だったりして、後

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小説・うちの犬のきもち(14)・テレビについてのぼやき

小説・うちの犬のきもち(14)・テレビについてのぼやき

うちのみんな、テレビに釘付けだ。
スコットランドでゴールデンレトリーバーの祭典というのがあるらしく、犬と飼い主たちが楽しく踊っているらしい。それから日本の女優さんが現地のブリーダーさんの家を訪れる。人懐っこいゴールデンレトリーバーが女優さんにおもちゃを見せびらかせにくる。そのおうちは、とてもステキなところで、広い庭と、牧場みたいに広い裏庭がある。家の中も、庭も、手入れが行き届いているんだそうだ。女

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小説・うちの犬のきもち(13)・努力

小説・うちの犬のきもち(13)・努力

旅行好きのおばあちゃんが、隣の駅の始発電車に乗りたいからと、早朝、パパンとママンと車で隣の駅まで送ることになった。駅でおばあちゃんを見送った後、パパンとママンとぼくは大きな公園まで車で行ってみることにした。

大きな公園は、早朝だからか、ほとんど人がいない。
今日は晴れる予報だけれど、空気はまだ湿っている。暖かくなりそうな予感がする。
桜は半分くらい葉が出ていて、地面には桜の花びらがじゅうたんみた

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小説・うちの犬のきもち(12)・桜の季節

小説・うちの犬のきもち(12)・桜の季節

最近のママン、平日の帰りは遅いけど、土曜日と日曜日をちゃんと休んでいる。どういう事情があったのかは知らないけれど、そういうのって悪くないと思う。

だから、金曜の夜、寝る前に、ママンの横でじっと伏せをしてママンを見つめてみる。そうするとママンが「どうしたの、しーちゃん」と聞いて撫でてくれるのだ。撫でてもらったら、ころんとしてお腹を見せて、寝落ちするにまかせる。ママンがスマホをいじったり、文庫本を読

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小説・うちの犬のきもち(11)・冷戦

小説・うちの犬のきもち(11)・冷戦

パタンと静かにドアが閉まった。
ママンはひとりで一階に降りていった。
部屋に残ったパパンはひとりでiPadを見ている。
せっかくの土曜日なのに。

冷戦、というやつだ。
パパンとママンの。

きっかけは・・・遡ると、ママンの帰りがずっと遅いし休日出勤もする、ってところだと思う。

…そもそも、二年前からママンが玄関をリフォームしたい、扉も鍵も変えて、ついでに靴箱をもっと大きく使い勝手の良いものにし

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小説・うちの犬のきもち(10)・生きていく上でのおおきな問題

小説・うちの犬のきもち(10)・生きていく上でのおおきな問題

今日は降らない予報だとママンが言うけれど、空気はずいぶんしっとりしている。

「洗濯もの、どうしようかな」

ママンはぼくの後ろでぶつぶつ言っている。朝のお散歩に出る前に洗濯機をスタートさせ、帰ったら干す予定なのだ。

「外に干すべきか、室内に干すべきか・・・外か内か、それが問題だ、うーむ」

ママンにとってのおおきな問題みたいだ。

おおきな問題、っていうと、おおきな使命を背負った主人公みたいだ

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小説・うちの犬のきもち(9)・もしも・・・

小説・うちの犬のきもち(9)・もしも・・・

きょうはひとりでお留守番。
天気が良いから、土手の方に散歩に行ってみることにする。
家の鍵をかけて、元気よく土手に向かう。横断歩道をてくてく歩く。
「あら、しーちゃん、こんにちは」山田さんちの前を通るとき、ちょうど庭の手入れをしていた山田さんに声をかけられた。
「あ、こんにちは。良い天気ですね」窓の内側に山田さんちの柴犬さんとチワワさんがいて、ふたりともスッと起き上がり姿勢を正した。
「ほんとねぇ

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