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デッドリフト、およびそのバリエーションとアスレティックパフォーマンス

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文等を簡単にまとめたものです

※フォームに関してはほとんど扱っていません

【本ページの簡単なまとめ】
▷デッドリフトは様々なバリエーションがあるが,それぞれどのように筋活動が生じているのかは,研究デザインの不一致などもあり統合されづらい
▷ヘックスバーでのデッドリフトはバーの軌道が安定しやすいという点で安全性が高く,さらにアスリートのパワー向上に効果的である可能性がある

1.はじめに

デッドリフトはバーベルトレーニングの中でもとりわけ重要になる種目(いわゆるBIG3)のひとつで,一般的には下背部~臀部のトレーニング効果があると考えられている
さらに,一口にデッドリフトといってもバリエーションが豊富なので,まずベーシックなフォームを指導すればその他様々なメニューを指導しやすくなる

その一方で,適切なフォームで行わなければ腰背部に傷害をもたらす可能性が高くなる
特に初めのうちは大きな負荷を扱う事もないため,「なんとなく挙げられる」状態が続くが,このフェーズで適当な挙げ方をしていると後で手痛いしっぺ返しを食らう事になる(経験談)
⇒適切なフォームを指導者は獲得している必要がある
適切なフォームに関しては(玉石混淆だが)セミナーなどで体得しておくのが望ましいかもしれない
書籍レベルではMark Rippetoe氏のものがこれ以上ないくらい丁寧に説明されている(ステマではないが,一度は読んでおくと良いかもしれない)


また,その名前が示すとおりデッドリフトはBIG3の中でも「キツい」メニューとしばしば捉えられ,ある意味では筋的なトレーニングという側面に加えて心理的なトレーニングにもなる(かもしれない)

本ページでは,そのようなデッドリフトに関して,まずは筋活動という生理学的部分から確認していき,アスレティックパフォーマンスに対する効果を検討することとしたい


2.デッドリフトの動作に関する研究レビュー

【他種目との比較
デッドリフト単独というよりはその他の下肢のレジスタンストレーニング種目や,デッドリフトの他バリエーションとの比較の中で検討されている研究が多い
(そもそも研究の目的を考えれば当たり前と言えば当たり前だが)

(a) Ebbenら(2009)の研究*1
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある20人(M11,F9)
対象筋:大腿二頭筋(BF)・大腿直筋(RF)・外側広筋(VL)の%MVIC(RMSとpeak)
比較種目:デッドリフト(DL)・ステップアップ・スクワット・ランジ・レッグエクステンション

〈結果〉
▷DLは,BFにおいて他種目に比べて有意に筋活動が活性化されていた(RMS: p<0.0001 peak: p<0.001)
▷RF・VLにおいては,他種目に比べてDLで有意に筋活動が低かった(それぞれp<0.01 p<0.0001)

(b) Leeら(2018)の研究*2
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある21人の男性
対象筋:BF・RF・大臀筋(GM)のEMG(%Peak),股関節・膝関節・足関節の正味の関節トルク(NJT)
比較種目:デッドリフト(DL),ルーマニアンデッドリフト(RDL)

〈結果〉
▷%Peakにおいて,RDLに対してDLでRFとGMの値が有意に高かった(それぞれp<0.001, p=0.021)
▷BFにおいては有意差がなかった
▷RDLに対してDLでは膝・足関節のNJTが有意に高かった(それぞれp<0.001 p=0.022)

【デバイスによる変化
他種目との比較以上に多いのが,外的な要因(たとえばサーフェス)を変化させることによってどのような変化が生じるか,というもの

(a) Nijemらの研究*3
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある13人の男性
比較:バーベルにチェーン(85%1RMの重さ)を付加した場合としなかった場合
測定:GM・脊柱起立筋(ES)・VLのEMG,地面反力(GRF),RFD

〈結果〉
▷チェーン無しに比べて,チェーンをつけたDLでは,GM上部の活動が有意に低かった(p<0.05)
▷チェーン無しに比べて,チェーンをつけたDLでは,GRFが有意に低かった(p<0.05)


(b) Galpinら(2015)の研究*4
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある12人の男性
比較:バーにエラスティックバンド(2種類の負荷)をつけた場合と,バンド無しの通常通りで実施した場合
測定:フォースプレートによる力,RFD,バーの挙上速度,ピークパワーなど

〈結果〉
▷フォースプレートによって測定された力は,ピーク・平均いずれもバンドをつけて行った2群よりもバンド無しでの実施時の方が有意に高かった
挙上速度(ピーク・平均)は,バンド無しに比べてバンド負荷ありで実施した際に有意に高くなり,さらにそれはバンドの負荷を高めた場合にさらに有意差が見られた
パワー(ピーク・平均)は,バンド無しに比べてバンド負荷ありで実施した際に有意に高かった

また,同じようにバーベルにエラスティックバンドの負荷をかけてデッドリフトを行った場合に,パワーや挙上速度,さらに筋活動がどのように変化するかを研究したものにHeelasら(2019)がある*5
(この研究でも,パワーや挙上速度については同様の結果が示されている)

ここまで見てきたが,Martín-Fuentesらのシステマティックレビューでも指摘しているように対象とする筋やアウトカムが統一されていないため,統合的に活動を考えることは難しいといえる*6


3.ヘックスバーを用いたデッドリフトについて

これも上述したデバイス的要因に入ると思われるが,特に研究が多いため別に項立てする

ヘックスバーとはシャフトの真ん中部分が六角形状になっていて,その中心に自分の身体を置いてリフティングするためのもの(下参照)

※アフィなし

一応シュラッグなどでも使う事は出来るが,主にはデッドリフトの際に用いられる

このバーを用いてデッドリフトを行った時,ノーマルのシャフトに比べてバーの軌道が安定した(=直線になりやすかった)ことがSwintonら(2011)によって示されている*7

スクリーンショット 2020-10-09 213659
スクリーンショット 2020-10-09 213723

上:ノーマルバー 下:ヘックスバー
(画像は同論文より引用)

「バーが前後にブレることで,発揮した力の一部が無駄になる(=だからバーはなるべく一直線に挙げましょう)」,という考えはバーベルのトレーニング(特にスクワットやデッドリフト)における基本的な考えとされているが,この考えに則って考えるのであればヘックスバーでのデッドリフトは非常に効果的なトレーニングと言えるかもしれない

この項では,ヘックスバーを用いる事による活動の変化を見ていく


(a) Camaraら(2016)の研究*8
参加者:デッドリフトの経験のある20人の男性
測定:外側広筋(VL)・大腿二頭筋(BF)・脊柱起立筋(ES)のEMG,ピーク地面反力(GRF),ピークパワー(PP),ピーク速度(PV)

〈結果〉
▷ノーマルバーベルと比較して,ヘックスバーでの実施中はコンセントリック局面・エキセントリック局面いずれも,VLの筋活動が有意に大きかった
コンセントリック局面におけるBF,エキセントリック局面におけるESの筋活動については,ノーマルバーベルの方が有意に大きかった
▷ノーマルバーベルに対して,ピークGRF,PP,PVは全てヘックスバーでの実施中の方が有意に大きかった

(b) Andersenら(2018)の研究*9
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある13人の男性
測定:大臀筋(GM)・大腿二頭筋(BF)・脊柱起立筋(ES)のEMG
※ノーマルデッドリフト・ヘックスバーデッドリフトに加えて,ヒップスラストも比較対象としている

〈結果〉
▷BFの筋活動は,ヘックスバーに比べてノーマルバーでの実施時に有意に大きかった(上昇フェーズ,下降フェーズともに)
▷ESについては有意差が見られなかった

(c) Lockieら(2018)の研究*10
参加者:レジスタンストレーニングの経験のある31人(M:21 F:10)
測定:それぞれの1RM,挙上距離・時間,パワー(ピーク・平均),出力(フォース,ピーク・平均),仕事量

〈結果〉
▷ノーマルバーに比べて,ヘックスバーでは挙上距離が短く,1RMが大きかった(有意差あり)
▷ノーマルバーに比べて,ヘックスバーではピークパワー,平均パワー,ピーク出力,平均出力が有意に大きかった
▷仕事量のみ,ノーマルバーに比べてヘックスバーで有意に小さかった

仕事量が小さかったのは挙上距離が短かったからだと思われるが,(a)や(c)といった結果をふまえるとヘックスバーでの実施はパワーの向上という側面では効果的である可能性がある
また,安全性も高いためインシーズンのレジスタンストレーニングでの導入はその意味でも良いと言えるかもしれない


※あくまで私見だが,デッドリフトを行うことの重要な意義の一つに,腹筋群を収縮させて下背部を安定させる運動を学習させるという効果もあるだろう

この観点に立つと,外的要因によって安全性を確保するヘックスバーデッドリフトはコアのスタビリティという観点からはむしろ推奨されないと言えるかもしれない

なので,たとえばヘックスバーを用いるのは筋力向上を目的として行われる比較的高負荷のデッドリフトのみとして,筋肥大や解剖学的適応を目的として中程度の負荷で行う場合はノーマルバーで行う,という使い分けも良いかもしれない
(そもそもデッドリフトを筋肥大の目的で使うかどうかはとりあえず置いておいて)



【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション
◇デッドリフトについて(本ページ)

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪
ハムストリングスの肉離れのアスレティックリハビリテーション

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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*引用・参考

1.Ebben, W. P., Feldmann, C. R., Dayne, A., Mitsche, D., Alexander, P., & Knetzger, K. J. (2009). Muscle activation during lower body resistance training. International journal of sports medicine, 30(1), 1–8. https://doi.org/10.1055/s-2008-1038785

2.Lee, S., Schultz, J., Timgren, J., Staelgraeve, K., Miller, M., & Liu, Y. (2018). An electromyographic and kinetic comparison of conventional and Romanian deadlifts. Journal of exercise science and fitness, 16(3), 87–93. https://doi.org/10.1016/j.jesf.2018.08.001

3.Nijem, R. M., Coburn, J. W., Brown, L. E., Lynn, S. K., & Ciccone, A. B. (2016). Electromyographic and Force Plate Analysis of the Deadlift Performed With and Without Chains. Journal of strength and conditioning research, 30(5), 1177–1182. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000001351

4.Galpin, A. J., Malyszek, K. K., Davis, K. A., Record, S. M., Brown, L. E., Coburn, J. W., Harmon, R. A., Steele, J. M., & Manolovitz, A. D. (2015). Acute Effects of Elastic Bands on Kinetic Characteristics During the Deadlift at Moderate and Heavy Loads. Journal of strength and conditioning research, 29(12), 3271–3278. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000000987

5.Heelas, T., Theis, N., & Hughes, J. D. (2019). Muscle Activation Patterns During Variable Resistance Deadlift Training With and Without Elastic Bands. Journal of strength and conditioning research, 10.1519/JSC.0000000000003272. Advance online publication. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000003272

6.Martín-Fuentes, I., Oliva-Lozano, J. M., & Muyor, J. M. (2020). Electromyographic activity in deadlift exercise and its variants. A systematic review. PloS one, 15(2), e0229507. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0229507

7.Swinton, P. A., Stewart, A., Agouris, I., Keogh, J. W., & Lloyd, R. (2011). A biomechanical analysis of straight and hexagonal barbell deadlifts using submaximal loads. Journal of strength and conditioning research, 25(7), 2000–2009. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181e73f87

8.Camara, K. D., Coburn, J. W., Dunnick, D. D., Brown, L. E., Galpin, A. J., & Costa, P. B. (2016). An Examination of Muscle Activation and Power Characteristics While Performing the Deadlift Exercise With Straight and Hexagonal Barbells. Journal of strength and conditioning research, 30(5), 1183–1188. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000001352

9.Andersen, V., Fimland, M. S., Mo, D. A., Iversen, V. M., Vederhus, T., Rockland Hellebø, L. R., Nordaune, K. I., & Saeterbakken, A. H. (2018). Electromyographic Comparison of Barbell Deadlift, Hex Bar Deadlift, and Hip Thrust Exercises: A Cross-Over Study. Journal of strength and conditioning research, 32(3), 587–593. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000001826

10.Lockie, R. G., Moreno, M. R., Lazar, A., Risso, F. G., Liu, T. M., Stage, A. A., Birmingham-Babauta, S. A., Torne, I. A., Stokes, J. J., Giuliano, D. V., Davis, D. L., Orjalo, A. J., & Callaghan, S. J. (2018). The 1 Repetition Maximum Mechanics of a High-Handle Hexagonal Bar Deadlift Compared With a Conventional Deadlift as Measured by a Linear Position Transducer. Journal of strength and conditioning research, 32(1), 150–161. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000001781

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