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ハムストリングス肉離れとアスレティックリハビリテーション

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです
※具体的なアスリハの種目については詳細に説明していません


筋損傷の中でも肉離れは特に多く,その中でも特にハムストリングスの肉離れは非常に多い
さらにハムストリングス肉離れは再受傷が決して少なくない
今回はそのようなハムストリングス肉離れについて,その原因やアスリハのプロトコルについて諸研究を参照していく

※以降は,ハムストリングス肉離れを「ハムストリングス損傷」とも表記するが,定義としては同じとする

今回扱うトピックは以下の通り


◇肉離れはハムストリングスの他にどこで好発するか
◇ハムストリングス肉離れの危険因子は何か?
◇ハムストリングス肉離れを予測するための方法はあるか?
◇ハムストリングス肉離れに対しては,どのようなアスリハが重要になるか
◇ハムストリングス肉離れについて,客観的な復帰基準はあるか?


1.ハムストリングス損傷の要因・疫学調査等

下肢の肉離れはハムストリングスのほか下腿三頭筋,大腿四頭筋などが好発部位としてあげられ,その割合としては以下のようになっている*1

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肉離れでハムストリングスが多い原因に関しては,たとえばハムストリングスが羽状筋かつ二関節筋であること,などが指摘されている*2
また,同様の文献では,ハムストリングス肉離れの受傷パターンに関しては,主に次の2パターンに大別できるとしている

◇ブレーキの瞬間にハムストリングスが力強く収縮することによるスプリントパターン
◇膝伸展位+骨盤前傾による股関節屈曲によって力強く伸張されることによるストレッチパターン

※ハムストリングスの各筋のPCSA,羽状角,筋線維長(筋束長ではない)は以下の通り*3

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また,Ericksonら(2017)によるレビューでは,ハムストリングス損傷とその疫学・原因に関して複数の研究を参照して以下のように示している*4

◇スプリントやキックなど,高速で行われる動作が含まれる競技で起こりやすい(e.g. サッカー,ラグビー,陸上競技,アメリカンフットボール)
◇男性は,女性に比べて約64%起こしやすい
◇スプリントにおいては,スピードが上昇するにつれてハムストリングスが発揮する力は大きくなる
◇スピードが80%→100%へと変化する時,大腿二頭筋の活動は約67%増加するが,一方半腱様筋・半膜様筋においては約37%しか増加を示さない
◇ハムストリングスが極端に伸張される競技(ダンスなど)では,半膜様筋で好発していた

特に下から2つめに記載した,スプリントでスピードを上げた際,特に大腿二頭筋の活動量が増えるという報告は興味深い


2.ハムストリングス損傷のリスクファクター①

肉離れのリスクファクターについては多くの要因が可能性として挙げられているが,一致したコンセンサスが得られていない

これに関して,Greenら(2020)のメタ分析では,複数の要素について,それらがハムストリングス肉離れのリスクとなるかどうかを検討した*5

〈検討した要素〉
年齢・伸長・体重・BMI・直近のハムスト肉離れ(HSI)受傷・HSIの既往歴・ACL損傷の既往歴・下腿の筋損傷の既往歴・The Nordic Hamstringによる発揮トルク(絶対・体重比)・等速性筋力(60・300deg/s,con/ecc,Hamst/QFについてそれぞれ)

〈結果〉
上の因子について,有意に大きな影響を及ぼしたものは以下の4つであった

直近のHSI受傷:リスク比(RR)=4.8,p<0.001
HSIの既往歴:RR=2.7,p<0.001
ACL損傷の既往歴:RR=1.7,p=0.002
下腿の筋損傷の既往歴:RR=1.5,p<0.001

これらを踏まえると,ハムストリングス肉離れのリスクファクターとしては,同じく「ハムストリングス肉離れの既往歴」が特に大きいことがわかる


これらの結果に関して推定されるバックグラウンドとしては,ハムストリングス損傷をはじめとした下肢の損傷が,ハムストリングスの各筋の形態を変化させるという事実が挙げられるのではないかと考えられる

たとえば,Timminsら(2015)は,36人の男性(うち16人はハムストリングス損傷の既往あり)を対象として,ハムストリングス損傷の既往がその後のBFlhの形態に影響を及ぼすかどうかを,後ろ向き研究デザインで調査した*6
筋厚・羽状角・筋束長・筋厚/筋束長を,それぞれ膝屈曲における0/25/50/75%MVICの力発揮時に調べた

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これと同じような結果が,Timminsら(2017)でも示されている*7
当研究では,オーストラリアンフットボール選手30人(うち12人は過去12ヶ月以内にBFlhの損傷を受傷した者)を対象として,先の研究と同様のデザインで調査を行った

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この2つの結果からは,「ハムストリングス損傷の既往歴は,(少なくとも)BFlhの筋束長の短縮をもたらす」という可能性が考えられる


逆に,「BFlhの筋束長の短縮が,その後のハムストリングス損傷のリスクファクターとなるか?」という点についても同氏により研究がなされている*8

当研究では,152人のサッカー選手を対象として,筋束長や遠心性収縮での発揮筋力などが,シーズン中のハムストリングス損傷のリスクファクターとなるかを,前向きコホート研究デザインで調査している

〈結果〉
シーズンを通して,27件のハムストリングス損傷が報告された

✔受傷群で,非受傷肢と受傷肢を比べた時,受傷肢ではBFlhの筋束長が非受傷肢に対して有意に短かった(9.85±1.3 vs. 8.51±1.0 p<0.01)
✔対照群の両下肢平均と,受傷群の受傷肢でBFlhの筋束長を比べた時,受傷群の受傷肢で有意に短かった(11.20±1.2 vs. 9.85±1.3 p<0.01)
✔対照群の両下肢平均と,受傷群の受傷肢で膝屈筋の遠心性収縮筋力を比べた時,受傷群の受傷肢で有意に小さかった(309.5±73.4 vs. 260.6±82.9 p=0.004)
✔また,膝屈筋の遠心性収縮トルクを比べた時も,受傷群の受傷肢で有意に小さかった(135.5±37.7 vs. 115.2±37.1 p=0.008)


また,各要因とハムストリングス損傷に関してロジスティック回帰分析を行ったところ,統計的有意差が認められたのは以下の変数であった

✔BFlhの筋束長…<10.56cm (RR=4.1 p<0.01)
✔BFlhの筋長に対する筋束長比…<0.254 (RR=3.7 p<0.01)
✔25%MVICでのBFlhの筋束長…<9.61cm (RR=3.2 p<0.01)
✔膝屈筋の遠心性収縮筋力…<337N (RR=4.4 p<0.01)
✔トルク…<145Nm (RR=3.6 p<0.05)
✔相対筋力…<4.35N/kg (RR=2.5 p<0.05)
✔相対トルク…<1.85Nm/kg (RR=2.9 p<0.05)

この結果は,ハムストリングス損傷の既往歴が,その後のハムストリングス損傷のリスクファクターとなる理由の一角であると考えられる
(最も,これまで見てきた研究は全て,BFlhの筋束長などを超音波によって観察しているが,近年ではその方法の信頼性が今ひとつである可能性も示唆されている*9・10)


また,ACL損傷の既往については,同氏により半腱様筋腱を用いたACL再建術を行った選手は,対側に比べて羽状角が大きかったことが示されている*11


3.ハムストリングス損傷のリスクファクター②

本項では,特によくリスクファクターのように使われる因子に関して検討する

「柔軟性が低いと肉離れしやすくなるよ」という言説はしばしば耳にするが,本項ではそのようによく使われる因子が,真にリスクファクター(あるいは予測因子)となるかを検討する


Ⅰ.柔軟性

van Dykら(2018)は,438人のサッカー選手(601PS,player seasons)を対象として,足関節の背屈可動域と受動的な膝伸展可動域が,HSIの予測因子となり得るかを検討した*12

〈結果〉
601PSのうち,78件のハムストリングス損傷が報告された

✔多変量Cox回帰分析の結果,Passive knee extension test(PKET,ハザード比HR=0.97,p=0.008)とAnkle dorsiflexion test(ADT,HR=0.93,p=0.02)は障害シルクと独立して関連していた
✔この2つの変数に関してROC曲線での分析を行ったところ,AUCはそれぞれPKETで0.52,ADTで0.61となり,予測の精度としては不十分であった

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↑Passive knee extension test (*13に示した論文より引用)

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↑Ankle dorsiflexion test (*14に示した論文より引用)

また,O'Connorら(2019)は,570人のゲーリックフットボール選手を対象として,Active knee extension test(AKET)のスコアがハムストリングス損傷と関連しているかどうかを,前向きコホート研究デザインで調査した*15

〈結果〉
シーズン中には43件のハムストリングス損傷が報告された

ロジスティック回帰分析を行ったところ,
✔利き足ではROC曲線におけるAUCは<0.6であり,カットオフ値を生成できなかった
✔非利き足ではROC曲線におけるAUCは0.62であり,カットオフ値としてAKET<65°が定められた
年齢をコントロールした時,オッズ比は1.03であったが,感度は0%であった


これらの結果を踏まえると,単純に「ハムストリングスが硬くて,このテストでのスコアが○○以下だから肉離れのリスクが高い」というようには一概に決められないといえるかもしれない
(最も直接の因果関係が見られないだけで,何らかの柔軟性の不足による不良動作が肉離れのリスクとなる可能性は否定できない)


Ⅱ.等速性筋力

「H/Q比」というものを用いて,「0.7(一例)を下回ると…」という言説もまたよく聞かれるが,これを含めて等速性筋力のスコアは,ハムストリングス損傷と関係が見られるのか?


まずH/Q比に関する研究を見てみると,たとえばGrygorowiczら(2017)は,サッカー選手66人を対象として,H/Q比について複数のカットオフ値を作成して,その感度・特異度について検討した*16

これによれば,<0.47,<0.6,<0.658と3つのカットオフ値における感度・特異度はそれぞれ有意差が見られ,特定の1つの基準を用いる事は結果に偏りが生じる可能性があるとされる


また,等速性筋力の影響については,Greenら(2018)のメタ分析で以下のように示されている*17

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この結果は,等速性筋力の影響はほとんど利用できない可能性を示唆している


また,ノルディックハムストリングスによって測定される膝屈曲の遠心性収縮筋力の測定に関しても以前から検討がされており,前項で参照した研究でも行われている(詳細は前項後半を参照されたい)

しかし,より最近の研究では受傷者と非受傷者をスクリーニングする要素にはなり得ない可能性を指摘する研究*18もあり,一概に「スコアが○○N以下だから危険」とはいえないと考えられる


(ここまで見てきた意義をひっくり返すようだが)そもそもハムストリングス損傷の要因が複合的である以上,一つの要因を絶対リスクとして挙げることは不可能であると考えられる
その意味では,柔軟性や筋力,動作など多角的に見ていく必要がある


4.ハムストリングス損傷のアスリハについて

ハムストリングス損傷において,その既往が大きなリスクファクターであるというのであれば,競技復帰までの過程で行われるアスリハ(当然それ以前のメディカルリハビリテーションもだが)が非常に重要になると考えられるだろう

本項では,ハムストリングス損傷のアスリハを考える上で基幹となる要素について検討していく

※具体的なプロトコル(保護期には○○,回復期には…といったような具体的なスケジュールに基づいたもの)は扱っていない
おそらくアスレティックリハビリテーションに関する書籍を見れば必ず載っている分野であると考えられるので,詳細はそちらを参照されたい


①AsklingのL-protocolについて

ハムストリングス損傷のアスリハについて考える上では,この部分を確認しておくことは欠かせないと考える

Asklingら(2013)では,ハムストリングス損傷を受傷したスウェーデンの75人のエリートサッカー選手を対象として,異なる2つのアスリハプロトコル(L-protocol vs. C-protocol)を用いた時,復帰までの日数にそれぞれどのような差がみられるかを検討した*19

〈2つのプロトコル〉
①L-protocol
ハムストリングスを伸張させつつ負荷をかけるような動き(遠心性収縮)を取り入れたプロトコル
②C-protocol
従来行われてきたような,股関節伸展・膝関節屈曲の動きがメインとなるプロトコル

※それぞれのプロトコルで用いられたエクササイズは,こちらから確認出来る(映像もダウンロード可能)
⇒ https://bjsm.bmj.com/content/47/15/953

〈結果〉
L-protocol群に37人,C-protocol群に38人割り振られた

✔L-protocol群の復帰までの日数は平均28日,C-protocol群の復帰までの日数は平均51日であり,群間に有意差が見られた(p<0.001)
✔受傷タイプ別(スプリント or ストレッチ)に分けた時も,復帰までの日数はL-protocol群で有意に短かった(p<0.001)

また,副次的に以下のことも示された
✔画像診断で筋腱移行部の損傷が確認された選手※とそうでない選手を比べた時,復帰までに必要な日数は前者で有意に長かった
(L-protocol群,C-protocol群ともに)
※①腱の肥厚,②腱の周囲が高強度信号領域,③腱内が高強度信号領域のうち2つを満たした者と定義
✔MRIで受傷を確定できなかった選手が11人おり,その者は全員L-protocolに割り振られた
その結果,同じくL-protocolに振り分けられた他の選手(=MRIで損傷が確認された選手)に比べて復帰までの日数が有意に短かった(p<0.001)

この研究は,ハムストリングス損傷のアスリハプロトコルにおいてハムストリングスを伸張させる動きを多く取り入れることの重要性を示唆している
(Asklingは同様のデザインで別の対象を設定して研究を行っているが,そこでもほぼ同様の結果が示されている*20)


【参考】
ちなみに,この研究で用いられたL-protocolの3つのエクササイズについて,Severiniら(2018)によって筋活動が調べられている*21

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②ノルディックハムストリングスについて

ハムストリングスに遠心性収縮が入るトレーニングは多くあるが(Stiff legged deadlifやsingle romanian deadliftなど),その中でもノルディックハムストリングスは特にその代表例であり,ハムストリングス損傷におけるアスリハのプログラムとしての有効性なども多く研究されている


ノルディックハムストリングスとハムストリングス損傷について参照する時,おそらくPetersenら(2011)の研究は欠かせないだろう*22

この研究では,デンマークの男子サッカーチーム50チーム(選手数942)を対象として,10週間のノルディックハムストリングスを用いた介入が,介入無しの対照群と比較して次シーズンのハムストリングス損傷の発生件数を低下させるかどうかを検討した(クラスター無作為化デザイン)

〈結果〉

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上表の通り,対照群に対して介入群で有意に受傷件数が少なかった

この結果からは,ノルディックハムストリングスをハムストリングス損傷予防のためのトレーニングとして導入することで,ハムストリングス損傷の受傷件数を有意に低下させることが出来る可能性が考えられる


実際,最近のメタ分析でも,ノルディックハムストリングスの介入によってハムストリングス損傷のリスクを約50%低減することが出来ると示されている(RRで0.49~0.55)*23・24


このようにハムストリングス損傷を低減させるのは,ノルディックハムストリングスによって筋束長や羽状角が変化するためであると考えられる

これについて,Gérardら(2020)のメタ分析では,ノルディックハムストリングスをはじめとした遠心性収縮トレーニングが,大腿二頭筋長頭の形態architectureにどのような影響を及ぼすかを,メタ分析にて検討している*25

ここでは以下のような結果が示されている

・筋束長⇒有意な伸張を示した (MD(Mean Difference)=1.97,p<0.001)

・羽状角⇒有意に小さくなった(MD=2.36,p<0.001)

・筋厚⇒有意に大きくなった(MD=0.10,p<0.001)

・ハムストリングスの遠心性筋力⇒有意に増大した(MD=1.06,P=0.009)

筋束長の短縮や羽状角の拡大(増大?)がハムストリングス損傷のリスクとなる可能性があることは第2項で示したが,ノルディックハムストリングスによる介入がハムストリングス損傷のリスクを大きく低減させると複数の研究で示されているのは,このような形態的変化が一つの要因としてあると考えられる


このように一定の効果が示されているノルディックハムストリングスであるが,具体的にどのボリュームがベストなのかという観点については,コンセンサスが得られていないようである
(一応,ノルディックハムストリングスを含めた遠心性収縮トレーニングについて,低ボリュームでも効果が十分得られる可能性も示されてはいる*26)

参考までに,先に挙げたメタ分析でプールされた研究で用いられたボリュームを以下に掲載する*25

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一番下の数値が平均(2-6などの場合は全て中央値を取った)

普段の筋力トレーニングのプログラムにノルディックハムストリングスを入れることが推奨されるが,このトレーニングは基本的にペアで行うというのがネックとなる

一斉にトレーニングを行う(あるいは行える環境にある)チーム競技であればストレングストレーニングのプログラムに通常通り組み込めば良いが,そうでない場合はペアを見つけられる時にまめに実施する,あるいはチーム競技であればW-upやフィールドトレーニングなどの全体セッションの際に行うようにするのが望ましいと考えられる


5.ハムストリングス損傷後の競技復帰

ハムストリングス損傷は再受傷が決して少なくないという現状があり,その復帰の具体的な基準は非常に重要になる
(早すぎても遅すぎても良くない)


ハムストリングス損傷後の競技復帰に関しては多くのレビューがあるが,たとえばHickeyら(2017)は,9件の研究を対象として以下のようなレビューを行っている*27

H-testを用いた研究では再受傷率が低い傾向にあった
✔アイソキネティックダイナモメーターを用いた研究では復帰までの日数が短い傾向にあった

H-testはAsklingによってその信頼性が評価されたテスト*28
(非検査肢,上半身をベルトでベッドに固定し,検査肢の膝の屈曲を制限するためブレースを装着させた状態でSLR運動を3回行う)

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↑H-test(写真は*28の論文より引用)

この研究では,下肢障害を持たない11人を対象として,H-testの信頼性を評価するとともに,受傷肢・非受傷肢でその可動域に有意差が見られるかどうかを検討した

その結果,以下のことが示された
✔級内装関係数は0.94-0.99,変動係数は0.152-0.453であった
✔可動域は,自動運動においては非受傷肢に比べて受傷肢で有意に小さかった(P<0.05)
✔テストの際,違和感・疼痛をVASスケールで評価したところ
受傷肢→不安感:52(28-98) 疼痛:0(0-38)
非受傷肢→不安感:0 疼痛:0
であった

H-testは高い信頼性を有しており,アスリートの競技復帰基準として,「このテストで不安感や疼痛を自覚しない」という条件を加えるのが有効である可能性がある


また,Ericksonら(2017)のレビューでは,具体的な復帰までのアルゴリズムを示している*4

ハムストリングス2

↑ハムストリングス損傷(HSI)後の復帰までのアルゴリズム(*4の論文の図を引用・改変)

また,同氏はMRIによる画像診断は再受傷の予測因子とはなり得ないとして,臨床的な評価が必要になるとしている


【補足】
Single leg bridge test(SLBT)は,Freckletonら(2014)によってその試行上限回数とハムストリングス損傷の関係性について調査されている*29
(また,その信頼性については級内相関係数で,検者内0.77-0.89,検者間0.89-0.91と高い信頼性があるとされている*30)

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↑Single leg bridge test(*29の論文より引用,当論文ではSingle leg hamstring bridgeとされているが同義)

この研究では,オーストラリアンフットボール選手482人を対象として,SLBTの最大repsとハムストリングス損傷の受傷の関連性について,前向き研究デザインで調査を行った

調査の結果,以下のことが示された
✔右ハムストリングスを損傷した選手は,右SLBTのscoreが非受傷者に比べて有意に小さかった(20.31 vs. 25.98 p=0.029)
左ハムストリングスの受傷に関しては,有意差は見られなかった
ハムストリングス損傷の既往歴がある選手は,既往のない選手に比べてSLBTのscoreが有意に小さかった(右:22.48 vs. 26.8 p=0.001 左:21.01 vs. 26.63 p<0.001)
また,膝部傷害の既往でも同じ傾向が見られた(右:p=0.001 左:p=0.008)
✔左右ハムストリングス損傷のリスクファクターについて,ロジスティック回帰分析を行ったところ,左では「左が利き足であること」は大きなリスク比を示した(RR=8.664 p<0.001)
右では統計的有意差の見られるリスクファクターは同定できなかった


ハムストリングス損傷の要因は多岐に渡るうえ,それぞれが各因子に影響を及ぼす可能性も否定できないため,上で示したアルゴリズムのように複数の要因をクリアする必要があると考えられる
(ハムストリングスの筋力,体幹筋群の筋持久力,神経筋の制御機能etc…)


6.まとめ

今回の内容をまとめると以下の通り

✔ハムストリングス肉離れは,下肢傷害において特に多い

ハムストリングス損傷の既往は,ハムストリングス肉離れ受傷の最も大きなリスクファクターであると考えられる

✔現状の研究の概観の限り,柔軟性や等速性筋力など特定の一要素のみを引き出して受傷の予測を立てることはほぼ不可能だと考えてよい

✔受傷後に行われるアスリハでは,特にハムストリングスを伸張させる動きを多く取り入れる事が重要になる
(もちろん組織修復が十分に行われていることは前提)

ノルディックハムストリングスは,ハムストリングス損傷の受傷リスクを約50%低減させると考えられている

✔ハムストリングスの基本的な機能回復の指標として,H-testを用いる事は有効であると考えられる


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション

デッドリフト

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪
◇ハムストリングスの肉離れのアスレティックリハビリテーション(本ページ)

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
マガジンはこちら


【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.アスレティックリハビリテーションガイド

ハムストリングス肉離れの他にも数多くの頻発する傷害について解説している

2.スポーツリハビリテーションの臨床

競技別の記載があるのが嬉しい


*注
1.奥脇透 (2016). 「肉離れの現状」『臨床スポーツ医学』34(8), pp.744-749

2.福林徹,武冨修治 (2018). アスレティックリハビリテーションガイド:競技復帰・再発予防のための実践的アプローチ, 文光堂

3.Ward, S. R., Eng, C. M., Smallwood, L. H., & Lieber, R. L. (2009). Are current measurements of lower extremity muscle architecture accurate?. Clinical orthopaedics and related research, 467(4), 1074–1082. https://doi.org/10.1007/s11999-008-0594-8

4.Erickson, L. N., & Sherry, M. A. (2017). Rehabilitation and return to sport after hamstring strain injury. Journal of sport and health science, 6(3), 262–270. https://doi.org/10.1016/j.jshs.2017.04.001

5.Green, B., Bourne, M. N., van Dyk, N., & Pizzari, T. (2020). Recalibrating the risk of hamstring strain injury (HSI): A 2020 systematic review and meta-analysis of risk factors for index and recurrent hamstring strain injury in sport. British journal of sports medicine, 54(18), 1081–1088. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-100983

6.Timmins, R. G., Shield, A. J., Williams, M. D., Lorenzen, C., & Opar, D. A. (2015). Biceps femoris long head architecture: a reliability and retrospective injury study. Medicine and science in sports and exercise, 47(5), 905–913. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000000507

7.Timmins, R. G., Bourne, M. N., Hickey, J. T., Maniar, N., Tofari, P. J., Williams, M. D., & Opar, D. A. (2017). Effect of Prior Injury on Changes to Biceps Femoris Architecture across an Australian Football League Season. Medicine and science in sports and exercise, 49(10), 2102–2109. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000001333

8.Timmins, R. G., Bourne, M. N., Shield, A. J., Williams, M. D., Lorenzen, C., & Opar, D. A. (2016). Short biceps femoris fascicles and eccentric knee flexor weakness increase the risk of hamstring injury in elite football (soccer): a prospective cohort study. British journal of sports medicine, 50(24), 1524–1535. https://doi.org/10.1136/bjsports-2015-095362

9.Franchi, M. V., Fitze, D. P., Raiteri, B. J., Hahn, D., & Spörri, J. (2020). Ultrasound-derived Biceps Femoris Long Head Fascicle Length: Extrapolation Pitfalls. Medicine and science in sports and exercise, 52(1), 233–243. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000002123

10.Behan, F.P., Vermeulen, R., Smith, T., Arnáiz, J., Whiteley, R., Timmins, R., & Opar, D. (2019). Poor agreement between ultrasound and inbuilt diffusion tensor MRI measures of biceps femoris long head fascicle length. Translational Sports Medicine, 2, 58 - 63.

11.Timmins, R. G., Bourne, M. N., Shield, A. J., Williams, M. D., Lorenzen, C., & Opar, D. A. (2016). Biceps Femoris Architecture and Strength in Athletes with a Previous Anterior Cruciate Ligament Reconstruction. Medicine and science in sports and exercise, 48(3), 337–345. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000000783

12.van Dyk, N., Farooq, A., Bahr, R., & Witvrouw, E. (2018). Hamstring and Ankle Flexibility Deficits Are Weak Risk Factors for Hamstring Injury in Professional Soccer Players: A Prospective Cohort Study of 438 Players Including 78 Injuries. The American journal of sports medicine, 46(9), 2203–2210. https://doi.org/10.1177/0363546518773057

13.Gnat, R., Kuszewski, M., Koczar, R., & Dziewońska, A. (2010). Reliability of the passive knee flexion and extension tests in healthy subjects. Journal of manipulative and physiological therapeutics, 33(9), 659–665. https://doi.org/10.1016/j.jmpt.2010.09.001

14.Bennell, K. L., Talbot, R. C., Wajswelner, H., Techovanich, W., Kelly, D. H., & Hall, A. J. (1998). Intra-rater and inter-rater reliability of a weight-bearing lunge measure of ankle dorsiflexion. The Australian journal of physiotherapy, 44(3), 175–180. https://doi.org/10.1016/s0004-9514(14)60377-9

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