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アスリートのための食事⑤~ビタミン・ミネラル~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

第1回→アスリートのための食事①~カロリー収支・カロリーバランスについて~
第2回→アスリートのための食事②~五大栄養素・炭水化物~
第3回→アスリートのための食事③~タンパク質~
第4回→アスリートのための食事④~脂質・ケトジェニックダイエット・栄養戦略~

1-1.ビタミンの種類と機能

ビタミンとは,
代謝や神経学的プロセスの調整,細胞の破壊を防ぐなどといった役割を果たす有機化合物を指す
体内でほとんど合成できないため,食餌による摂取が必須

ビタミンの種類は,大別すると脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分けられる

脂溶性→ビタミンA・D・E・K
水溶性→上以外のビタミン(ビタミンB群・C・葉酸・パントテン酸・βカロテン)

脂溶性は貯蔵性が高いために過剰摂取に注意する必要があり,水溶性は排出性が高いために不足や欠乏に注意する必要がある

各ビタミンにはそれぞれ役割があるが,アスリートにおいてエルゴジェニックな効果をもたらすのかという点に関しては多くのビタミンで一貫したコンセンサスが得られていない
が,その役割を考えたときにアスリートに特に意識して欲しいビタミンというのはある

食事資料22
食事資料23
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※上表に含まれる情報は,全てISSNによるレビューを参考とした*1

この分類はあくまで私見であり,通常の量を摂取する必要がないと言っているわけではない

特にビタミンB群に関しては,追加摂取ではエルゴジェニックな効果を示せていないものが多いが,本来の生理的機能である代謝補助という観点から重要性を高くおいている
実際,ビタミンB群の摂取状態が悪いか,あるいは摂取量が少ない場合,高強度の運動の際のパフォーマンスが低下している可能性があることがWoolfらのレビュー(2006)によって示されている*2

それ以外のビタミンも,アスリートとしてパフォーマンスを高めるためというよりも健康状態を維持するために必要量をしっかりと摂取する必要がある


【補足】
マルチビタミンは一般的に健康維持の為に摂取することが推奨されてきたが,最近ではマルチビタミンの摂取は心血管疾患(CVD)イベントや非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,致死的CVDのリスクを低減させることはないということがJAMA(米国医師会)によって示された*3

これに関して,Macphersonら(2013)によるメタ分析においてもマルチビタミン/ミネラルのサプリメントを摂取することは死亡リスク減少に効果がないことが示されたり*4,また逆にJenkinsら(2018)のメタ分析においては,CVDや脳卒中に対する葉酸の効果は認められるが,ビタミンDは効果がなく,最終的にマルチビタミンはこれらのイベントによる死亡リスクを減少させる効果はわずかにはあるとされたりしており*5,結果は混在している

ただし,基本的にサプリメントに関しては(きちんとした販売元から販売されている物であれば)規定量を守れば害は無いであろうと推察できるので,アスリートがマルチビタミンのサプリメントを摂取しようかどうか悩んでいる場合,ある程度は手放しで摂取を推奨しても良いかもしれない
(もちろん,日常の食事でしっかりと微量栄養素を摂ろうと意識できていることが前提とはなる)

1-2.抗酸化作用と筋損傷

人間が空気中の酸素を取り入れたときに,その内数%は活性酸素種(ROS,reactive oxygen species)と呼ばれる物質へと変化する

ROSが過剰に増加することによって生じるストレスを酸化ストレスと呼び,運動や喫煙などによって人体が生理的に持ちうる抗酸化能力を超えた時に生じる

ROS自体は生体分子を酸化させる悪玉でもあるが生体防御にも利用される善玉でもあり,いわゆる「諸刃の剣」のような役割を果たす

運動の強度や種類によって,ROSの生成量や酸化ストレスは変化する

・強度→VO2maxが高い方が酸化ストレスマーカーは高まる
・種類→持久走よりもスプリントの方が高まった
レジスタンストレーニングにおいては伸張性筋収縮において特にCK(クレアチンキナーゼ)活性が高まり,これによって二次的な酸化ストレスの増大があると考えられる

酸化ストレスと筋損傷の関係性については多く研究されており,様々な食品を対象としてその抗酸化能力や運動誘発性筋損傷(EIMD)の予防能力が研究されている

たとえば直近の研究だと,ラットを対象として,梅酢が乳酸脱水素酵素やGSH-Px(グルタチオンペルオキシダーゼ,抗酸化物質のひとつ)を高めたとされる研究や(Kimら,2020)*6,マンゴスチンの果汁を濃縮した飲料がSOD(スーパーオキシドディスムターゼ,抗酸化物質のひとつ)やGSH-Px,CAT(カタラーゼ,抗酸化物質のひとつ)の活性を高めたことを示した研究(Changら,2020)*7などがある

さらに,Domaら(2020)は,フルーツの摂取によって,24時間後の筋損傷マーカー・炎症性マーカー・酸化ストレス指標が有意に低下したことをメタ分析にて示した*8
(このメタ分析に含まれる研究の多くはcherry(サクランボ)を用いていたため,それを積極的に摂取するのはアリかもしれない)

その一方で,サッカー選手においてビタミンCやEといったいわゆる「抗酸化ビタミン」の追加摂取は酸化ストレスを減少させることはできたものの,EIMDのマーカー減衰やパフォーマンスの改善を起こすことはなかったとする研究もある(de Oliveiraら,2019)*9

RDA以上を摂取することはおそらく必要ないかもしれないが,RDAレベルは確実に摂取することが望ましいといえる
特にビタミンEに関しては脂溶性ビタミンであり,過剰摂取は悪影響となる可能性もある

2.ミネラルの種類と機能

身体を構成する物質のうち,主要四元素(酸素・炭素・水素・窒素)以外のもの全てを指す
無機質とも呼ばれる

多くのミネラルが,ミネラル間で相互作用を有しており,欠乏するとパフォーマンスの低下だけでなく,身体状態の悪化も招く(過剰摂取も当然×)

食事資料26
食事資料27
食事資料28

特に夏場に起きる,いわゆる「熱中症」を予防するためには体液のバランスを維持するというのが非常に重要な要素であり,その意味でナトリウムは特に重要といえる

ACSMのガイドラインとしては,ナトリウムは1時間あたり300~600mg摂取出来る状況にするのが望ましいとされる

いずれにしろ,ミネラルにおいて重要なのは過不足無く必要量を摂取することだといえる

結.今回のまとめ

・ビタミンもミネラルも微量栄養素であり,どうしても意識として欠けがちだが必要な栄養素

・マルチビタミンのサプリメントはどうしても野菜などが不足しがちなアスリートにおいては有益だと考えられる

抗酸化物質は体内の酸化ストレスを抑え,筋痛の抑制などに働く可能性がある

・ミネラルにおいては,特に夏場の運動中にはナトリウムやカリウムの不足による熱中症を防ぐことが最も重要


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル(本ページ)

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.NSCAスポーツ栄養ガイド

網羅的にスポーツ栄養が解説されている書籍が少ないので貴重

2.Essentials of Exercise & Sport Nutrition: Science to Practice (English Edition)

洋書,ただしボリューム・クオリティは非常に高いと思われる
英語への抵抗がないなら是非持っておきたい(Kindle版もある)


*注
1.Kerksick, C.M., Wilborn, C.D., Roberts, M.D. et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. J Int Soc Sports Nutr 15, 38 (2018). https://doi.org/10.1186/s12970-018-0242-y

2.Woolf, K., & Manore, M. M. (2006). B-vitamins and exercise: does exercise alter requirements?. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 16(5), 453–484. https://doi.org/10.1123/ijsnem.16.5.453

3.Sesso, H. D., Christen, W. G., Bubes, V., Smith, J. P., MacFadyen, J., Schvartz, M., Manson, J. E., Glynn, R. J., Buring, J. E., & Gaziano, J. M. (2012). Multivitamins in the prevention of cardiovascular disease in men: the Physicians' Health Study II randomized controlled trial. JAMA, 308(17), 1751–1760. https://doi.org/10.1001/jama.2012.14805

4.Macpherson, H., Pipingas, A., & Pase, M. P. (2013). Multivitamin-multimineral supplementation and mortality: a meta-analysis of randomized controlled trials. The American journal of clinical nutrition, 97(2), 437–444. https://doi.org/10.3945/ajcn.112.049304

5.Jenkins, D., Spence, J. D., Giovannucci, E. L., Kim, Y. I., Josse, R., Vieth, R., Blanco Mejia, S., Viguiliouk, E., Nishi, S., Sahye-Pudaruth, S., Paquette, M., Patel, D., Mitchell, S., Kavanagh, M., Tsirakis, T., Bachiri, L., Maran, A., Umatheva, N., McKay, T., Trinidad, G., … Sievenpiper, J. L. (2018). Supplemental Vitamins and Minerals for CVD Prevention and Treatment. Journal of the American College of Cardiology, 71(22), 2570–2584. https://doi.org/10.1016/j.jacc.2018.04.020

6.Kim, J. H., Cho, H. D., Won, Y. S., Hong, S. M., Moon, K. D., & Seo, K. I. (2020). Anti-Fatigue Effect of Prunus Mume Vinegar in High-Intensity Exercised Rats. Nutrients, 12(5), E1205. https://doi.org/10.3390/nu12051205

7.Chang, C. C., Chen, C. W., Owaga, E., Lee, W. T., Liu, T. N., & Hsieh, R. H. (2020). Mangosteen Concentrate Drink Supplementation Promotes Antioxidant Status and Lactate Clearance in Rats after Exercise. Nutrients, 12(5), E1447. https://doi.org/10.3390/nu12051447

8.Doma, K., Gahreman, D., & Connor, J. (2020). Fruit supplementation reduces indices of exercise-induced muscle damage: a systematic review and meta-analysis. European journal of sport science, 1–36. Advance online publication. https://doi.org/10.1080/17461391.2020.1775895

9.de Oliveira, D., Rosa, F. T., Simões-Ambrósio, L., Jordao, A. A., & Deminice, R. (2019). Antioxidant vitamin supplementation prevents oxidative stress but does not enhance performance in young football athletes. Nutrition (Burbank, Los Angeles County, Calif.), 63-64, 29–35. https://doi.org/10.1016/j.nut.2019.01.007



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