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アスリートのための食事②~五大栄養素・炭水化物~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

前回→アスリートのための食事①~カロリー収支・カロリーバランスについて~

1.五大栄養素の役割と食事の形

基本的にアスリートであれレクリエーションレベルの人であれ,五大栄養素をバランス良く摂ることが非常に重要になる

よく言われるのは,以下のような分類でそれぞれの役割が果たされている
・炭水化物・脂質→エネルギーとなる(=ガソリン)
・タンパク質→身体を作る(=ボディ・エンジン)
・ビタミン・ミネラル→機能の調整(=オイル・潤滑油)

アスリートはビタミンやミネラルの重要性を,どうしても三大栄養素の下に置きがちであるが,これらはアスリートとしてパフォーマンス云々ではなく,人間の生理的メカニズムを円滑に行うという点で重要であるという点は強調すべき
(もちろん,ビタミンの中には「アスリートは特に意識して摂るべき」とされる栄養素もあるが,それはあくまで基準値+αによる効果を意味するのであり,その他の微量栄養素が基準値を下回って良いわけではない)

五体栄養素をバランス良く摂れる食事の基本形としてよく言われるのがフルコース型の食事
これは,
・主食(炭水化物源として)
・主菜(主にタンパク質・脂質源として)
・副菜(主にビタミン・ミネラル源として)
・乳製品(カルシウムをはじめとしたミネラル・ビタミン源として)
・果物(ビタミンCをはじめとしたビタミン・糖質・食物繊維源として)

の5つに食物を分類して,それを一度の食事で全てカバーするという食事の基本形を表す(詳しくはJOCの説明を参照されたい→joc.or.jp/column/playersupport/athletemeal/20050804.html)

これは食事の基本の型として,アスリートはもちろん全ての人が意識すべきことかもしれない

普段の食事を全てこの型に当てはめるのは相当厳しいだろうが,たとえばこの型に可能な限り近づけたり,ビュッフェ形式の食事場面でこれを意識することができたりするようになるという点で,これは重要
(端的に言えばこの型そのものも大事だが,意識の啓発という点でも重要ということ)

2-1.糖質の役割

※ここからは特にエネルギー源としての糖質の方に着目するため,炭水化物に関しては「糖質」という表記に統一する

アスリートにおいて,糖質は最も重要なエネルギー源となる
(これ以降の内容に関して,ケトジェニックダイエットはちょっと例外なので今回は横に置いておく)

食事資料3

解糖系は,ATP-PCr系・酸化系と並ぶ人体の代謝経路で,グルコース1分子で嫌気状態で2ATP,好気状態で38ATP産生することができる

嫌気的解糖系は,ATP-PCr系と合わせて無酸素性運動を行う際に行われ,およ90秒程度持続すると言われている
パワー系アスリートにおいてはこの代謝経路が非常に重要(酸化系はATPの産生量は高いが,多量のATPを得るまでに時間がかかる&嫌気状態では酸化が起こせないため)

また,肝臓のグリコーゲンは体温の維持など基本的な生命活動の維持に必要なものだが,筋グリコーゲンが枯渇すると自然と肝グリコーゲンを分解してグルコースを得ようとする
⇒短期的な肝グリコーゲンの枯渇はパフォーマンスの低下や疲労度の増長などを招く

2-2.糖質の必要量

一般人であれば3~5g/kg体重/日でおおよそOKだが,アスリートであればより多量必要になる(運動によるグルコースの消費が激しいため)

競技スポーツに従事するアスリートに向けたガイドラインのひとつに,Burkeら(2001)のものがある*1

食事資料4

また,Cermakら(2013)は,アスリートの糖質摂取に関して以下のように結論づけている

①2時間以上持続する中~高強度の運動の途中に糖質(炭水化物)を摂取することによって,持久力のパフォーマンスが大幅に改善する

②①に当てはまるとき,糖質の摂取は60g/hが目安となる
ただし良く訓練された持久系アスリートであれば90g/hまでは代謝できる

③24時間以内に次の競技(運動)セッションがある場合,なるべく早く(急性の回復期)に1.2g/kg/h摂ることが望ましい

④③に関して,この量を摂るのが厳しい場合は,糖質の量を少し減らしてその分タンパク質を追加(たとえば,0.8g/kg/hの糖質+0.2-0.4g/kg/hのタンパク質の同時摂取)することで同様の効果が得られる可能性がある(これに関しては後述)

つまるところ,おおよその摂取目安量は決まっている
(必要以上に摂っても健康な人体であれば脂肪となるだけなので大きな問題は無いが,PFCバランスの調整が難しくなる)

ISSNのレビューではCermakらの結論をもとに,運動直後の糖質摂取に関して以下のように論じる*3

In these situations, the absolute delivery of carbohydrate (> 8 g of carbohydrate/kg/day or at least 1.2 g of carbohydrate/kg/hour for the first four hours into recovery) takes precedence over other strategies such as those that may relate to timing or concomitant ingestion of other macronutrients (e.g., protein) or non-nutrients (e.g., caffeine) or carbohydrate type (i.e., glycemic index).
(意訳:これらの状況では,他のマクロニュートリエント(たとえばタンパク質)または非栄養素(カフェイン)の同時摂取,または炭水化物の種類(グリセミック指数など)といったあらゆる戦略よりも,炭水化物の絶対的な送達(8g/kg/日以上,または回復までの4時間で少なくとも1.2g/kg/h)が優先される)

ちなみに,補足的な研究ではあるがサッカー選手の食生活の傾向に関してメタ分析を行ったStefflら(2019)は,サッカー選手はタンパク質は推奨値を上回っていたのに対して,糖質(炭水化物)の摂取量は推奨値よりも下回っていたことを報告した*4
⇒トレーナーや指導者レベルでは,改めて糖質の重要性をコーチングする必要性を示唆しているといえる
チームレベルで食事指導するときには十分使えるかも?

2-3.糖質の摂り方あれこれ

・タンパク質との同時摂取

先述したように,タンパク質と糖質を同時摂取することでパフォーマンス向上に寄与できることが多くの研究で示されている

(2020.06.09追記)たとえば,Alghannamら(2018)のレビューでは,回復期の糖質摂取が≦0.8g/kgである場合,タンパク質を0.3~0.4g/kg追加的に摂取すると筋グリコーゲンの再合成速度が糖質単体を1.2g/kg摂取したときよりも向上したことを示している*10

画像3

上図は*10の論文より引用,実線が糖質単体,破線が糖質+タンパク質の摂取をそれぞれ示す

・カフェインとの同時摂取

カフェインと同時摂取することで,わずかではあるが糖質(炭水化物)単独で摂取するよりも持久性パフォーマンスを有意に向上させることが,Congerら(2011)によるメタ分析で明らかになった*5

ただし,糖質のパフォーマンスの影響に関してはエネルギーバランスの状態が非常に大きく,カフェインとの同時摂取に関して行われた他の研究では,エネルギーバランスが負の状態では持久性パフォーマンスに影響を及ぼさないと示唆した研究もある*6

・糖質を溶かした水で口をゆすぐことによる効果

糖質を直接摂取せずとも,口に含んで軽くゆすぐだけでも糖質を摂取するのとある程度同様の効果が得られる可能性があることが示唆されてきた

たとえば,Bastos-Silvaら(2019)による研究では,糖質溶液で口をゆすぐことによって,プラセボ群に対してベンチプレスの反復回数が有意に増加したことを示した*7

しかし,その逆の結果を示す研究もあり,Painelliら(2011)による研究では,口ゆすぎをした群はプラセボ群と比較して,ベンチプレスの1RM・反復回数を有意に増加させることはなかったという結果を示した*8

より最近のBrietzkeら(2019)によるメタ分析では,糖質溶液による口ゆすぎは,サイクリングにおける持久性パフォーマンスについて,平均出力では有意な改善が見られたが,運動持続可能時間を改善することはなかったと示した*9

このような結果を踏まえると,競技中などにおけるパフォーマンスの改善として選択肢のひとつとしては考えられるが強く推奨するべきものでもないというのが現状での結論かもしれない
(素直に飲めばいいのでは?という考えを言ってしまうと身も蓋もないので今回は置いておく)

結.今回のまとめ

・五大栄養素は何よりも重要なので,アスリートに向けてトレーナーレベルで栄養に関して指導しなければならない場合はこの話からするべき
(サプリメントなどはあくまで基本栄養素を補うものであって,基本の食事での摂取を疎かにしていいものではないということ)

・糖質は一般的なアスリートにおいては最も重要なエネルギー源となる一方,サッカー選手を例にとると意外とその重要性は認識されていない可能性がある

・競技種目や体重などによって必要になる糖質の量は異なるため,個別のアプローチの必要性が改めて示唆された

・競技が終わったあとのリカバリーとしては,骨格筋や肝臓のグリコーゲン貯蔵量を回復させるために,1.2g/kg/hの糖質,あるいは0.8g/kg/hの糖質と0.2-0.4g/kg/hのタンパク質の複合のいずれかを選択すべき


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物(本ページ)
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.ストレングストレーニング&コンディショニング[第4版]


2.NSCAスポーツ栄養ガイド


3.Essentials of Exercise & Sport Nutrition: Science to Practice (English Edition)


*注
1.Burke, L. M., Cox, G. R., Culmmings, N. K., & Desbrow, B. (2001). Guidelines for daily carbohydrate intake: do athletes achieve them?. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 31(4), 267–299.

2.Cermak, N.M., van Loon, L.J.C. The Use of Carbohydrates During Exercise as an Ergogenic Aid. Sports Med 43, 1139–1155 (2013).

3.Kerksick, C.M., Wilborn, C.D., Roberts, M.D. et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. J Int Soc Sports Nutr 15, 38 (2018).

4.Steffl, M., Kinkorova, I., Kokstejn, J., & Petr, M. (2019). Macronutrient Intake in Soccer Players-A Meta-Analysis. Nutrients, 11(6), 1305.

5.Conger, S. A., Warren, G. L., Hardy, M. A., & Millard-Stafford, M. L. (2011). Does caffeine added to carbohydrate provide additional ergogenic benefit for endurance?. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 21(1), 71–84.

6.Slivka, D., Hailes, W., Cuddy, J., & Ruby, B. (2008). Caffeine and carbohydrate supplementation during exercise when in negative energy balance: effects on performance, metabolism, and salivary cortisol. Applied physiology, nutrition, and metabolism = Physiologie appliquee, nutrition et metabolisme, 33(6), 1079–1085.

7.Bastos-Silva, V. J., Prestes, J., & Geraldes, A. (2019). Effect of Carbohydrate Mouth Rinse on Training Load Volume in Resistance Exercises. Journal of strength and conditioning research, 33(6), 1653–1657.

8.Painelli, V. S., Roschel, H., Gualano, B., Del-Favero, S., Benatti, F. B., Ugrinowitsch, C., Tricoli, V., & Lancha, A. H., Jr (2011). The effect of carbohydrate mouth rinse on maximal strength and strength endurance. European journal of applied physiology, 111(9), 2381–2386.

9.Brietzke, C., Franco-Alvarenga, P. E., Coelho-Júnior, H. J., Silveira, R., Asano, R. Y., & Pires, F. O. (2019). Effects of Carbohydrate Mouth Rinse on Cycling Time Trial Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 49(1), 57–66.

10.Alghannam, A. F., Gonzalez, J. T., & Betts, J. A. (2018). Restoration of Muscle Glycogen and Functional Capacity: Role of Post-Exercise Carbohydrate and Protein Co-Ingestion. Nutrients, 10(2), 253. https://doi.org/10.3390/nu10020253

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