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スクワットに関する研究あれこれ③ ~スクワットの深さについて~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

第1回→スタンスについて
第2回→マシンかフリーか,バックかフロントか
◆第3回→深さ(クォーターか,パラレルか,フルか)
第4回→バーポジション(ハイバーか,ロウバーか)

0.スクワットを理解する上で重要になるポイント

1.スタンス:足幅はどの程度にするか?
2.マシンかフリーか,フリーならばバックかフロントか
3.深さをどこまで下げるべきか
4.バーポジションをどうするか(ロウバー&ハイバー)

いくつか考えられるが,おおよそこのあたりが重要になる
1~3についてはレビューによる検討がなされている*1
(以下この文献を参照する際には「レビュー」と表記する)

3-1.スクワットの深さと筋活動について

※当たり前の事だが,スクワットの深さ(depth)が深くなればなるほど,扱える負荷は小さくなる

レビューにおいては,パーシャルスクワット(フルではないスクワットとする)に対してフルスクワットでは大臀筋の活性が大きくなったことを示したCaterisanoら(2002)の研究が示されている*2

別の研究として,膝伸筋・股関節伸筋・足底屈筋の3つの筋群活動の違いについて,深さと負荷の2変数との関係を示したBryantonら(2012)の研究がある*3

スクワット資料7

この結果を実践に活かすとすれば以下のような事が言えるか?
大腿四頭筋の筋力を増大させるためには深さが必要
・逆に足底屈筋(主に腓腹筋?)の筋力を増大させるためにはパーシャルスクワットを選択して,より重い負荷を扱う必要があるのではないか
(カーフレイズでいいじゃんというのは今回は横に置いておく)

たとえばレクリエーションレベルで,「ふくらはぎを太くしたい」という要望がある場合はパーシャル・高負荷で行うのは十分な選択になるかもしれないが,アスリートであれば股関節の運動様式的にも深さを深くするのが望ましいのではないか?(いわゆる「ヒップドライブ」の意識)

この結果をサポートするもうひとつの研究が,Kuboら(2019)の研究*4

スクワット資料8

つまるところ,
フルSQでのパフォーマンス向上は,それより浅いいかなるパーシャルスクワットのパフォーマンスにも転移できる可能性がある
・↑の逆は起きないが,同じ深さでのスクワットのパフォーマンスは大きく向上する(SAIDの法則によって解釈が可能)
・膝伸筋の筋量増大に関しては,ハーフもフルも変わらない
股関節伸筋の筋量増大は圧倒的にフルSQで大きくなる(それぞれのスクワットの股関節の運動を比べることで解釈が可能か)

3-2.スクワットの深さとパワーへの影響

アスリートにおいて特に重要になるのが,パワーへの影響であり,これに関してはHartmannら(2012)の研究が参考になるかもしれない*5

スクワット資料9

これはクォータースクワットではジャンプパフォーマンス(≒パワー)に与える影響は少なく,パワーを意識したトレーニングを行うのであればフロントであれバックであれ可能な限り深さを深くする必要があることを示唆しているといえる

これと似たような結果を,Pallarésら(2020)も示している*6
(この研究で興味深いのは,パラレルよりも浅いハーフスクワット群においてのみ,痛みやこわばりなどの身体機能障害の指標が有意に増加したという事だが,今回の要旨から外れそうなのでこれ以上は割愛)

3-結.スクワットの深さの選択

結論としては,特別な要求が無い限りはフルスクワットを選択することが望ましいと考えられる(特にアスリートは,パワー産生力の向上という面は無視できない)

さらに,可動域を最大限に用いる事で,典型的なコンディショニングプログラムであるスタティックストレッチと同様のストレッチング効果を得ることができると示したMortonら(2011)の研究も参照すれば*7,フルスクワットを選択することは柔軟性の向上という側面からも有益であると考えられる

前述のPallarésらの研究を参照すれば,おそらく健常なクライアントであればフルスクワットによる傷害のリスクはほとんど少ないと考えられるが,そうでないクライアントである場合はまた別の選択肢を考える必要があることは忘れてはならない


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ(本ページ)
 ・バーポジション

デッドリフト

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪
ハムストリングスの肉離れのアスレティックリハビリテーション

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.スターティングストレングス第3版 Basic Barbell Training

いわゆるBIG3についてはここに全て記載されているし,正直これさえあれば他の書籍は不要ともいえる
座学として学ぶのであれば間違いなく最強の本


*注
1.Clark, Dave R.; Lambert, Mike I.; Hunter, Angus M. Muscle Activation in the Loaded Free Barbell Squat: A Brief Review, Journal of Strength and Conditioning Research: April 2012 - Volume 26 - Issue 4 - p 1169-1178

2.Caterisano, A., Moss, R. F., Pellinger, T. K., Woodruff, K., Lewis, V. C., Booth, W., & Khadra, T. (2002). The effect of back squat depth on the EMG activity of 4 superficial hip and thigh muscles. Journal of strength and conditioning research, 16(3), 428–432.

3.Bryanton, M. A., Kennedy, M. D., Carey, J. P., & Chiu, L. Z. (2012). Effect of squat depth and barbell load on relative muscular effort in squatting. Journal of strength and conditioning research, 26(10), 2820–2828. 

4.Kubo, K., Ikebukuro, T., & Yata, H. (2019). Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes. European journal of applied physiology, 119(9), 1933–1942.

5.Hartmann, H., Wirth, K., Klusemann, M., Dalic, J., Matuschek, C., & Schmidtbleicher, D. (2012). Influence of squatting depth on jumping performance. Journal of strength and conditioning research, 26(12), 3243–3261. 

6.Pallarés, J. G., Cava, A. M., Courel-Ibáñez, J., González-Badillo, J. J., & Morán-Navarro, R. (2020). Full squat produces greater neuromuscular and functional adaptations and lower pain than partial squats after prolonged resistance training. European journal of sport science, 20(1), 115–124. 

7.Morton, S. K., Whitehead, J. R., Brinkert, R. H., & Caine, D. J. (2011). Resistance training vs. static stretching: effects on flexibility and strength. Journal of strength and conditioning research, 25(12), 3391–3398. 

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