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スクワットに関する研究あれこれ④ ~バーポジション・これまでのまとめ~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

第1回→スタンスについて
第2回→マシンかフリーか,バックかフロントか
第3回→深さ(クォーターか,パラレルか,フルか)
◆第4回→バーポジション(ハイバーか,ロウバーか)

0.スクワットを理解する上で重要になるポイント

1.スタンス:足幅はどの程度にするか?
2.マシンかフリーか,フリーならばバックかフロントか
3.深さをどこまで下げるべきか
4.バーポジションをどうするか(ロウバー&ハイバー)

いくつか考えられるが,おおよそこのあたりが重要になる
今回は今まで用いていたレビューにはない情報になる

今回は研究も少ないので短め

4-1.バーポジションによる筋活動の違い

そもそもこれに関する研究があまり多くないが,古くはハイバーとロウバーのスクワットにおける膝関節・股関節にかかるトルクの大きさを比較したWretenberg(1996)らの研究がある

スクワット資料10

ロウバースクワットではハイバーよりも股関節へかかる力が大きくなる(≒股関節伸筋の増強につながる可能性)

これと似たような結果がGlassbrookら(2017)のレビューでも言及されている
つまり,
・ハイバースクワットでは特に大腿四頭筋の筋活動が大きい
・ロウバースクワットでは特に内転筋・大臀筋の筋活動が大きい

4-2.バーポジションによる運動様式の相違

スクワット資料11

お粗末な図だが,おおよそこのような違いがある
(そもそもの大前提にあるのは,スクワット時のバーベルの重心は基本的に足底のほぼ中央にくるという事)

ハイバーとロウバーで各関節の産生トルクに影響が生じるのは,重心線からのモーメントアームが変化するからためだと推察できる

ハイバーでは膝関節のモーメントアームが極端に長くなるため,膝伸展トルクも増大する
(トルクは外力とモーメントアームの積となるため)

4-結.ハイバー/ロウバーの選択

これまでの研究をまとめると,以下のような基準で選択すると良いかもしれない
大腿四頭筋を鍛えたいのであればハイバー
股関節の伸筋群を鍛えたいのであればロウバー

が,前々回(②)にて「フロントスクワットは大腿直筋の活動が増大する」「体幹が直立に近い状態でのスクワット(=ロウバーよりもハイバーの方が体幹が起きる)の方が大腿直筋の活動が増大する」という研究を参照したが,これも加味して考えた場合,大腿直筋をはじめとした膝伸筋群を強化することを目的とした場合,果たしてハイバーバックスクワットとフロントスクワットではどちらが効率的なのか?という疑問が生じる

が,アスリートであればやはり股関節の運動という側面は捨てがたく,ロウバーで実施するよう指導したいためこの疑問はややナンセンスかもしれない

投げやりな言い方になってしまうが,意地でも四頭筋を鍛え上げたいというのであればレッグエクステンションをプラスして追い込むというのでも良いのではないか(超個人的な感想のため要検討)

5.これまで4回のまとめ

スクワットは可変要素が非常に多く,クライアントのニーズに応えるためにあらゆる選択肢を知っておくことが重要だと考えられる

以下は健常な(=下肢に傷害を抱えていない)アスリートを対象にした場合に推奨される選択

・スタンスは基本的にワイドスタンス(肩幅よりも広い),つま先は約30°外側を向かせる
・スミスマシンやハックスクワットマシンは,フリーウエイトと同等に有効である可能性があるが,バランスパフォーマンスの適応という点を考えるとフリーウエイトでの実施が望ましいかもしれない?
・股関節の運動という側面を考慮して,深さについてはフルスクワット(パラレルよりも下げるスクワット)で行うべき
パワー産生力の向上という点でも,少なくともクォータースクワットは効果をもたらさないことが示されている
・同じフルスクワットであれば,フロントでもバックでもパワー産生力の向上という点ではあまり差はない
ただし,バックスクワットで特にバーを背中の低い位置(ロウバー)にすると股関節の運動が増大するため,ロウバーで行うことが望ましい(ひとつ上の項目で掲げた理由と同じ)

結論としてはロウバーのバックスクワット(深さフル)をスタンダードとすべきということになるが,これはMark Rippetoe氏も同じようなことを述べておられる*3

あらゆるスタイルのスクワットで,どの筋肉よりも大腿四頭筋に筋肉痛が出る傾向があります。これは大腿四頭筋が唯一の筋の伸展筋群であることが理由です。それに対して,股関節の伸展筋群はハムストリング,大臀筋,内転筋群という3つの筋群で構成され,正しくトレーニングを行えばより多くの筋肉に仕事を分散させることができます。(中略)つまり,ポステリアルチェーンの筋群を最大限に動員して,筋力,パワーが出せるスクワットの方法が必要になります。その方法とは,「ロウバースクワット」です。

引用者注:ポステリアルチェーン=股関節をはじめとした身体の伸展筋群で,身体の前方並進や跳躍で重要になる考え方

今回は基本的なバーベルスクワットについて考えてきたが,それ以外にも様々な可変要素が考えられることは注意を要する
(たとえばユニラテラル⇔バイラテラル,ユニラテラルならブルガリアンスクワットとピストルスクワットの違いなど)


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション(本ページ)

デッドリフト

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪
ハムストリングスの肉離れのアスレティックリハビリテーション

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.スターティングストレングス第3版 Basic Barbell Training

いわゆるBIG3についてはここに全て記載されているし,正直これさえあれば他の書籍は不要ともいえる
座学として学ぶのであれば間違いなく最強の本

*注
1.Wretenberg, P., Feng, Y., & Arborelius, U. P. (1996). High- and low-bar squatting techniques during weight-training. Medicine and science in sports and exercise, 28(2), 218–224. 

2.Glassbrook, D. J., Helms, E. R., Brown, S. R., & Storey, A. G. (2017). A Review of the Biomechanical Differences Between the High-Bar and Low-Bar Back-Squat. Journal of strength and conditioning research, 31(9), 2618–2634.

3.Mark Rippetoe著,八百健吾監訳『スターティングストレングス第3版 Basic Barbell Training』(2019,医学映像教育センター)

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