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アスリートのための食事①~カロリー収支・カロリーバランスについて~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

注意:あくまでこの記事は論文をはじめとした文献の解釈と私見をつづったものであり,絶対の正解を示しているわけではありません
本文中にもある通り,食事に関しては特に個別のニーズに応じる必要があります

0.総論

極めて当たり前の話だが,まず食事で意識すべきは食事・五代栄養素のバランス,カロリー収支であり,細かい要素(炭水化物におけるGI値,高脂質食,ファスティング,ケトジェニックダイエットなど)はその次に考慮すべき事案であると考えられる(もちろん後者を否定する意図を含んでいるわけではない)

また,同じ食事でもアスリートとレクリエーションレベルの人では必要なカロリー量も異なるし,また同じアスリートでも持久力系アスリート(ex.トライアスロン選手)とハイパワー系アスリート(ex.アメリカンフットボールのラインメン)ではまた求められるカロリーバランスも異なる

⇒絶対の正解は存在しないからこそ,その人の特性や活動量などを加味して,個別のニーズに応じる必要がある

とりあえず,ここではアスリートを対象とした場合のある程度普遍的に適用できる情報について参照する

これに関する情報については,ISSN(国際スポーツ栄養学会)が2018年にレビューを掲載しており非常に参考になる*1

また,あくまでトレーナーとしてできる範囲を掲載するになるべくとどめる(トレーナーの役割と栄養の専門家の役割は明確に区分すべき)

1-1.必要カロリーの算出/気をつけること

当たり前だがカロリーに直接関係のある栄養素は炭水化物(糖質)・タンパク質・脂質の3つ(いわゆる三大栄養素)

大前提として,特別な要求が無い限りは摂取カロリーと消費(必要)カロリーのバランスを等しくすればよい
(もちろん現実的には体重を増やしたい,体重を減らしたいというニーズが存在するが,前者であれば摂取カロリーを消費カロリーよりも多くすればよいし,後者ならばその逆にすれば原理的には達成できる)

ここで疑問として生じるのが,果たしてその人の必要エネルギーはどれくらいなのか?ということ

アスリートの必要カロリーに関する研究は,結論がいまだはっきりと出ていない部分も多く,現実的には研究の結果を目安としつつ肌感覚で調整していくのが現実的な食事指導では必要になる

その目安として参考になるひとつの研究が,小清水ら(2005)の研究*2
これはLBM(除脂肪体重)が推定できれば必要エネルギー量が推定できるというもので,以下のような式で表される

必要カロリー量(kcal)=28.5×LBM(kg)×PAL(下表参照)

食事資料1

これはATの教本にも掲載されるほど有名な推定式で,特に基礎代謝量の部分(28.5×LBM)はある程度の精度が保障されているようである

しかしこれを使うにあたっては,個人レベルでどこまで正確なLBMが測定できるのかということは十分注意しなければならない
(ここでの個人レベルとはあくまで一般的なアスリートの環境レベルと考え,トップレベルの環境よりも設備などの面で劣りがちなものと考える)

現状はDXA(Dual Energy X-Ray Absorptiometry)が正確な体組成測定のスタンダードとなっているが,それに比べるとBIAをはじめとしたインピーダンス測定法をアスリートに用いたときの正確性に関する研究は混在している

たとえば,
・アスリートに対して行った足裏から電流を通すBIA(生体電気インピーダンス分析法)は,空気置換型プレティスモグラフィ法に比べると体脂肪率は低く算出された(Ferri-Moralesら,2018)*3
・BIS(生体電気インピーダンス分光法)を用いてアスリートの体組成を測定したとき,DXAに比べて脂肪量が高くなったり低くなったりした(Svantessonら,2008)*4
・BIAはDXAと異なり脂肪量の有効な推定を行うことができず,また過小に評価をする傾向にあった(Loennekeら,2012)*5

などの研究結果がある
いずれにしろ,Loennekeらの研究でも示唆しているように,ある程度の誤差はあるものの個人レベルで簡便に測定できるという点ではBIAは有効であるかもしれない(あくまで目安程度での運用になるかもしれない)
また,部位別に測定できるようなより正確な機械は有効である可能性がある
(Escoら(2015)は,女性アスリートを対象としてDXAとInbody 720を用いて体組成の計測結果を比較しており,ある程度の正確性を示したと結論づけている)*6

NSCA(National Strength&Conditioning Association)の教本的テキストには非常に簡略化した必要カロリー量が書かれているので,これもまたある程度は参考になるかもしれない*7

食事資料2

1-2.カロリー収支とPFCバランスについて

前項でも言ったとおり,必要カロリーを求めたらそれと同じ分のカロリーを摂れば理論的には体重の変化は生じない
(もちろん,必要カロリーも推定式であり摂取カロリーも正確な算出ができない以上,狙ってその状態にするのはほぼ不可能)

当たり前の話だが,摂取カロリーと消費カロリーのバランスとそれによる体重の変化は以下のようになる

消費カロリー=摂取カロリー ⇒変わらない
消費カロリー>摂取カロリー ⇒減る
消費カロリー<摂取カロリー ⇒増える

何度も述べるように当たり前の話だが,アスリートにおいて体組成を変化させようとする(増量/減量する)時はこれが基本になる

その上で,アスリートであれば追加でPFCバランスを意識する必要がある
PFCバランス:総摂取カロリーにおけるタンパク質(Protein)・脂質(Fat)・炭水化物(Carbohydrate)の割合

健康な一般人であれば,基本的に炭水化物50~65%,タンパク質15~20%,脂質20~30%程度が望ましいと言われるが,アスリートだと競技種目によって大きく異なる
(これは三大栄養素のそれぞれの特質による)

たとえば,パワー系アスリートであればタンパク質の必要量は特に多くなるため,PFCのレート的には30%にも及ぶ可能性がある
逆に持久系アスリートで,特にカーボローディング期であれば炭水化物はこのレートを大きく上回る可能性がある

このようにある程度の幅で変動させるべきだが,特に炭水化物(糖質)とタンパク質に関しては下限とすべき最低ラインがあるため,最終的には脂質で調整するのが望ましいか?
(特に糖質に関しては,ケトジェニックダイエットは別として1日の活動中に不足すると脳の活動などに影響をもたらす恐れがある)

1-結.今回のまとめ

・食事は個別のニーズに応じて臨機応変に評価を行う必要がある

・(個人的な意見としては)アスリートであれ一般人であれ食事の基本はカロリー収支とPFCバランス,より細かいファクターはその次に重要

・必要カロリーの推定はあくまで目安程度に捉える


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー
 ・深さ
 ・バーポジション

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー総論
リカバリーの方法①
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス(本ページ)
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.ストレングストレーニング&コンディショニング[第4版]


2.NSCAスポーツ栄養ガイド


3.Essentials of Exercise & Sport Nutrition: Science to Practice (English Edition)

4.スポーツ栄養学最新理論


*注
1.Kerksick, C.M., Wilborn, C.D., Roberts, M.D. et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. J Int Soc Sports Nutr 15, 38 (2018).

2.小清水孝子, 柳沢香絵, & 樋口満. (2005). スポーツ選手の推定エネルギー必要量 (特集 スポーツにおける食事・栄養の役割と意義). トレーニング科学, 17(4), 245-250.

3.Ferri-Morales, A., Nascimento-Ferreira, M. V., Vlachopoulos, D., Ubago-Guisado, E., Torres-Costoso, A., De Moraes, A., Barker, A. R., Moreno, L. A., Martínez-Vizcaino, V., & Gracia-Marco, L. (2018). Agreement Between Standard Body Composition Methods to Estimate Percentage of Body Fat in Young Male Athletes. Pediatric exercise science, 30(3), 402–410. 

4.Svantesson, U., Zander, M., Klingberg, S. et al. Body composition in male elite athletes, comparison of bioelectrical impedance spectroscopy with dual energy X-ray absorptiometry. J Negat Results BioMed 7, 1 (2008).

5.Loenneke, J. P., Wilson, J. M., Wray, M. E., Barnes, J. T., Kearney, M. L., & Pujol, T. J. (2012). The estimation of the fat free mass index in athletes. Asian journal of sports medicine, 3(3), 200–203. 

6.APA Esco, Michael R.; Snarr, Ronald L.; Leatherwood, Matthew D.; Chamberlain, Nik A.; Redding, Melvenia L.; Flatt, Andrew A.; Moon, Jordan R.; Williford, Henry N. Comparison of Total and Segmental Body Composition Using DXA and Multifrequency Bioimpedance in Collegiate Female Athletes, The Journal of Strength & Conditioning Research: April 2015 - Volume 29 - Issue 4 - p 918-925

7.G.Gregory Haff;;N.Travis Triplett編『NSCA決定版 ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版』(2018,ブックハウス・エイチディ)
該当の内容があるのはこの中の第10章「パフォーマンスを最大化するための栄養戦略」(Marie Spano著)

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