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スクワットに関する研究あれこれ② ~マシンとフリーウエイト・バックとフロント~

※当記事は自分用のメモ的役割を意図して,気になった論文を簡単にまとめたものです

第1回→スタンスについて
◆第2回→マシンかフリーか,バックかフロントか
第3回→深さ(クォーターか,パラレルか,フルか)
第4回→バーポジション(ハイバーか,ロウバーか)

0.スクワットを理解する上で重要になるポイント

1.スタンス:足幅はどの程度にするか?
2.マシンかフリーか,フリーならばバックかフロントか
3.深さをどこまで下げるべきか
4.バーポジションをどうするか(ロウバー&ハイバー)

いくつか考えられるが,おおよそこのあたりが重要になる
1~3に関してはレビューによる検討がなされている*1 (以下この文献を参照する際には「レビュー」と表記する)

※今回紹介する研究は,一口にマシンと言っても研究デザインがスミスマシンであったりハックスクワットであったりと様々であった

2-1-1.筋活動様式から見たマシン vs フリーウエイト

レビューで参照された論文はわずか1本のみであり,そのSchwanbeckら(2009)の研究によると,スミスマシンでのスクワットに対してフリーウエイトでは以下の筋の筋活動が増大した*2

前脛骨筋・腓腹筋・外側広筋・内側広筋大腿二頭筋・腹直筋・脊柱起立筋(erector spinae)
(太字は統計的に有意な増大が見られた筋)

2-1-2.パワー向上という点から見たマシン vs フリーウエイト

Schwarzら(2019)は,レジスタンストレーニングを日常的に行っていない女性を対象にして,ハックスクワットとフリーでのスクワットを6週間行ったあとの垂直ジャンプやアジリティの能力を比較・検討した*3

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これらの結果はマシンによるトレーニングの有益性を示唆している可能性がある
しかし,あくまでこの研究は「レジスタンストレーニングを日常的に行っていない人」を対象にしているので,高度なレジスタンストレーニングを行うアスリート(特にパワー系アスリート)における有益性には必ずしもつながるわけではない可能性がある
(基本的にマシンの方が負荷を大きくすることができるため,初心者においては特に神経系の適応という側面からの効果と推察することもできるかもしれない)

2-1-結.結局どっちがいいのか

スミスマシンであれハックスクワットであれ,マシンは基本的にフリーウエイトに比べて安全性が高いため,高齢者などバランスを崩した際に重篤な事故につながる危険があるクライアントにおいて特に有益である可能性がある

さらに上で示した研究結果を踏まえると,レジスタンストレーニングを始めたばかりのクライアントにおいてはパワー向上という側面からも十分スミスマシンは有効である可能性がある

補足的な研究として,スミスマシンによってスクワットジャンプを行ったときの,フリーウエイトとの運動学的な差異を調べたSheppardら(2008)がある*4
この研究はエリートバレーボール選手を対象にしており,それによれば,スクワットジャンプ動作時における運動学的な要素は,平均パワーを除いて全てスミスマシンでもフリーウエイトでも大きな変化はなかったとされる

2-1-補.レッグプレスとスクワットについて

これに関する研究はかなり多くなされている

たとえば,Rossiら(2018)の研究では,レッグプレスとスクワット,またはその組み合わせを用いて,それぞれレッグプレスとスクワットの1RMの増加量を調べた*5

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この結果からは以下のことが考えられる
レッグプレスは垂直ジャンプの出力を高めるのには効率的とはいえない
・スクワットはレッグプレスのパフォーマンスに転移できるが,レッグプレスはスクワットのパフォーマンスには転移しづらい

前者に関してはSAIDの法則(トレーニング原理原則で言えば特異性の原理)を根拠として,その動作様式の比較で解釈が可能
後者は,スクワットでの可動域の広さに起因し,レッグプレス以上に筋量が増大したことによるのか?(要検討,論者も可動域に関して言及している)

また,古いデータではあるが,レッグプレスとスクワットにおいて,膝の関節(脛骨大腿関節・膝蓋大腿関節)にかかる圧迫力や靱帯(ACL・PCL)のストレスの違いなどを,Escamillaら(2001)が検討している*6

この研究の結果を簡単にまとめると以下の通りになる

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この結果は,PFPS(膝蓋大腿関節症)を抱えるクライアントなどへの指導に有効となるか(さらなるレビューが必要)
PCLに関しても,PCL損傷後のアスリートなどの指導では特に有効になるといえる(健常なクライアントであればおそらくほとんどPCLのストレスを気にする必要はないか?)
ストレングス的要素を外れそうなのでこれ以上は割愛

2-2-1.フロントスクワット vs バックスクワット

あまりに多すぎるのでその中のいくつかを参照する

Yavuzら(2015)の研究>*7
被検者:スクワットの経験がある12人の男性

上昇フェーズにおいて,フロントスクワットではバックスクワットに比べて大腿四頭筋の活動が増大することを示した(特に内側広筋は有意に増大した)
逆に,ハムストリングス(半腱様筋と大腿二頭筋)の活動は,バックスクワットの方が大きかった
大臀筋に関しては両群にほとんど差は生じなかった

Contrerasら(2016)の研究>*8
被検者:レジスタンストレーニングの経験がある13人の女性

パラレルバックスクワットに比べて,フロントスクワットでは外側広筋の筋活動が増大した
(フルバックスクワットとフロントを比べた場合はあまり差は生じなかった)
その他の筋(大臀筋・大腿二頭筋)に関してはほとんど差は生じなかった

Gullettら(2009)の研究>*9
被検者:スクワットの経験がある9人の男性,6人の女性

フロント・バックいずれも,大腿二頭筋・外側広筋・内側広筋の筋活動にほとんど差は生じなかった
半腱様筋と大腿直筋の筋活動は,バックスクワットの方が大きかった


この3つを見るととにかく結果が混在している
その理由として考えられるのは,
被検者によってバーポジションや深さが異なり,それが結果にノイズとなって表れているのでは?
ということ

男性アスリートを対象とする場合,Yavuzらの結果が参考になるかもしれないし,女性アスリートを対象とする場合ならばContrerasらの結果が参考になるかもしれない(要検討)

ちなみにレジスタンストレーニング指導の巨匠(個人的感想)であるMark Rippetoe氏はフロント/バックスクワット論議に関して以下のように述べておられる*10

フロントスクワットでは肩の前にバーベルを担ぎます。(中略)この位置にバーベルを担いで足の中心の真上で維持するには,背中の角度は非常に立った状態になります。背中が前傾しているときと比べて股関節の角度はずっと開いており,膝の角度は非常に閉じています。…(中略)
このときハムストリングは,ほぼ直立した体幹を支えるためにアイソメトリックな働きをしています。(中略)しかし,ハムストリングが短くなっていると,そこからさらに収縮して力を出す余地が十分に残っていません。…(中略)
要するに,フロントスクワットではハムストリングが十分に働かないということです。

2-2-結.フロント/バックの選択

「フロントスクワットは大腿四頭筋に特に効く」という意見が多く聞かれるが,実際はその意見に対して研究レベルでは安直にYesとは言えないようである(おそらくわずかなフォームの変化に応じる)
レクリエーションレベルであれば,クライアントの好みに任せるのも良いかもしれない?(個人的にはバックが好み)

補足として,体幹の角度という観点から比較したLeeら(2016)の研究を挙げる*11

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この結果からは次のことがわかる
・体幹の屈曲角度が増大するほど,大臀筋と大腿二頭筋の活動は増大する
・体幹の屈曲角度が減少するほど,大腿直筋の活動は増大する

フロントスクワットでは必然的に上半身が立つため,この表で考えれば0°の方に近づく
逆にバックスクワットではある程度上半身が倒れるため,この表で考えれば30°の方に近づく
フロントスクワットでは大腿直筋(膝伸筋)が,バックスクワットでは大臀筋と大腿二頭筋(股関節伸筋)が鍛えられるのではないか?

という事が言えるのかもしれない(あくまでこの研究を参考にしたとき)


【他ページへのリンク】

〈ストレングス系〉
◇スクワットについて
 ・スタンス
 ・バック/フロント,マシン/フリー(本ページ)
 ・深さ
 ・バーポジション

デッドリフト

〈コンディショニング・スポーツメディカル系〉
リカバリー
熱中症
アメリカンフットボールと脳震盪
ハムストリングスの肉離れのアスレティックリハビリテーション

〈スポーツ栄養系〉
◇五大栄養素について
 ・カロリー収支とバランス
 ・炭水化物
 ・タンパク質
 ・脂質,ケトジェニックダイエット,栄養戦略
 ・ビタミン,ミネラル

◇エルゴジェニックエイド
 ・カフェイン

〈単発の論文レビュー〉
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【引用・参考】

〈参考になりそうな書籍〉
1.スターティングストレングス第3版 Basic Barbell Training

いわゆるBIG3についてはここに全て記載されているし,正直これさえあれば他の書籍は不要ともいえる
座学として学ぶのであれば間違いなく最強の本


*注
1.Clark, Dave R.; Lambert, Mike I.; Hunter, Angus M. Muscle Activation in the Loaded Free Barbell Squat: A Brief Review, Journal of Strength and Conditioning Research: April 2012 - Volume 26 - Issue 4 - p 1169-1178

2.Schwanbeck, Shane; Chilibeck, Philip D; Binsted, Gordon A Comparison of Free Weight Squat to Smith Machine Squat Using Electromyography, Journal of Strength and Conditioning Research: December 2009 - Volume 23 - Issue 9 - p 2588-2591

3.Schwarz, N. A., Harper, S. P., Waldhelm, A., McKinley-Barnard, S. K., Holden, S. L., & Kovaleski, J. E. (2019). A Comparison of Machine versus Free-Weight Squats for the Enhancement of Lower-Body Power, Speed, and Change-of-Direction Ability during an Initial Training Phase of Recreationally-Active Women. Sports (Basel, Switzerland), 7(10), 215. 

4.Sheppard, J. M., Doyle, T. L., & Taylor, K. (2008). A methodological and performance comparison of free weight and smith-machine jump squats. J Aust Strength Cond, 16, 5-9.

5.Rossi, F. E., Schoenfeld, B. J., Ocetnik, S., Young, J., Vigotsky, A., Contreras, B., Krieger, J. W., Miller, M. G., & Cholewa, J. (2018). Strength, body composition, and functional outcomes in the squat versus leg press exercises. The Journal of sports medicine and physical fitness, 58(3), 263–270. 

6.Escamilla, R. F., Fleisig, G. S., Zheng, N., Lander, J. E., Barrentine, S. W., Andrews, J. R., Bergemann, B. W., & Moorman, C. T., 3rd (2001). Effects of technique variations on knee biomechanics during the squat and leg press. Medicine and science in sports and exercise, 33(9), 1552–1566. 

7.Yavuz, H. U., Erdağ, D., Amca, A. M., & Aritan, S. (2015). Kinematic and EMG activities during front and back squat variations in maximum loads. Journal of sports sciences, 33(10), 1058–1066. 

8.Contreras, B., Vigotsky, A. D., Schoenfeld, B. J., Beardsley, C., & Cronin, J. (2016). A Comparison of Gluteus Maximus, Biceps Femoris, and Vastus Lateralis Electromyography Amplitude in the Parallel, Full, and Front Squat Variations in Resistance-Trained Females. Journal of applied biomechanics, 32(1), 16–22. 

9.Gullett, Jonathan C; Tillman, Mark D; Gutierrez, Gregory M; Chow, John W A Biomechanical Comparison of Back and Front Squats in Healthy Trained Individuals, Journal of Strength and Conditioning Research: January 2009 - Volume 23 - Issue 1 - p 284-292

10.Mark Rippetoe著,八百健吾監訳『スターティングストレングス第3版 Basic Barbell Training』(2019,医学映像教育センター)

11.Lee TS, Song MY, Kwon YJ. Activation of back and lower limb muscles during squat exercises with different trunk flexion. J Phys Ther Sci. 2016;28(12):3407‐3410. 

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