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Reunion

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2019年10月の記事一覧

届かない手

届かない手

「アリア!」

そう叫んだのは自分。なのだろうか。

記憶の奥。

手を差し伸べるオレ。

届かない手。

辛すぎて忘れることなんかできないと思ってた。
けど辛すぎたから 忘れようとしてしまったのだ、この肉体が。

「マスター。ご馳走様。」

急いでいつもの金額にビール一杯分をプラスしたお金をカウンターに置き
荷物を抱え外に出る。

ありあは どっちに向かっただろう。

右か 左か

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良くできたドラマ

良くできたドラマ

「私の名前は アリア。」

ありあ。。
アリア。。。
Aria・・・

なんだろう。
胸の奥がチクチクする。
ずっと深いところで何かがカチリと音を立てた。

どこかで会った?のか・・・。
駄目だ全然思い出せない。

「ごめん。ほんとに思い出せないや。
どこで会った?」

「ここから 遥か遠くの場所で
今とは 遥か遠い時間に。」

そう言って アリアは
今度は少し悲しそうな笑顔でビールを飲みほした。

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いつか会った

いつか会った

「つまり 石はデータを記憶するってこと?」

「そう。おもしろいでしょ。でもよく考えたら
レコードだってデータの記憶してるし
写真だってそういう事だよね。」

「うん、まぁ。」

「バーコードみたいに刻まれてて 触れることで
そのデータをダウンロードできるんだって。」

「え?誰でも?」

「そう 誰でも。」

そう言って 彼女はまたビールをとても嬉しそうに飲んだ。

「でも。石を触ってそんな風に

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石の記憶

石の記憶

いつだったかな。やはり行きつけの居酒屋で
不思議なひとに出会ったことがあった。

いつものようにカウンターで 
炙った烏賊をつまみに飲んでいると
隣から優しく懐かしい香りが ふわりと漂ってきた。

ここ大丈夫ですか?

長いストレートの髪がはらりと肩から滑り落ちた。
女性はその髪を耳にかけて笑った。

えぇ。空いてますよ。

屈託のない笑顔に 少しどぎまぎしながら答えた。

良かったぁ。

そうい

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夢までの距離

夢までの距離

そもそも記憶とはなんだ。

脳が覚えてることと定義しよう。

僕が実際に見聞きしたものや、体験したこと。

それが記憶となるのはわかる。

じゃあ 夢は?

夢で見たことと現実を脳は同じように認識するらしい。
どこかの脳科学者だかが言っていた。

つまり夢も記憶の一部となるということだ。

でも 今日僕がここで思い出そうとしている
これらは夢のようで 違うような。
もっと遠く。
距離も時間も 漠然

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記憶

記憶

ここがどこなのか。

僕は自分の手のひらを見つめ
手を動かしてみた。

動く。

自分の身体。

だな。

じゃ この記憶は?

誰のモノだ?

確実に僕の一部を形成しているこの記憶は
いったい誰のモノなのだろう。

目の前にあるまたもや冷めてしまった珈琲をすする。

僕は昔から生きたくなかった。

死にたかったというわけではなく
ただ漠然と生きてるのがもうしわけなかった。

この記憶とこの想いは

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カルマ

カルマ

いやだ

みんなと一緒がいい。

そう強く願った時
頭の中で声が響いた。

「あなたがこのお仕事を断るのは構いません。
あなたの代わりにやってくれる誰かを探し
お願いすればいいだけのことです。
ただしその時に 
他の誰かが永遠と思われるほどの長い間
あなたが感じたその思いを背負うことになります。」

もし この話が本当だとしたら

「あなたは自分ではない他の誰かに
辛い思いを永遠にさせてしまうこと

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ノアの箱舟

ノアの箱舟

「お待たせいたしました。ブレンドです。」

「あの、これ。
疲れてるとき 私が良く入れるものなんです。」

そう言っておさげの彼女が 新しいコーヒーとともに
生クリームとシナモンスティックを持ってきてくれた。

「え?」

「差し出がましいことをしてすみません。
よければでいいので入れてみて下さい。」

「あ、ありがとうございます。」

語尾が消え入りそうになりながら やっ

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腐海

腐海

いや
そんなこともないか。

自然は、

地球は、

人間を追い出そうとしているのかもしれない。

世界中で 年々厳しくなる自然環境。

予想もしなかった災害の多発。

僕は ニュースを見るたびに
風の谷のナウシカの腐海を思い出す。

人間にとっては害のあることが
実は 地球の再生のための活動だということ、
なのかもしれないと。

大量発生する虫にもきっと意味があって。

流行する病気にも もしか

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森の杜の守

森の杜の守

人々の苦悶の表情が網膜に焼き付いてるようだ。

目を開けて 煙草の脂で煤けた喫茶店の壁を見つめたが
叫び声まで聴こえてきそうで 耳を塞ぐ。

夢から覚めた後も 本当に見てきたかのように思い出せる。
少しずつシーンを変え 脳内のミッドナイトシアターで幾度も上映される
この夢を見るたびに 自分がこうして生きていることを申し訳なく思う。

意識を少しずつ いまこの場所に戻してくる。

ここは 令和の東京

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そう 掬えなかった

そう 掬えなかった

僕は懸命に伝えた。

このままでは危険だと。

もうすぐ大きな波が来るから

あの山に逃げるべきだと。

信じてくれた人もいた。

だけれども そんな荒唐無稽なはなしは

鼻から信じられないという人のほうが

圧倒的に多かった。

もう時間がない。

僕は何人かの人とともに

急いで山に向かった。

他の人は 慌てることもなく

その地に留まった。

山の中腹まで差し掛かった時

すさまじい音が響

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掬えなかった

掬えなかった

冷たく暗い海の底にいる意識と

それをさみしそうに覗いている意識。

ふたつに分離してしまったのだろうか。

海の底を覗く僕は
とても苦しんでいる。

海の底にいる僕は
苦しんではいない。

分離したというより
同時に両方を経験したんだ。

ではなぜ 僕は海に?

そう思っていると 場面が変わった。

周りにたくさんの人が集まって みんな僕の話を聞いている。

周りの人たちも僕

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足先宇宙

足先宇宙

意識が過去から戻ってきた。

目の前にあるのは すっかり冷めて酸味の強くなった琥珀色の珈琲。

不思議な出会いだった。

なんで たまたま夢のことを研究しているという人が
僕の隣に座ったのだろう。

誰にも話したことのなかった夢の話。

ずっと抱えてきた恐怖心と不思議な感覚が
全然知らない人によって
言葉にしてもらえるとは思っても見なかった。

冷たい珈琲を一口すすって
僕は また別の場所へ意識を

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空に堕ちる

空に堕ちる

「その夢も また大変興味深いものですね。」

飯塚さんは 実におもしろいなぁ。とも独り言ちた。

「はぁ そうですか。。
僕はこの夢たちのおかげで
空と海が怖くて仕方ないのです。

果てのない空を覗くと 堕ちていきそうで怖くなるし
深く底の見えない海の映像を見るだけでも 
自分がどこにいるのか分からなくなってしまって怖いんです。」

腕組みをして何やら真剣に考えてくれてる飯塚さんの
グラスが空にな

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