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掬えなかった

冷たく暗い海の底にいる意識と

それをさみしそうに覗いている意識。

ふたつに分離してしまったのだろうか。

海の底を覗く僕は
とても苦しんでいる。

海の底にいる僕は
苦しんではいない。


分離したというより
同時に両方を経験したんだ。


ではなぜ 僕は海に?



そう思っていると 場面が変わった。

周りにたくさんの人が集まって みんな僕の話を聞いている。

周りの人たちも僕も モーゼの映画に出てくるような服を着て

ひざを突き合わし 何かとても重大なことを話しあっているようだ。

どうやら僕はここの長みたいだ。


「とても信じられません。」

皆が口々に言う。

わたしも到底想像できないことだ。
だけれども 嘘をついているという意識はない。


大きな波。


逃げ惑う人々。



これらの映像はひどくリアルで
生々しく
どれも嘘ではない気がした。


「大きな波が来ます。とてつもなく大きな。
早く逃げたほうがいい。出来るだけ高いところへ。」


ボロボロのキレをまとった私は
懸命に訴える。


だけれども とても信じてもらえない。



身の丈より大きな波が来ることを。




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