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そう 掬えなかった

僕は懸命に伝えた。

このままでは危険だと。

もうすぐ大きな波が来るから

あの山に逃げるべきだと。


信じてくれた人もいた。

だけれども そんな荒唐無稽なはなしは

鼻から信じられないという人のほうが

圧倒的に多かった。


もう時間がない。



僕は何人かの人とともに

急いで山に向かった。



他の人は 慌てることもなく

その地に留まった。



山の中腹まで差し掛かった時

すさまじい音が響いてきた。



後ろを振り返り見た。




ごごごごごごごごーーっ



海がせり上がる。



大きな大きな波が

僕たちの村をまさにいま 飲み込もうとしている。



あぁ。



みんなの表情が

こんなにも遠くにいても

見えてくる。

伝わってくる。




大きな大きな黒い波は

さっきまで僕がいたあの村を飲み込んだ。



あ。ぁぁ




僕は掬えなかったんだ。


信じてもらえなかったから。


助けられたはずの多くの命を僕は救えなかった。


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