空に堕ちる

「その夢も　また大変興味深いものですね。」

飯塚さんは　実におもしろいなぁ。とも独り言ちた。

「はぁ　そうですか。。
僕はこの夢たちのおかげで
空と海が怖くて仕方ないのです。

果てのない空を覗くと　堕ちていきそうで怖くなるし
深く底の見えない海の映像を見るだけでも　
自分がどこにいるのか分からなくなってしまって怖いんです。」

腕組みをして何やら真剣に考えてくれてる飯塚さんの
グラスが空になっているのに気づいて
ぬるくなったビールを注ぐ。

初めて会った酔っ払いの戯言を
こんなにも真剣になって考えてくれて
少し恐縮してしまうほどだ。

「これは　あくまで僕の考えですが
その夢は　ソース　の意識なのではないでしょうか？」

「ソース？」

僕はカウンターに置いてある　残り少ないブルドックソースを見た。

「そうです。ソースのことは　根源と言ってもいい。
宇宙のはじまる前からあった意識のことです。」

宇宙に意識？
何を言ってるのだろうかこの人は。

「宇宙にも　意識はあると言われています。
なぜならわれわれ人間が　現在解明できているのは
宇宙のほんの4～5パーセント程度のことだけなのですから。
そんなものはない！と断言してしまう方がおかしいのです。」

これだけ　宇宙の観察や探索が行われているのに
分かっているのはまだ5パーセントなんですか？？

「えぇ　不思議ですよね。
われわれ人間の脳も実は4～5パーセント程度しか
使われていないと言われています。」

少し前にLucyという映画を観た。

ある薬によって　脳が100％覚醒していく女性の話だった。

久しぶりに行ったレンタルビデオ屋で　ビールのお相手に
なんとなく手にしたLucyを観ながら　この夢のことを思い出したんだ。

脳みそを100％使うことができれば
人間は何でもできる。

何でも分かる。

何でも知っている状態になるんじゃないかって。