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ノアの箱舟

「お待たせいたしました。ブレンドです。」

「あの、これ。
疲れてるとき 私が良く入れるものなんです。」

そう言っておさげの彼女が 新しいコーヒーとともに
生クリームとシナモンスティックを持ってきてくれた。

「え?」

「差し出がましいことをしてすみません。
よければでいいので入れてみて下さい。」

「あ、ありがとうございます。」

語尾が消え入りそうになりながら やっと返事をする。

そんなに疲れてるように見えたのだろうか。

普段は食べることのない生クリームやらシナモンだが
今日はなんだかそそられる香りを発している。

熱いコーヒーに生クリームを浮かべ
シナモンスティックでかき回してみる。

なんとも 至福の作業だろうかと思った。

大人になり 様々な情報を耳にする機会が増えたら
良く見ていたあの夢は 津波というより
大洪水なんじゃないかと思うようになった。

ノアの箱舟。

アトランティス大陸の沈没。


全く知らなかったこれらのワードが
脳裏から離れない。

僕が幼かった頃
世紀末の様子を描いた漫画が流行った。

核戦争が起きたり
地殻変動が起きたりして
人間が絶滅するようなストーリー。

そういったマンガを読んでも
一切 生き残りたいとは思わなかった。

自分だけでも助かりたいなんて思いもしなかった。

そのことを自分は生に執着がないからだと決めていたが
そうではなかった。

もう 自分だけ助かるのは嫌だったんだ。

残されることが とても 悲しかったんだ。

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