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いつだったかな。やはり行きつけの居酒屋で
不思議なひとに出会ったことがあった。

いつものようにカウンターで 
炙った烏賊をつまみに飲んでいると
隣から優しく懐かしい香りが ふわりと漂ってきた。

ここ大丈夫ですか?

長いストレートの髪がはらりと肩から滑り落ちた。
女性はその髪を耳にかけて笑った。

えぇ。空いてますよ。

屈託のない笑顔に 少しどぎまぎしながら答えた。

良かったぁ。

そういって隣の椅子に腰かけるなり髪を結いあげて

マスタービールください!

そう言ったあのひと。

ビールとお通しが運ばれてくると 

「乾杯」

と僕の方にジョッキを傾けた。

「え、か、乾杯。」

急いで自分のグラスを出す。

「今日はね とっても面白いことがあったの!」

そう言って彼女はとても嬉しそうにビールを飲んだ。

「はぁーっ。おいしいっ」

あんまりにもおいしそうに飲むから 
僕もまたビールが飲みたくなってくる。

「なにがあったの?」

あまりにも無邪気な様子に心が緩んで自然に声を掛けていた。

「あのね、そうじゃないかなーって思ってたことが
そうだった!って分かったの。」

「へぇー。良かった。のかな」

「うん、すっごく興味深いことで 知れてほんとに良かった。」

そんな風に言われると氣になってしまうじゃないか。
でもいきなり初対面の人から 教えてくれって言われてもやだよな。

烏賊をひと切れ 口に入れながら 
もぞもぞと思いあぐねていると 

「石にもね 記憶があるんだって!」

石?いし?イシ?記憶??

「石って あの硬い石のこと?」

「そう!硬い石。そうなると固い意志ともいえるよね あは。」

彼女は2軒目なのだろうか。
でも酔っぱらってるという風には見えない。

「あーっ!頭おかしいと思ったでしょ。」

「いや。そんなつもりは・・・。」

「いい、いい。当たり前だから。私だってびっくりしたもん。
石に記憶が刻まれてるって言われたとき。
石は この世界で言う USBメモリ みたいなもんなんだって。」


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