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意識が過去から戻ってきた。

目の前にあるのは すっかり冷めて酸味の強くなった琥珀色の珈琲。

不思議な出会いだった。

なんで たまたま夢のことを研究しているという人が
僕の隣に座ったのだろう。

誰にも話したことのなかった夢の話。

ずっと抱えてきた恐怖心と不思議な感覚が
全然知らない人によって
言葉にしてもらえるとは思っても見なかった。

冷たい珈琲を一口すすって
僕は また別の場所へ意識を飛ばす。



あれは 中学のときだったか。
体育の時間 グラウンドでの逆立ちした瞬間
見上げた空
足先には宇宙が拡がってた。

急に怖くなって ドスンと背中から倒れた。

仰向けで見た空は海の底のようで
ここがどこだか分からなくなる。

「おい、佐伯。大丈夫か。」
体育の教師がやってきて 何か喋ってる。

海面から 海の底に沈んでるこっち側を覗いてるみたいだ。

口が動いてるというのはわかるが 音は聞こえてこない。

「おいっ!」

頬に刺激を感じた。

ハッと意識が戻る。
クラスメイトが心配そうにこっちを見ていた。

「大丈夫か、頭を打ったかもしれないから 
誰か保健室に連れてってやれ。」
いつもは 何かと威張りくさって偉そうな体育教師の
少しだけ焦った表情が見えた。

みんなが砂をはたいてくれ それぞれ声をかけてくれてる。

僕はそれを 他人事のようにどこか遠くから眺めているようだった。

なんだろう?

あの時一瞬 何かが見えたような。

海に沈んだ自分と 
沈んでいく自分を見ている自分の
二つに分離して
どちらも自分であって 
自分ではないような感覚から
垣間見た世界。




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