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短編集 ~温~

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単発小説とかそういうのの置き場です。あたたかみのあるお話(作者による主観)が置いてあります。
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#ホラー

【短編】2月2日、夜、鬼やらい

【短編】2月2日、夜、鬼やらい

「それで、息子さんが外に出ようとしたら、足の指先が切れたんですね?」
 その青年は玄関の外から声をかけてきた。
「えぇ。そ、そうなんです」
 母親は震えながらそう言った。平屋の一軒家、上がりがまちに敷いた絨毯の上にへたりこみながらも、腕には息子を強く抱きしめている。
「さっきも電話で伺いましたが、スッパリ綺麗に切れていて? もう血は出ていない?」
「えぇ、はい。あの」戸惑いながら母親は続ける。「数

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【田舎恐怖小説】さあばさま

【田舎恐怖小説】さあばさま

「それと、いちばん奥の間ァは、開けちゃなンねぇぞ」
 障子戸を開けようとした直前、ヨシエさんは云った。
「さあばさまが、おらっしゃるでな」

 その言葉に、興味を引かれた。
 戸にかけていた手を離して、囲炉裏ばたに座るヨシエさんの方に向きなおる。
「ヨシエさん、『さあばさま』って、何です?」
 尋ねると、小さな老婆は首を横にゆっくりと振った。
「わがらねェ。オラにゃ、詳しいごだぁわがらねェぢゃ」

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「頭をむしり取る男(Man tearing off the head)」についてのレポート[抄訳]

「頭をむしり取る男(Man tearing off the head)」についてのレポート[抄訳]

【はじめに】
 本記事はアメリカのユタ州立総合大学 Utah State Organized university に勤める知人から、私に送られてきたレポートの抄訳(=ダイジェスト版の翻訳)である。
 レポートそのものにも序文がついていたが学術的で長いため、それに代わって私(訳者)による簡単な解説を、ここにまとめておきたいと思う。

 その知人は、ごく最近の欧米の怪奇・心霊体験/都市伝説を研究して

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【怪奇短編小説】 レット・イット・ビー

【怪奇短編小説】 レット・イット・ビー

 母が死んでから、父はひどく無口になった。
 大学の仕事も辞めてしまい、お手伝いさんたちにも暇を出した。毎日書斎に閉じこもって分厚い本をひっくり返している。かと思えば庭に出て土を調べたり、買ってきた薬品や肥料のようなものを混ぜてみたりしている。
 わたしが朝に女学校に行く時も、授業とその後のお稽古が終わって帰ってきた時も、父はひとりきりの広い屋敷でそのような謎めいた行動を続けていた。

 怖いと思

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