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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2021年3月の記事一覧

続・社会人になってから毎月寄付を続ける理由(「反貧困」を読んで)

続・社会人になってから毎月寄付を続ける理由(「反貧困」を読んで)

大学を卒業して社会人になってからアラサーになる今まで複数のNPOの月額寄付会員を続けている、と2018年7月に書いた。21年になってもいまだに、寄付を続けている。その理由について、前回はキャス・サンスティーンさん「シンプルな政府」を手掛かりに「社会という『インフラ整備』に投資するため」と書いた。今回、湯浅誠さんの「反貧困」(岩波新書)を読んで再び「寄付する意味」を考えたくなったので、書いてみる。

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愛と科学が咲かせた花ー読書感想「悪魔の細菌」(ステファニー・ストラスディーさんら)

愛と科学が咲かせた花ー読書感想「悪魔の細菌」(ステファニー・ストラスディーさんら)

これは愛の物語であり、科学の物語でもありました。ノンフィクションの「悪魔の細菌 超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い」。タイトルが示す通り、手の打ちようがない「悪魔の細菌」が夫の体に襲いかかる。まさしく絶体絶命の中、妻は「忘れられた技術」とも言える意外な治療法を探し出す。夫婦二人が科学者であるというのもポイント。相手を守りたいという思いと、科学を信じて挑む思いが重なった時、蓮の花のように希望が咲

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夢の毒性を学ぶー読書感想「BAD BLOOD」(ジョン・キャリールーさん)

夢の毒性を学ぶー読書感想「BAD BLOOD」(ジョン・キャリールーさん)

夢は人生を彩る。その裏返しに人生を蝕み、壊しさえする「毒性」を持っている。本書はその両面をリアルに学ばせてくれる傑作ノンフィクションでした。ウォール・ストリート・ジャーナルの元名物記者ジョン・キャリールーさんの「BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相」。扱っている「セラノス事件」は、革新的血液検査技術をうたって巨額の投資を集めた米国のユニコーン企業が、実は山のような不正を隠

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わたしは本はよいものであると信じるー読書感想「子どもと本」(松岡享子さん)

わたしは本はよいものであると信じるー読書感想「子どもと本」(松岡享子さん)

「わたしたちは、本はよいものであると信じる人々の集団に属しています。わたしたちの任務は、できるだけ多くの人をこの集団に招き入れることです」(p40)。「東京子ども図書館」の創設に尽力した筆者・松岡享子さんが、米国で働いた公共図書館の館長から授けられた言葉だそうです。本書「子どもと本」を読んだ後、何度も何度もこの言葉を噛みしめている。わたしもまた、本はよいものであると信じる一人。そしてできるだけ多く

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人類の強さは「弱さを補うこと」ー読書感想「哲学と人類」(岡本裕一朗さん)

人類はなぜ音声を生み出したのか。なぜ文字を発明し、なぜ印刷技術を獲得したのか。なぜデジタルメディアをつくり、次はどこへ向かうのか。無数の「なぜ」にバシバシと答えてくれる一冊が、岡本裕一朗さん「哲学と人類」でした。人類誕生から2020年現在まで、人類史に重ねて哲学の歴史を述べる。壮大なんだけれども、岡本さんのまとめ方、論じ方が巧みで飽きることがない。キーに置いたのはメディア。音声・文字・印刷・デジタ

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読むラジオー読書感想「人文的、あまりに人文的」(山本貴光さん・吉川浩満さん)

読むラジオー読書感想「人文的、あまりに人文的」(山本貴光さん・吉川浩満さん)

知的でやさしい会話が聞こえてくる。対談形式のブックガイド「人文的、あまりに人文的」は”読むラジオ”というのがぴったりの一冊でした。文筆家・ゲーム作家の山本貴光さんと、同じく文筆家・編集者の吉川浩満さんの掛け合い。ものごとへの視点の変え方、柔らかい考え方を学べる。本が開いてる時間がとても幸せなものに思える良書です。(本の雑誌社、2021年1月22日初版)

人文書をときほぐす本書は東浩紀さんが編集長

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ここにいながらできる旅ー読書感想「泣きたくなるような青空」(吉田修一さん)

ここにいながらできる旅ー読書感想「泣きたくなるような青空」(吉田修一さん)

読む”旅”をどうぞ。帯の惹句に偽りはありませんでした。吉田修一さんがANAの機内誌「空の王国」に連載していたエッセイをまとめた「泣きたくなるような青空」。開けば、いまここにいながら、旅路へと踏み出すことができる。風景に潜む「影」を掬い取る吉田さんの言葉。見慣れた景色がどこか違って見えるようになる。どこにも行けなくても、旅はできるんだと希望を持てました。(集英社文庫、2021年1月25日初版)

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