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読書ノート

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読んでいる本、読んだ本、読みたい本についてつれづれ書いている日記のようなもの
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#推薦図書

どん底でも『百年と一日』は読めた

人生のどん底とも言えそうなくらいトラブル続きだったこの夏に、詩集と歌集は読めたという話を直近のエントリーでしました。それともう一つ、ピンポイントである短編集だけは読めた。それか柴崎友香さんの『百年と一日』(ちくま文庫、2024年3月10日初版発行)でした。

『百年と一日』は、時間を描いた小説である。それが特殊な点だと思います。人物(主人公)ではなく、あるいは場所(組織や共同体)ではなく、時間を描

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どん底でも歌集は読めた

前のエントリーで書いた続きで、人生のどん底と言えそうなつらい状況の中、かろうじて読めた本は詩集のほか、歌集でした(もう一冊、紹介したい本があるので、書けたら書く)。

具体的には『啄木歌集』。石川啄木です。岩波文庫。

石川啄木は、20代で結核に苦しみ病死。妻と母も病に苦しみ、長男が誕生間も無く亡くなり、貧困に苦しみ…。壮絶な苦難に直面してきた歌人です。

一番有名なのは、次の歌でしょう。私が一番

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2024年7月に読んだ本リスト

【7月】・『口の立つやつが勝つってことでいいのか』、頭木弘樹さん、青土社
・『啄木歌集』、久保田正文さん編、岩波文庫
・『弟はぼくのヒーロー』、ジャコモ・マッツァリオールさん、小学館文庫
・『生命式』、村田沙耶香さん、河出文庫
・『百年と一日』、柴崎友香さん、ちくま文庫
・『自選  谷川俊太郎詩集』、岩波文庫
・『化学の授業をはじめます。』、ボニー・ガルマスさん、文藝春秋
・『北条民雄集』、田中裕

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『君が手にするはずだった黄金について』を真似た読書リスト

毎月、読んだ本のリストをこのnoteに残しています。感想も何もなく、ただタイトル、著作者、出版社を羅列したもの。

なぜこんなことをしようと思ったのかといえば、小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』という小説で、主人公の小説家が同じ取り組みをしていたからです。

引用後段で出てくる、「一人で粛々と本を読み、そこで得た知識や感情を何かに活かすこともなく、ひたすら内側に溜めこんでいた」とい

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優しさが息苦しい世界で息をする方法ー再読『ハーモニー』

優しさが息苦しい世界で息をする方法ー再読『ハーモニー』

伊藤計劃さん『ハーモニー』(ハヤカワ文庫、新版は2014年、旧版は2008年)を再読しました。優しさ正しさが敷き詰められた世界は、息苦しくなる。そのことを予見した本作は、きちんと「息苦しい世界で息をする方法」も提示していたんだと気付かされました。

世界規模の核紛争を経験し、人命がどんな価値よりも優先されるようになった社会。政府は「生府」に生まれ変わり、構成員の健康管理に積極的に(ほとんど過度に)

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余白とピン留めー余録『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』

谷川嘉浩さんの『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(ちくまプリマー新書、2024年4月10日初版発行)の素晴らしさについては別の記事に書きましたが、そこでは書ききれなかったことがありました。それは「細部にこそ重要な何かがある」という話です。

この本は「衝動」とは何かを考える本で、上記引用部分のインタビューとは、衝動を探究するための「セルフインタビュー」という手法について語った部分です。メイン

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だからその無駄をやるーミニ読書感想『俺達の日常にはバッセンが足りない』(三羽省吾さん)

だからその無駄をやるーミニ読書感想『俺達の日常にはバッセンが足りない』(三羽省吾さん)

三羽省吾さんの『俺達の日常にはバッセンが足りない』(双葉文庫、2023年6月17日初版発行)がしみじみ、面白かったです。小説としては地味かもしれないけど、良い。劇的な展開があるわけではないけど、だからこそ優しい。大切なことが語られてる。

バッセンとは、バッティングセンターのこと。タイトル通り、日常にバッティングセンターが足りないんだ!だからつくるぞ!とゴリ押ししてくる、迷惑な友達に振り回される話

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2024年最初に読んだ本

2024年最初に読んだ本

2024年最初に読み終えた本は、酉島伝法さん『金星の蟲』(ハヤカワ文庫JA、23年10月18日初版発行)でした。単行本『オクトローグ』を改題。身体から謎の寄生虫を産んでしまう表題作や、落下を続ける塔の話、巨大なブロッコリーを探査する話など、まったく正月らしくない奇想小説でした。

表題作は、印刷工場で働く主人公がお腹の調子が悪く、尻から出血していくブラック労働小説かと思いきや、ある日、大便かと思っ

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2023年最後に読んだ本

2023年最後に読んだ本は、川本直さん『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出文庫、23年11月6日初版発行)になりそうです。12月28日に読了。

トルーマン・カポーティらと同時期に生きた米国作家、ジュリアン・バトラー。当時タブーだった同性愛を正面から、かつ扇動的に描いたトリックスター。という設定。つまり、ジュリアンは架空の作家です。架空の作家の評伝という、実験的な物語スタイルが特徴でした。面

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『おすすめ文庫王国』の楽しみ方

『おすすめ文庫王国』の楽しみ方

12月10日付で、毎年恒例の『おすすめ文庫王国2024』(本の雑誌社)が刊行されました。100ページ超、まるごと文庫本の話を詰め込んだ雑誌。これを読まずして年を越せない。年末年始の読書の友です。その楽しみ方を整理したいと思います。

①本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン2023年度巻頭企画は毎回これ。本の雑誌社の編集者や営業社員、経理の方が匿名座談会で毎年のベストテンを選ぶ。でも、かなり適当。それが良い

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この本に出会えてよかった2023

この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。

冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。

本を読む目が変わりました。病や困難に直面

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存在すら知らなかった本を買う

存在すら知らなかった本を買う

先日、書店で本を買いました。仕事などで時間が見つけられず、久しぶりの来店、まとめ買い。SNSや新聞広告を通じて以前から「狙っていた」本を買うつもりが、ついつい違う本にも手を出してしまう。中には存在すら知らなかった本もありました。

たとえば、井奥陽子さんの『近代美学入門』(ちくま新書)。美術入門ではなく、美学入門というのに惹かれました。新書の新刊のようで、面陳列(表紙を前にする形での陳列)で店頭で

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2023年上半期に読めて良かった本8冊

2023年上半期に読めて良かった本8冊

2023年もあっという間に折り返し。上半期に「読めて良かった」と思える本をまとめました。

と、ここまで書いて続きを書けずにいましたが、書きあぐねていても時間ばかり過ぎるので、公開してみます。それぞれの本をなぜ選んだか、理由が欠けていますが、リンク先の記事を読んでいただければ少しは魅力を感じていただけるかも。

とにかく、この8冊はおすすめです。

①『シャギー・ベイン』

②『母親になって後悔し

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読書ノート2022/05/05

加藤典洋さん「村上春樹の世界」(講談社文芸文庫)が面白かった。感想エントリーを書きたいのだけれど「自分は加藤さんの村上春樹論が好きだ」以上のことが書けそうにない。大切な一冊だけれど、なかなか誰にでも分かるようなおすすめの仕方が分からない。そういうことがあってもいいよな、とは思う。

加藤さんは、作品が読者に与えるものと、作家が作品を通じて直面している問題は何か?ということと、両方を考えることを批評

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