美しくも悲しい日々を想う 9

高校時代、彼女とは良好な関係は続いた。
僕たちの学科は、1クラスしかなかったので、3年間同じクラスだった。

とある日、調理実習の時間があった。
僕と彼女は同じ班になり、料理を作っていた。

彼女は、味噌汁か何かを作っていた。
「こまちゃん、味見して!」
と言って、彼女がつくったものを持ってきてくれた。

味見してみると、親の仇のようにしょっぱかった。
あまりのしょっぱさに、イタズラかもと思いつつ
「いや、しょっぱいんだけど!」
と、ツッコむ感じで返した。

すると
「全然、しょっぱくないけど!」
と、本気で怒ってきた。

収集がつかなそうだったので、そばにいた先生に味見を依頼した。
「しょっぱい!」
その先生が、怪訝な顔で言ったことで、僕の言い分が正しいことが証明された。

彼女が作った、あの料理は本当にしょっぱかった。
だけど、彼女が作った料理を味見できた、あのシチュエーションは最高だった。
でも同時に、将来、彼女に味見を依頼される旦那のことを、想像すると羨ましくて仕方なかった。



こんなこともあった。

僕は、当時聴いていた音楽はロックミュージックだった。

ある日、たまたま数日前に買った、コブクロの「blueblue」という曲を聴いていた。
そのことで、とあるクラスメイトに馬鹿にされていた。

その直前に、僕は彼女とイヤホン半分こしてその曲を聴いていた。
馬鹿にされたことを彼女に話すと、彼女はそのクラスメイトに対して、その曲の素晴らしさを力説してくれた。

多分、彼女はその曲が好きだったわけではなかったと思う。
でも、きっと僕が馬鹿にされていたことに対して、庇ってあんなに力説してくれた。
そんな、彼女の優しさに触れて、温かい気持ちになった。


当時、彼女と一緒に音楽を聴いてた中で、忘れられない曲がある。
サスケという、男性デュオが歌う「彼女」という曲だ。

僕は、ある日にサスケの「青いベンチ」というCDを買った。
それを、学校に持っていって聴いていた。
彼女がいつものように、僕のところにやってきて、一緒に聴く流れになった。
彼女はそのCDの存在を知っていたらしい。
「このCDの2曲目、彼女って曲がいいんだよね。」
と言ってきたので、その曲を2人で聴いた。

この「彼女」という曲の、歌詞は僕に響いた。

ファミレスの窓際でおしゃべりする僕らはまるで恋人同士のよう
だけどこのテーブルの真ん中あたりに「友達」という見えない線引いてるから
胸の想いは 今はしまっておくよ
君はノンキにメニューを見てる
君を「彼女」と呼べる日がいつか来たら
僕の悩みはたちまち消え去ってしまうのに

サスケ「彼女」

ファミレスという、シチュエーションこそ違う。
だけど、僕が彼女に対して想ってることと酷似していた。
当時、僕は彼女のことを「友達」だと思うようにしていた。
でも、そんな僕にもこの歌詞は響いた。

彼女と音楽を聴いていた時に、彼女はよく「歌詞」について語っていた。
当時の僕は、音楽はあくまで「音」でしかなかった。
彼女の影響で、その後の僕も、音楽の「歌詞」を聴くようになった。




僕が「彼女」を聴いてた時、思い浮かべてるのは君だったよ。
君はきっと、そんなこと思いもしていなかったよね。
君の影響で、僕は「歌詞」を聴くようになったよ。
あれから、たくさんの素晴らしい「歌詞」に出会ったよ。
そんな曲の数々を、君と一緒に聴きたいよ。





修学旅行にも行った。

彼女と僕は、行き飛行機で隣の席になった。
通路を挟んでだったが、隣同士の席。

その飛行機で、忘れられない出来事があった。

彼女も、僕も、お互い初めての飛行機だった。
僕は、特に飛行機だからと意識することもなく、普通にしていた。
彼女とも普通に会話していたと思う。

ところが、離陸直前になって
「こまちゃん、怖い」
と彼女が言い始めた。

墜落してしまうかもしれない、という恐怖心があったのだろう。
彼女は本当に怖がっていて、今にも泣き出しそうだった。

僕は彼女を和ませようと
「どうせ、落ちたらみんな死ぬから大丈夫だよ」
と言った。
「何でそんなこと言うの!」
彼女は恐怖に怯えながら、僕に怒っていた。
僕の発言は、どうやら間違いだったらしい。

僕からだったか、彼女からだったかは覚えていない。
でも、離陸に入り、自然と僕たちは手を繋いでいた。

その後、無事に離陸を終え飛行が安定した。
本当に怖かったのだろう。彼女は泣いていた。
少しして、いつもの彼女に戻っていた。

平然を装っていただけど、僕もドキドキしていた。
飛行機が怖かったからじゃない。
彼女と初めて手を繋いだことに対してだった。
彼女の、小さな手を握ったことを、僕は忘れられない。



旅行先では、遊覧船に乗った。
遊覧船でも隣同士で座った。
最初は仲良く、みんなで会話していた。
少しすると、彼女は僕の肩に寄りかかってきた。
長旅で疲れてたのだろう。彼女は眠っていた。
僕は、彼女を起こしてしまわないよう気をつけた。
彼女を肩で感じながら、僕は幸福感でいっぱいだった。

しばらくすると、彼女が目を覚ました。
「船のデッキに行ってみない?」
と、僕は彼女をデッキに誘った。

今になって思えば、彼女に対して僕から誘ったのは、あれが最初で最後だった気がする。
なぜ、自然に誘えたかはわかないけど、とにかく彼女を誘えた。

「いいよ」
彼女がそう言ってくれたので、一緒に船のデッキに向かった。
2人きりで、船のデッキから景色を眺める未来を想像して、僕はワクワクしていた。

デッキに出ると、とてつもない強風が吹き荒れていた。
彼女は、すかさず
「寒い!帰る!」
と言い残して、船内に帰ってしまった。

残された僕は、とてつもない強風を、1人で数分間浴びた後、船内に戻った。

帰りの飛行機。
僕が自分の席に乗り込もうとした時、隣の席に彼女の姿があった。
彼女と僕は隣同士の席だった。

この時点で、5年間同じクラスだったけど、隣の席になったことはなかった。

いつも通り、仲良く話していると離陸の時間になった。
行き飛行機での出来事が、フラッシュバックして、少しだけ期待した。
隣にいる彼女に目を向けると、彼女は平然としていた。
1度経験したことで、平気になっていたようだった。
残念だったけど、お互い無事に帰路についた。




僕とって、高校の修学旅行は、君との思い出ばかりだよ。
君と手を繋いだことも、僕に寄りかかって眠っていたことも忘れられない。
君と一緒に、船のデッキに出られなかったことは、今でも悔しいよ。
あの時、一緒にデッキに行ってたら、僕は君に何を話したのかな。
君がいてくれたから、僕にとって最高の修学旅行だったよ。




彼女との平穏無事の2年目の高校生活が終わる。
僕たちは高校3年生になろうとしていた。



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