美しくも悲しい日々を想う 8

2002年4月、僕は高校生になった。

入学式の日、緊張しがら教室に入った。
到着するのが遅かったらしく、ほとんど生徒が揃っている状態だった。
急いで、自分の席を確認して座った。

すると
「こまちゃん!」
と後ろから声をかけられた。

彼女だった。

彼女も無事、志望校に合格していたのだった。
彼女と僕は、またクラスメイトになった。

僕が前で、彼女が後ろの席というは、出会った時と同じ席の配置だった。
僕は、3年前に彼女と出会った、中学1年生の頃を思い出していた。

それ以来、彼女は普通に、僕に話しかけてくれるようになった。
昔のように、彼女と会話することが当たり前になった。


僕は、高校に入ってから約1年間、全く馴染めなかった。
ほぼ、誰とも会話できない空間に毎日通うことは苦痛でしかなかった。
家に帰ると、毎日のように学校を辞めたいと親に言い続けていた。
この時期が、人生で一番キツかったと思う。

誰とも話せず、苦しんでいた僕に、救いの手を差し伸べくれたのは彼女だった。
彼女が僕に話しかけてくれることで、僕は学校で唯一の会話ができた。

今になって思うと、そんな僕の様子を見かねた彼女が、あえて僕に話しかけてくれていた気がする。
彼女がいなかったら、僕が間違いなく高校を辞めていたと思う。
彼女がいなかったら、僕は死んでいたかもしれない。

結局、僕が学校に慣れたのは、2年生になるくらいの時だった。
2年生になる頃には、心も正常になり、普通に高校生活を送れるようになった。





君がいてくれたから、僕は今も生きているよ。
君が僕の話で笑ったり、怒ったりするその姿に僕は救われた。
あの時期、君が話しかけてくれなかったら、僕は死んでいたと本気で思う。
君は僕の初恋の人であり、命の恩人でもあるんだよ。





僕は、高校生になってから、彼女に対して決めたことがある。
彼女のことを「友達」だと思うことだった。

だけど、彼女への想いがあるので、簡単に友達だと割り切ることは難しかった。
そこで、僕は彼女への考え方を変えた。
それは、目の前にいる彼女と、僕が恋をしていた彼女とは別人だと思う考え方だ。

中学1〜2年の頭くらいまでの彼女と、それ以降の彼女を別人として分けた。
あくまで、僕が恋したのは中学1〜2年の頭くらいまでの彼女であり、それ以降の彼女のことは好きではなかった。
そんな風に、彼女のことを勝手に別人に仕立てた。

この考えに、至ったベースにあるのは、中2の中頃から彼女が不良になっていってしまったことがある。
彼女が不良になり、僕に話しかけてくれなくなったことに対して、悲しみ、苦しみ、恨み、妬み、怒りといった負の感情を抱いていた。
僕は、そんな彼女を、僕が恋した彼女と同じ人物だと認めたくないと思っていた。

僕が、こんな風に考えていた時期に聴いた、山崎まさよしの「One more time one more chance」は刺さった。

いつでも捜してしまう どっかに君の笑顔を
急行待ちの 踏切あたり
こんなとこにいるはずもないのに
命が繰り返すならば 何度も君のもとへ
欲しいものなど もう何もない
君のほかに大切なものなど

山崎まさよし「One more time one more chance」


僕と会話して、手紙の交換をして、合図を送り合って、一緒に遊んだ、恋をしていた彼女はもういない。
彼女と、同じ名前で顔がそっくりな女の子と新しく友達になった。
「友達」として、今の彼女のことが好き。
そんな風にして、彼女のことを「友達」だと思うことに成功した。

さらにいうなら、彼女が僕を全く異性として見てくれてないことも大きかった気がする。
彼女が僕のことを、好きになることはないと、この時ぐらいからわかっていた。
僕がどれだけ、彼女のことを想っても、その想いが届くことないという現実があったわけだ。
そんな、現実を受け入れるためにも、彼女を「友達」だと思うしかなかった。

彼女を「友達」だと解釈することで、僕は中学時代のように、彼女への想いで苦しむことはなくなった。
おかげで、ほぼ3年間、彼女とは仲の良い関係が続いた。


でも、これが大きな過ちだったことに、卒業式の日まで気づくことはできなかった。




あの時の僕は、君が変わってしまったことを認められなかったんだね。
そして、君のことを想い続ける覚悟もなかったんだ。
僕が、人生で本気の恋をしたのは、君だけだった。
僕の想いが届くことないけど、君のことを思い続けて生きていく。
そんな風に、受け入れられるまで20年もかかったよ。





「友達」と思うようにした、彼女との高校生活は、順風満帆だったと思う。

僕は高校の時、1人で漫画を読んでいたり、音楽を聴いていたりすることが多かった。
そんな時、彼女は僕のところにやってきて
「何読んでるの?」
「何聴いてるの?」
なんて話しかけにきてくれた。

彼女が、声をかけてくれるのを、心待ちにしていた気がする。

漫画を読んでいるときは、彼女に漫画を貸してお互いに漫画を読んだ。
驚いたのは、音楽を聴いていた時だった。
彼女は、僕のイヤホンを片方外して、自分の耳につけた。
彼女と僕で、イヤホンを半分こして、一緒に聴く形になってたわけだ。

「こんなの普通だよね。」
みたいな感じで、僕も一緒に聴いていたけど、内心はドキドキだった。

「大好きな彼女とイヤホン半分こしてるよ!」
なんて、心の中で叫んでいた。

ドキドキの感情を抑える時に、心の中で
「彼女はあくまで友達だから」
と、自分自身に言い聞かせていた。

彼女の、そんな男女バリアフリーな感じは、魅力の1つだった。
僕が、かつて彼女に恋した理由の1つもそこにあった。


この頃に、あるクラスメイトの男子から
「こまちゃんて、きさと付き合ってんの?」
「こまちゃんて、きさのこと好きなの?」
という質問をされた記憶がある。

「付き合ってもないし、好きなわけではないよ」
というような回答を、僕はした気がする。

その後、そのクラスメイトと彼女が付き合うことになった。
その頃には、僕にとって彼女は「友達」だったので、嫉妬の感情もなかった。
中学の時なら、嫉妬で狂っていたであろうことは間違いない。
そんな嫉妬の感情が湧かないことに、僕は彼女と上手くいってると勘違いしていた。




あの頃、僕は色んな人に君のことが好きか聞かれた気がする。
そして、その全ての人に嘘をつき続けてきたんだね。
どう考えても、僕は君のことが好きだった。
君と僕で、イヤホンを半分こした時に、ドキドキしていた。
その事実が、それが証明してるよね。





その後も、自分の心を偽り続けた僕と、彼女の高校生活は、順風満帆だった。


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