美しくも悲しい日々を想う 7

最後に彼女と会話してから、1年以上経過していた。

1年生から2年生になる時にも、4ヶ月くらい彼女との交流がなくなった期間があった。
その時も、毎日彼女のことを考え、思い悩んでいた日々がしんどかった。

でも、今回はその3倍以上もの間、彼女との交流が一切なくなっていた。

毎日のように会話したことも、合図を交換したことも、2人きりで遊んだことも、全てが幻かもしれない。
僕と彼女は、そもそも出会っていないんじゃないか。

あの時と同じような考えや思いが、頭の中で堂々巡りしていた。

結局、3年生になってから、まともに彼女と会話することは1回しかなかった。
だけど、その1回が僕にとって衝撃的で、今でも覚えている。


あれは、美術室で行われた美術の時間だった。

先生は最初に課題を告げ、あとは自習のような形になっていた。
僕の隣の席の子が休みで、僕は一人で課題に取り組んでいた。

すると、突然、誰かが僕の隣の席の椅子を引いて座った。
僕が驚き、隣の席に目をやると、彼女が座っていた。

「え?どういうこと!?」
「何で彼女が隣に座ってきたの?」
声には出さなかったが、僕の頭の中はパニックになった。
その出来事に、状況を飲み込めない僕は、ただただ呆然としていた。

すると彼女が
「こまちゃん、私変わった?」
と僕に問いかけてきた。

彼女が僕に、話しかけてくれたのは1年以上ぶりのことだった。
この1年以上ぶりに、彼女が僕に声をかけてくれたことにも驚いた。
でも、さらに驚いたのはこの問いかけの内容だった。

僕は当時、彼女が不良になっていく様子を見てることが辛かった。
不良の輪の中心にいた、彼女を遠くから眺めては
「何であんなにぐれてしまったのかな」
という疑問と、悲しみにも似た感情を持っていた。

そして、1年生の頃の彼女を思い出しては
「あの頃の彼女は、あんなによかったのに」
と思い返すようになっていた。

そんな僕に、1年以上ぶりに声をかけてきて、その問いかけをしてきたのだ。
僕の心の内を、見透かされてるように感じても、何ら不思議はないだろう。

心の内を見透かされてるような、質問に動揺しつつも、平然を装った。
そして
「変わったと思うよ」
と僕は答えた。

続けて、いかに変わってしまったかを、彼女に説明していった。

例えとして、僕が言ったことがある。
昔の君は、サンタクロースを信じてる子供だった。
今の君は、サンタクロースを信じてる子供に対して、
「サンタクロースなんていない」
と言ってしまうような、人になってしまったと言う話をした。

要は、昔の彼女はピュアだったけど、今の彼女はピュアじゃなくなった。
ということを、僕は伝えたかったわけだ。

すると、彼女は
「私、サンタクロース信じてるし!」
と僕に怒った。

論点はそこじゃないんだけどなと思いつつ、彼女の返答に僕は笑った。
久しぶりに、僕に対して笑ったり、怒ったりする彼女を見られたことが幸せだった。
やっぱり、彼女と会話するのは楽しかった。

そして授業の間、彼女との久しぶりの会話を楽しんだ。

これをきっかけに、また前のように僕に話しかけてくれるかもしれない。
そんな淡い期待も抱いたが、結局、3年生になってから、彼女とまともに会話できたのは、これが最初で最後だった。




何であの時だけ、君は僕に話しかけてくれたのかな。
どうして、あんな僕の心を見透かした質問をしてきたのかな。
今でも僕は不思議に思ってるよ。
君と会話したくて仕方なかった僕が作り出した夢だったのかな。

あの時の会話で、僕が話したことは今でも反省してるよ。
君を笑わせながらも、確信をついたことを言いたかったんだ。
でもきっと、本当は繊細な君を傷つけたよね。
本当にごめん。




年が明け、中学卒業の時が近づいていた。
この頃になると、進路が同じ生徒同士で活動することが増えていた。

彼女と僕の志望校は同じ公立高校だった。
彼女に進路先を聞いたことはなかったので、もちろんたまたまだった。

僕と彼女を含めて、同じ志望校同士の生徒が班になって
一緒に願書を書いたりする機会があった。

僕と他の2人は、その高校のAという学科が志望だと分かった。
それに対して彼女は、Bという学科が志望だと分かった。

僕がその高校を志望校にしたのは、自分が入れる可能性と、自宅からの距離を考えた結果だった。
なので、その高校に興味があったわけではなく、学科もどうでもよかった。
3つあった学科のうち、無難だったのがAだったので、Aにしていた。

彼女が、Bという学科を志望だと分かってから、僕はBという学科を調べてみた。
前年ベースのデータではあったが、Bの方がAよりも合格しやすいことが判明した。

僕は当時、本当に受験勉強どころか、テスト勉強すら全くしてなかった。
色々あって、私立の学校には行きたくなかったので、その高校に何としても合格したかった。
僕は、親にも告げず、勝手に志望学科をAからBに変更した。

彼女と同じ班になったことで、会話こそなかったけど、彼女と挨拶を交わすような間柄にはなった。
そして、ある日、彼女に頼まれて、浜崎あゆみのDutyというアルバムCDを貸すことになった。

1年生の時に、彼女にCDを貸した時の記憶が蘇る。

CDが返してもらった時、真っ先にCDを開封して確認したことがあった。
彼女からの手紙が入っているかどうかだ。
くまなく探したけど、残念ながら、彼女からの手紙はなかった。

「そりゃそうだよな」
と思いつつも、どこかで期待してたので、その分がっかりした。


この頃、僕は彼女に手紙を書こうと思っていた。
彼女と出会えたことで、僕は恋を覚えた。
そして、それに付随して様々な喜びを彼女は僕に与えてくれた。
そんな想いを、僕にとって大切な思い出となった、手紙という手段で彼女に伝えたかった。

何度も書こうとしていたけど、いざ渡すことを想像すると手が止まった。
挨拶こそするような間柄に、すこしだけ彼女との関係は改善していたけど、書いた手紙を渡せるような気がしなかった。
「書いてもどうせ渡せない」
そんなことを考えると、どうしても筆が進まなかった。

結局、僕は手紙を書くことはできなかった。


卒業の日がやってきた。
卒業式の最中、3年間の記憶が走馬灯のように蘇る。
中学時代の思い出の大半が、彼女との思い出だった。
僕は泣いた。

彼女と会うのは今日が最後かもしれない。
もう2度と彼女と会えないかもしれない。

「彼女へ手紙を書いてくればよかった」
そんな後悔も相まって、涙が止めどなく流れた。

この日に、彼女と会話する機会はなかった。
僕は中学校を卒業した。




あの日、手紙を書いて渡してたら、君は受け取ってくれたのかな。
優しい君のことだから、きっと受け取ってくれたよね。

君と出会えたから、僕は恋ができたと思ってるよ。
僕に、人を好きになる喜び、楽しさ、苦しさ、悲しさを与えてくれてありがとう。

君と出会ってから、25年以上経った。
結局、僕が恋をしたのは君が最初で最後だったよ。
君と出会えてなかったら、僕は恋を知らないままだったね。




卒業式の日の翌日、合格発表を見に高校に行った。
僕は無事、合格していた。

春、僕は高校生になった。


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