美しくも悲しい日々を想う 6

彼女と2人きりで遊んだ日の翌日からか、それより少し後だったかは覚えていない。
でも、そのくらいの頃から、彼女と僕の会話がなくなった。


彼女は僕の席に来なくなった。
彼女は僕に話しかけてくれなくなった。

数ヶ月前の、辛い日々がフラッシュバックする。

あの時と同じように、彼女が話しかけてくれなくなった理由を毎日考えていた。
「2人で遊んた時に何かしたのか?」
「普段の会話で何か言ったのか?」
残念ながら、思い当たることはなかった。

自分から話しかけにいって
「何で最近話しかけてくれないの?」
と君に尋ねられれば、どれほど簡単だったろうと今なら思う。

でも、僕は彼女に自分から話しかけにいくことができなかった。
だから、理由を直接尋ねることなんて、できるはずがなかった。

結局、僕と彼女は会話のない、ただのクラスメイトに戻っていた。
2人きりで遊んだことが、夢だったように思えた。


彼女が、僕の席に来なくなった時期に、後ろの席の男子と仲良く会話している姿が、目に映るようになった。
一番後ろだった僕の席から、彼女の様子はよく見えた。

そんな男子と会話して、笑顔になってる彼女を見て
「僕の方が君を笑わせられるよ」
「僕の方が君を楽しませるよ」
「僕の方が君を喜ばせるよ」
日々、身を焦がすほどの嫉妬の感情に駆られていた。



君の笑顔を見るのが、僕には何よりの幸せだったよ。
だけど、他の男が君を笑顔にしてることは何よりも苦しかったよ。



そんな中、僕の恋の終わりを告げる、決定的な出来事があった。

とある日の部活終わり、顧問に預かり物を頼まれて、顧問についていった。
顧問が
「車に取りに行ってくるからそこで待ってろ」
と言ったので、正面玄関前にあった、外の椅子に僕は座って待っていた。

すると、玄関から相合い傘をして、外に出てくるカップルが目に入った。


彼女だった。
隣にいる男は、見たことがない男だった。


辺りは既に薄暗く、小雨も降っていたので、本当に彼女だったかはわからない。
でも、この光景を目にした瞬間
「終わった」
と僕は思った。


雨か涙かわからなくなった滴が、頬を伝った。




あの日から、君のことも、君への想いも忘れようとしていたんだよ。
でも、25年経った今でも、僕は忘れられずにいるよ。




この頃から、彼女は少しずつ変わっていった。
彼女と僕が会話することはないので、端から見てた僕の感覚でしかない。
そんな僕から見たら、彼女は不良になっていった。

不良と言っても、そんなにひどい不良なわけではない。
ちょっとスカートを短くしたり、先生に突っかかって行ったりする、程度の不良だ。

ただ、僕たちの学年は、かなり真面目な生徒たちが集まっていた。
不良がほとんどいないから、ちょっとした不良でも目立つ。
そんな、不良たちの中心に彼女がいるように、僕の目には映った。

不良になっていく彼女を見るのは辛かった。
僕と出会った頃の彼女とは、まるで別人のように感じていた。
彼女との距離がさらに遠くなった気がしていた。



それから時は流れ、修学旅行の季節を迎えた。
修学旅行先で行動するための班決めがあった。

最初に班長を決めた後、男女に分かれて、どこかの班長のもとに
行って班を決める方法だった。
僕は班長の1人になっていた。

彼女は、僕のところに来るはずないとは思っていた。
でも、心のどこかで、もしかしたら、という期待もしていた。

僕のところに彼女は来なかった。
期待する方がおかしいのはわかっていたけど、悲しかった。

旅行先で、もしかしたら会話できるかもと淡い期待もした。
結局、何も起こらなかった。




彼女と、最後に会話をしてから半年が過ぎていた。

ある時、クラスの男友達から話しかけられた。
「きさって、こまちゃんのこと嫌いなんだってさ」
と言った。

僕はとっさに
「そうなんだ。別にいいんじゃない。」
とそっけない返事をした。

心の中では
「何で?」
「何かした?」
「交流もないのに嫌われるの?」
といった疑問を、自分自身に問いかけていた。

今となっては、本当に彼女がそんなことを言っていたのか、確かめることはできない。
だけど、本当に僕は傷ついたし、悲しかった。



この頃は、彼女のことも、彼女への想いも、必死で忘れようとしていた。
でも僕は、そのどちらも忘れることができなかった。



さらに季節は流れ、冬になった。
この地域は雪が積もる。
冬休みや春休みは、本来外である部活も、校内で行われるようになる。

休みに入る前に、各部活の予定表が配られていた。
その予定表で、僕が最初に見ていたのは、自分の部活の予定ではなく、吹奏楽部の予定だった。
自分の部活がある日と、彼女の部活がある日が、重なってる日を確認していた。

休みに入り、部活のために学校に行くようになると、僕には日課ができた。
彼女の下駄箱を確認することだった。

内履きがあるか、外履きがあるかで、彼女が校内にいるか判断できたからだ。
内履きがあった時は、すぐに帰りたくなった。
外履きがあった時は、テンションが上がってワクワクしていた。

もしかしたら、彼女と会えるかもしれない。
もしかしたら、彼女と会話できるかもしれない。

でも結局、会うことはほとんどなく、会った時も僕に話しかけてくれることはなかった。
淡い期待は粉々に打ち砕かれた。



冬休みも、春休みも、嫌だった部活に行ったのは、君と会えるかもしれない希望があったからだよ。
君は僕のことを嫌いになったのかもしれない。
だけど、僕は君のことが好きで好きで仕方なかったよ。
僕が君に話しかける勇気があったら、もっと君と話せていたのかな。



春になり、3年生になった。
彼女との関係は、修復されないままだった。

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