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転職先で販売デビューした日に6年ぶりに再会した人

私が今年転職した障害者施設は
利用者と共に様々な自主製品を作って販売している。

 
その数は現在50種類以上であり
期間限定の製品もあり
また同じ製品でもデザインを変えたりしている。
新商品開発もしょっちゅうだし
唯一無二の一点物にこだわる傾向がある為
日々センスが問われる。
また、作業工程で覚えることも非常に多い。

 
前職では下請け作業が中心であり
特定の仕事を特定の利用者や職員が行っていた。
所謂工場のような動きで
パターンは簡単に覚えられたし
どの作業もちょっと説明を受ければ職員は取り組められた。

 
そういった下請け作業中心の施設で10年以上働いてから
自主製品中心の施設に転職した為
なかなかに毎日苦戦している。

 
自主製品を作る施設はたくさんあるが
ここまで自主製品が多岐に渡り
かつ一点物にこだわり
かつ各職員が50種類以上の自主製品作り作業をこなすというのは
なかなかに珍しいと思う。

 
職場で作られた自主製品は
県内のイベント時に販売するだけでなく
県内各地で委託販売をしていたり
ネット販売をしていたり
施設内販売もしている。

 
 
私は施設面接前にそれを聞き

「ここで働けば、コロナ禍であっても前職のみんなと会えるかもしれない。」

と内心思っていた。 

 
退職に悔いはないが
退職によって、大好きな利用者や保護者や同僚に、当たり前のように会えなくなることは辛かった。 

 
イベントで自主製品を売り、そこに前職で関わった方が偶然来てくれれば
退職した身であっても
コロナ禍であっても 
みんなと堂々と会える。

私はそう目論んでいた。
謂わば、前職のみんなとの再会を期待しての転職だ。

   
 
更にこれは働き出してから分かったことだが
毎日毎日野外活動や作業がある施設で
私はとにかく毎日徒歩もしくは車でどこかに出掛けていた。

コロナ禍である為
もはや休日より仕事がある日の方が県内を出歩いている。

 
私は毎日外に出るたびに
偶然前職で関わった人と再会できる日を願った。

 
退職した私は自分から連絡をとれない。
約束はできない。
会えない。

前職の施設はコロナ禍により外出イベントを中止している。
だから、私が偶然を装って外出先に行くわけにもいかなかった。

 
私の原動力は前職の人達だった。

理不尽な退職にもっていった人達を見返したいという悔しさや
新たな経験や知識を、いつか前職の人達と関わることがあれば活かしたい思いや
再会する時に元気で頑張る私を見せたいという気持ちで
私は日々を過ごしていた。

 
 
入職して一ヶ月後
私は県内イベントの販売デビュー日が決まった。
6月だった。

その日は福祉のイベントで
県内の福祉施設がたくさん集まる日だった。

 
偶然
前職関係者が遊びに来るのではないか?

 
私は内心、大いに期待していた。 
ついに日にちが決まったのだと。

 
県内イベントの内容により
準備物や動きが異なり
また50種類以上の製品の金額を把握しきれず
販売イベントがある週は特にてんやわんやだった。
イベントの日に合わせて新商品の開発や準備も同時進行で
私は帰宅後に気づいたら寝ていることがたびたびあった。

 
 
私が夢に夢見た再会の可能性がある販売イベント日は
朝から一日雨予報で
実際当日は雨だった。

雨により
更に準備物や動きが複雑になり
頭を抱えた。

雨だと客足は遠のきそうだし
売り上げはいまいちだろうし
前職関係者も来ないかもなぁ…

 
そう思うと、少しテンションが下がった。

 
 
販売日前日から緊張して食欲不振だし
販売日当日は予報通り雨が強く
朝からゲンナリしたが
出勤時間はいつもより早いし
いざ職場に着くと、緊張とかゲンナリとか言っていられない。

肌寒い一日だったが
朝から汗をかきながら荷物を運び
雨に濡れないように荷物を運び
他の職員や利用者と大忙しだった。

 
ありがたいことに
雨の割には人出があった。
アーケード街のイベントの為
準備さえ終われば濡れずに済む。
  
 
そのアーケード街は学生時代にティッシュ配りをした場所で
まさか未来で自主製品を売るようになるとは思いもしなかった。

バイトをしていた為
トイレの場所や小道等勝手をよく知っていてありがたい。
 
 
また私は以前バイトで試食販売をしていた為 
接客はよく慣れていて 
販売自体は全く緊張しなかった。 

接客態度は絶賛され
自分の対応でお客様が笑ってくださったり
商品を購入してくださって
とても嬉しかった。

 
その日、福祉施設関係以外にもお店はたくさん出店していたが 
私の施設は大盛況であったし
買わないにしても「かわいい。」と言ってもらえたり
写真を撮っていただけて嬉しかった。 


一日雨の割にお客様は多く
様々な商品が次々に売れ
私が利用者と作った商品を見知らぬ方が手にとってくれて
買ってくれて
とても嬉しかった。

 
お昼はパパッと食べ
販売イベント時はほとんど座れないような状態だったが
私は販売自体は楽しくて活き活きした。

 
だが、期待に反して、前職関係者は来なかった。

 
確かにあえて伝えたわけではないが
福祉のイベントだから、誰かしらは来ると思っていた。
刻々と時間だけは過ぎていき
内心諦めかけていた時のことだ。

 
「ともかさん!?」

 
私は呼び止められた。

 
その人はマスクを外した。 

 
 
!!!

 
 
私は大変驚いた。
その人は共に同じ事業で働いていたが
家庭の事情により6年前に退職した
前職の施設の元同僚だった。

 
つまり、再会は6年ぶりである。

 
 
その方はご家族と来られていた。
イベント会場からかなり離れた場所で暮らしていた為
その方がここにいるのは意外過ぎた。

 
「ともかさん、退職したんだってね?どうして…あんなに、あの施設も仕事も好きだったし、利用者も好きだったじゃない。
利用者からも保護者からも同僚からも好かれて、施設に必要とされていたのに。」

「今はここで働いているのね!?ビックリした。本当にビックリした。」

 
元同僚は、別の方経由で私が去年退職したことを聞いていたらしく、退職したことを知っていた。
ただ、私は前職の方に今の職場は伝えていない為、今日イベントにいたことを驚いていた。

 
たまたま、今日の服装は前職時代もよく着ていた服だし、髪型やゴムも変わらないから
尚更分かりやすかったかもしれない。

 
私にとってその方はとても穏やかで優しい方で
母親のような存在だった。
利用者支援について色々学んだし
介護福祉士受験時も
施設内で資格を持っている方はその人しかいなかったから
色々相談に乗ってもらっていた。
人出が足りない時
嫌な顔をせずに引き受けてくれた。
どんな仕事も快くやってくれた。

 
その方の退職は施設にとって大きな喪失だったし
私はガチ泣きした。

社会人になる前、実習生時代からお世話になった方だったのだ。

 
「真咲さんは本当に色々できるようになった。立派な責任者よ。私がいなくても大丈夫。やっていけるわ。今までありがとうございました。お世話になりました。」

 
その方が退職前に二人きりになった時、そう告げてくれたことは今でもよく覚えていた。

 
 
あれから6年。

 
私達は大好きだった職場を、泣く泣く惜しまれつつ辞め
偶然雨の下、前職の施設から離れた場所で再会した。

人生とはこれだから何が起きるか分からない。

 
「ともかさんが元気そうで何よりだわ。」

「あの施設(前職)は…大きくなるにつれて、形がどんどん変わったわね。昔を知っている身だと、色々思うことがあるのは分かるわ。」

 
 
その方も約10年働いた方だった。
事業部を兼務し、どの事業もずっとナンバー2として支えていた方だった。

私達は色々なものを見てきたし、知ってしまった。
利用者が大好きな気持ちはお互いに変わらないけれど
その方も退職後は一切施設に顔は出さなかった。

 
その方は、うちの施設の商品をたくさん買ってくれた。
私が手掛けた商品をたくさん買ってくれた。

涙が出そうになる。

 
 
話によると、退職後は仕事を行わず
専業主婦として暮らしているらしい。

 
家族と過ごす彼女を私は初めて見た。
職場で働く姿しか私は知らなかった。
確かにその姿は幸せそうだったが
私は残念にも思った。

どの利用者にも優しく接し、同僚や保護者からも絶大な信頼をされた方だった。
福祉職が適職な方だった。
私はずっと尊敬していたのだ。

 
だから福祉職から離れたことは
勿体ないと感じてしまった。
少し残念に感じてしまった。

 
それでも
お互いに離れた場所に住み
大好きな職場を離れてからも
お互いに健やかに大切な人と暮らせて
笑顔で再会できたことは幸せでしかなかった。

「ありがとうございました!」

私は商品を渡した後
深々と頭を下げて見送った。

 
「ともかさんに今日会えてよかった。体に気をつけて過ごしてね。」

 
彼女の言葉が心に染み渡り、泣きそうになった。
だけど今の私は販売員だし、利用者や同僚の前では泣けない。
なんてことない顔をして、売り場に笑顔で戻り、他のお客様を対応した。

 
 
もう明日から会えない。
今まで毎日当たり前にいたのに。
これからは私がよりしっかりしなきゃ。

彼女が退職時にそう思ったが
6年を経て、約束もせずに再会した。

 
私は彼女が去っていく姿を見ながら
予期せぬ再会の喜びと共に
もう今日が最後かもしれないという寂しさを感じた。

 
 
 
結局販売日は一日雨で
荷物搬入時や片付け時に濡れたが
イベント出店売り上げは年内最高額という成功をおさめた。
確かな達成感を感じた。

施設に戻ってからも細々とした片付けはあるし
イベントの反省会を次回に活かすべく
また新たな取り組みは始まる。

 
ありがたいことに
販売時に別イベント出店も依頼され
来月我が施設は県内イベント出店の予定が多い。

私は来月も販売出勤が確定している。
来月はまた違う場所で違うイベントで出店する。

 
コロナ禍だし
退職した身だし
私は会いたくても
もう自分から前職関係者には会えない。

だけど
私は平日は毎日どこかしら外で働いている。
そして土日はどこかしらのイベント出店に携わる場合がある。

 
私はここにいるよ。
どうか見つけてほしい。
会いにきてほしい。

そう心のどこかで思いながら
私は転職先で同僚や利用者と毎日何かしらをして過ごしている。
毎日を頑張って生きている。

 
販売イベント時
利用者や同僚の新たな一面を見たり
また一つ新しい仕事に挑め
疲労感と共に充実した時間を感じた。

 
心には、前職への思いがある。
私の中から消えることはきっとない。

ただ、転職した今は転職先で今を必死に生きているし
未来に向けて夢を語り
確かに一歩ずつ動き出している。














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