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エガオが笑う時

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(6)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(6)

 それからのことは覚えていない。
 ヌエとマナは、姿を消していた。
 それだけでなく鬼に変貌した戦士達も姿を消していた。
 残ったのは紫電に焼かれたイーグルと鬼に傷つけられた戦士達、そして私が傷つけたカゲロウだった。
 なんでカゲロウがあそこにいたのかは分からない。
 分かっているのは・・私がカゲロウを傷つけたということだけだった。
 私が・・・カゲロウを・・・。

 私は、王国騎士団専用の病院に

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(5)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(5)

「ターンッターンッターンッ」
 私の口がリズムを刻む。
 その瞬間、襲いくる鬼達の身体が一斉に吹き飛ぶ。
 ある者は壁に激突し、ある者は、宙へと吹き飛び、そしてある者は石畳に沈んだ。
 鬼達の動きが止まる。
 本能が彼らの動きを止めた。
 ヌエの顔に驚愕が浮かぶ。
 私は、両手で大鉈の柄の中心を握り、ダラリと腕を垂らして垂直に持つ。
 両足の踵と爪先で一定の旋律を刻んで石畳の上で跳ねる。
 
 タ

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(4)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(4)

鬼と化した人間達はさっきまで仲間であったメドレーの戦士や救護班を襲う。
 突然の仲間の変貌に誰もが心も身体も付いていくことが出来ず、武器を抜くことも抵抗することも出来ないまま鬼の攻撃を受ける。
 鬼の1匹が叫びながら私達の方に襲いくる。
 私は、大鉈を構えようとするが、イーグルが「邪魔です」私の前に立ち、手に持った長剣で鬼を袈裟斬りし、膨れ上がった筋肉を裂く。
 一分のブレもない見事な剣技。
 鬼

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(3)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(3)

「くだらない」
 聞き覚えのある声が耳に入る。
 空気を劈く音と同時に獣達の悲鳴が飛ぶ。
 魔法騎士と騎士崩れ達の表情に驚愕が走る。
 私を襲おうとした獣達の身体に銀色の矢が突き刺さっている。
 矢の先端は、矢尻ではなく針になっており、その後ろにはガラスの管のようなものが付いており、中に液体が入っている。
 矢が刺さった瞬間、獣達は叫び、のたうち回る。
「たかが獣相手に何をしているのです隊長?」

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(2)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(2)

「凶獣病っていうのは常在菌の突然変異なんですよ」
 魔法騎士は、淡々と語り出す。
 ヒグマは、巨大な右腕を振り下ろし、その爪で私を裂こうとするが、大鉈の柄でその攻撃を受け止める。
 強い。
 恐らく獣人の姿であった頃よりも何倍も力がある。
 このままでは潰されると即座に判断した私は大鉈を傾けて力を逃し、相手の体勢を崩させ、その腹に蹴りを入れる。
 ヒグマの身体はくの字に折れ曲がり、唾液を吐いて膝を

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エガオが笑う時 第6話 絶叫(1)

エガオが笑う時 第6話 絶叫(1)

 空気を押し潰すような圧が私を襲う。
 私は、大鉈の刃を盾のように垂直に構え、圧を生み出した正体、獣へと変貌したマナの左前足による横薙を防ぐ。
 身の丈を超える分厚い刃はマナの一撃を完全に防ぐもあまりに軽い私の身体は宙を舞い、建物の壁に激しく叩きつけられる。
 鎧を纏っていなかったら確実に何本かの骨が折れていた。
 私は、壁から滑り落ちるように落下し、石畳に膝を付ける。
 突然、姿を現した大きな犬

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エガオが笑う時 第5話 凶獣病(6)

エガオが笑う時 第5話 凶獣病(6)

 公園を出て左右を見回すもマナの姿はどこにもなかった。
 私は、街道に出て近くにある二階建ての建物に駆け寄ると、一気に飛び跳ね、雨樋に指を引っ掛ける。
 周りにいた人達が私の姿を見て声を上げる。
 私は、足を上げてそのまま雨樋の上に登り、さらに屋根に登る。
 屋根まで登ってから私は自分がスカートだったことに気づいてひょっとして見られたかな?と思って急に恥ずかしくなって裾を押さえるも今はそれどこでは

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エガオが笑う時 第5話 凶獣病(5)

 翌日、私はいつもと変わらずキッチン馬車で働いた。
 いつもと変わらない、いつもと変わらないはずなのに何故か4人組はじっと注文を取りにきた私の顔を覗き込んでくる。
 ニヤニヤと笑みを浮かべながら。
 私は、意味が分からず眉根を寄せる。
「何ですか?」
 私は、思わず不機嫌そうに言う。
 しかし、彼女たちのニヤニヤは止まらない。
 私は、むっとなって唇を紡ぐ。
「エガオちゃん」
 サヤが眼鏡の奥でに

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エガオが笑う時 第5話 凶獣病(4)

エガオが笑う時 第5話 凶獣病(4)

 彼は、私の手をグイグイ引っ張って宿舎を出る。
 私は、引っ張られるがままに彼に付いていく。と、言うよりも引っ張ってもらわないと歩くこともままならない。
 私の頭の中は混乱を通り越して錯乱していた。
 結婚・・・結婚・・結婚・・・。
 妻・・・妻・・・妻・・・。
 私の頭の中は、その2つの言葉が弾けるように飛び交う。
 一体何が起きてるの?
 て、いうかいつから私達は夫婦なの?
 マダムに言われた

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エガオが笑う時 第5話 凶獣病(3)

エガオが笑う時 第5話 凶獣病(3)

「凶獣病」
 突然、湧き出した聞き覚えのある声に私の意識は現実へと戻る。
「ほんの100年ほど前まで獣人の子どもの間で流行っていた感染症の一種だ。感染すると先祖帰りを起こして巨大な獣へと変貌する」
 私は、声のする方へと振り返る。
 鳥の巣のように盛り上がった黒髪、整った顔に生えた無精髭、黒いタンクトップから除く逞しい腕、均整の取れた身体に黒いズボンを履いた長い足・・。
「カゲロウ・・」
 私は、

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