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呼吸のブランコをこぐ。

繰り返し経験するほど、上手になっていく──多くのことを、わたしたちはそんなふうに身につけていきます。
たとえば車の運転だってそうですし、お料理だってそうです。なにかの習い事だって、何年、何十年と続けるうちに、たいていは、だんだん上手になっていく。

ところが、呼吸については──長く生きるほど上手になる、という話は、あまりきいたことがありませんよね。
生まれたときからずっと、一日だって欠かすことなく、すうすう、こつこつ、続けているにもかかわらず、です。

人が一日に繰り返す呼吸の回数は、平均で2万~2万5000回といわれます。
ざっくり計算すると、10歳の子どもなら1億回程度、50歳なら5億回程度、生まれたときから「呼吸という経験」を積んできた計算になりますが、5億回呼吸したから50歳は呼吸のプロ!とは、残念ながらなりません。
むしろおとなになるにつれ、呼吸が浅くなり、それが体調に影響するケースが増えていくことが多いようです。

呼吸が浅いことで生じる体への負担は、予想外に大きなものです。
「呼吸が浅い=酸素の取り込み量が少ない」ということ。
もちろん、生存するために必要な酸素量は確保できているわけですが、回復や再生に使われる分が後回しになっている可能性もあります。そうすると、慢性的に疲労がたまりやすくなりますし、老化のスピードも速まっていく。

また、深い呼吸ができていないということは、交感神経(活動モード)から副交感神経(休息モード)への切り替えが上手くいかない、ということでもあります。
実は、「深く息を吐きだすときの筋肉の動き」は、副交感神経を活性化させるためのスイッチの役割を持っています。
呼吸が浅く、そのスイッチが押せないということは、体が休息モードに入りづらいということ。

たとえば夜眠れないことで悩んでいらっしゃる方は、日常的に呼吸が浅く、この切り替えが上手くいっていない可能性があります。
長時間寝ているのに疲れがとれない氣がするとか、夜中に何度も目覚めてしまうとかいう場合も同様です。
逆にいえば、このスイッチを自由に使いこなすことができるようになると、入眠もスムーズになりますし、疲労も回復しやすくなります。体の再生スピードも上がるので、若返りも期待できますよ!

さて、今日はそのための呼吸法をご紹介したいと思いますが、その前に、ご自分の呼吸が浅くなっていないか、簡単な方法で確かめてみてください。
チェックポイントは、

「椅子に座るとき、背もたれに寄りかかるかどうか」

これだけです。
長時間、背もたれに寄りかかって座る習慣のある方は……おそらく日常的に呼吸が浅くなっています。
その理由を、下の図を使いながらご説明いたしますね。

これは、人の胸部を輪切りにした状態をイラストにしたものです。実際には左右の肺の間に心臓があったりしますが、動きが伝わりやすいように簡略化して描いてあります。ブルーで示した部分が肺、それを囲む白い枠が、肋骨と背骨です。
Aは、息を吸いこんだときの胸腔の状態。つまり、肺が最も膨らんだときを表します。

対してBは、息を吐きだしたときの胸の状態です。
当然、イラストの肺の面積はAより小さくなっています。同時に、肋骨・背骨も、中央に寄っています。全体に、Aより一回り小さくなった感じですね。

息を吸いこんだときに肺が大きくなり、吐いたときに小さくなる。
ごくごく単純なあたりまえの動きですが、これがきちんと行われていれば、何の問題もないのです。

ところが、前述の「背もたれに寄りかかりった姿勢」だと、呼氣のとき、Bのようにはなりません。
寄りかかっているので、背骨の位置は後方に固定され、息が吐きだされたときの胸の状態はCのようになります。

Cでは、背骨がほとんど移動しないので、胸腔の背面側はあまり形をかえません。その分、Bに比べ、押しだされる空氣の量も減ります。つまり、しっかり息を吐きだせていないということ。

また、背骨は肋骨と、そして最も重要な呼吸筋である横隔膜と連動しています。
背骨と肋骨と横隔膜。
この三者の関係をきちんとお話しようとすると、果てしなく長くなってしまうので……ここでは簡単に、「肋骨と横隔膜に囲われた胸腔の容積は、背骨が前後に移動することによって大きくかわる」ことをお伝えさせてください。
息を吐きだすとき、背骨が前方に移動するかどうかは、横隔膜と肋骨の形状そのものにも影響を及ぼします。背骨が前方に移動してこそ、呼氣時の横隔膜はきちんとすぼんだ形状になり、肋骨下部も、きゅっと細くしぼられます。その分、肺の空氣もしっかりと押しだされます。

よかったら、肋骨下部(ウエストより少し高い位置)に両手を添えて、次のふたつの動作のときの肋骨の様子を比べてみてください。

①背骨を後方に固定したまま息を吐く。
②背骨を軽く前に押しだしながら、息を吐く。

どうでしょうか。
うまくいけば、②のときに肋骨が細くしぼられる感じが体感できるのではと思います。同時に、ふっと全身が緩むような心地よさを味わえるかもしれません。

うまくいけば……と申し上げたのは、肋骨まわりの筋肉が既に硬くなってしまっていると、一度や二度の呼吸ではそれが緩まず、肋骨の形状の変化を体感することが難しいからです。
でも、この背骨を押しだす動作を繰り返すことで、肋骨は必ず柔軟性を取り戻します。
必ず、といいきれるのは、背骨が呼吸とうまく連動したときの筋肉の動きが、それだけ強力なものだからです。
一度や二度では無理でも、この動きを続けることで、おそらく一週間程度で、固まっていた筋肉がほぐされて動きだします。そうすると、呼氣のときに肋骨がきゅっと締まる感じ、次第にはっきりわかるようになるのでは、と思います。

その一週間のイメージトレーニングにお勧めしたいのが、タイトルにもある「呼吸のブランコをこぐ」ことです。
背骨を前に押しだすことを意識しすぎると、力で無理やり骨を動かすことにもなりかねず、そうすると、硬くなった筋肉はなかなか緩んでくれません。
そんなときには、ブランコをこぐイメージが役に立ちます。

「呼吸のブランコ」は、こんなふうにこぎます。
まず、胸腔の中、だいたい心臓の高さあたりで揺れるブランコをイメージしてください。そして、そのブランコに、誰か小さな子どもを乗せてあげてください。
ハートに近い場所になりますので、もしかしたら、あなたのインナーチャイルドが現れるかもしれませんし、小さい頃のあなたでも、あなたのお子さんでもかまいません。
いちばん自然に浮かんでくる子どもの姿。その子をやさしく、ブランコに導いてあげてください。

胸のブランコにその子が座ったら、その背中をやさしく押してあげてください。そして、そのタイミングで、ふうっと息を吐きだします。
じきにブランコは戻ってきます。そのタイミングで息を吸う。
また背中をふわっと押す。押しながら息を吐く。
ブランコが戻ってくる。そのときに息を吸う。
ふわっと押す。息を吐く。
戻ってくる。息を吸う。
ふわっ、すう。
ふわっ、すう。
ふわっ、すう……。

胸のブランコの動きにあわせて、ご自分の背骨も軽く前後に揺らしてみてください。
ふわっ、すう。
ふわっ、すう。
ふわっ、すう……。

念のため……背骨を前に押しだすときに息を吐く、これを逆にしないように氣をつけてくださいね。
息を吐くときに背骨を押しだすのは、最初は慣れない動きに感じられるかもしれません。
でも、一度身につけてしまえば、大きな安らぎを感じていただけるはず。なぜなら、それが体本来の動きだからです。

そしておまけのようですが、この呼吸が習慣化すると、実はウエストが細くなります。肋骨が締まる運動を繰り返すわけなので、それは当然の変化といえます。

最近は、自分自身の瞑想にもよく、この呼吸のブランコを取り入れています。
背中をやさしく押すことの繰り返しは、背中をやさしく押されることの繰り返しでもあるように感じられ──とても安らぎます。

あらためて考えてみると、わたしたちは一日に2万回も、自分の背骨で自分の背中を押す機会がある、ということですね。
自分の背中を押してあげられる、そして自分に背中を押してもらえる、そんな機会が、一日に2万回も!
その2万回を大切にするかしないか……なんだかそれで、毎日が大きくかわるような氣がしてきました。

呼吸のたびに、自分をやさしく押してあげよう。
呼吸のたびに、背中を押される自分を感じよう。
そうすることで体が緩み、若返り、ウエストまで細くなるなら……こんな楽しいことはありませんね!

呼吸のブランコをこぐ。

その心地よさを、みなさんと共有させていただけるなら、とてもとても幸せです。


追記①
記事でご紹介した背骨の動きは、立位や座位のときを想定しています。
横になっているときには重力のかかり方がかわるので、背骨と呼吸の関係もまたかわってきます。

追記②
トップ画像のブランコ型のハンモック。
これは、親しくしているnoterみさぼんの経営するレストラン、「BONGSTA(ボングスタ)」のテラスを撮影したものです。
こちらのお店は、先月長野県松本市にオープンしたばかり。
半月ほど前に、わたしもお邪魔してランチをいただいてきました!
自然な素材を大切にした、やさしいお味の創作料理。
みさぼんの笑顔とともに堪能してきましたよ。

お店の詳細については、noterヨッシャマンが記事にまとめてくれています。
ぜひ、そちらをご覧いただき、松本方面におでかけの際には、立ち寄ってみてくださいね!




こちらの記事に、数週に渡り、みっつのコングラボードが届きました。記事にご協力くださったみなさま、スキをくださったみなさま、本当にありがとうございました。

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