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記事一覧
『推し、燃ゆ』 宇佐見りん ~生きよ堕ちよ、すべてはそこから始まるのだ
3年積んでた「推し、燃ゆ」をやっと読んだ(笑)。すごくよくできていて、想像以上に読みやすいじゃないの。確かに心地よい小説ではない。けれど、楽しく優しい物語しかなければ、この世はどんなにつらいだろうか?
「推し活」の特異性が注目されがちなようだが、むしろ、きちんと描き込まれているその背景が印象的。
合理性以外の価値基準がないような父親、「ちゃんとできる」姉とのぎくしゃくした関係。小さい頃から子ども
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』若林正恭
オードリー若林による紀行文。夏って旅行記を読みたくなりますよね(私だけ?)。おまけに本書のメインはキューバ旅行記なので、猛暑のお供におすすめです。
「アラフォーだというのにニュース番組を見てもまったく理解できないことが恥ずかしくなって」歴史や経済を学び始めた若林。
「格差社会と言われ始めたのはいつ頃でなぜか?」
「なぜブラック企業が増えたのか?」
「交際相手にスペックという言葉が使われるように
選挙活動は民主主義の場 / 『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』和田靜香
フリーライターの和田靜香さんが、香川一区から衆議院議員に立候補した小川淳也さん(現職)の選挙活動をルポタージュした本。日記形式のカジュアルな筆致は、人のブログを読むようで楽しい。毎日「今日食べたもの」も記録されてるよ。
東京都民の和田さんは香川一区ではまったくの「よそ者」であり、政治や選挙の「しろうと」。
「選挙カーなんてうるさいだけ」
「どぶ板選挙って必要なの?」
「選挙期間に活動を休む日が
「サードキッチン」 白尾悠 ~幾重もの属性にからめとられながら連帯を模索する
よく「経験しなければわからない」と言われるように、人間の想像力はとても貧困だから、こういうフィクションに触れるのはとても大事。
日本人のほとんどが経験する機会のない、「人種的・言語的マイノリティになるとはどういうことか」を冒頭から味あわせてくれる。
主人公のナオミは、念願だったアメリカの大学に留学して1年目。
まわりの学生は自分より大きく、垢抜けていて、楽しげに交わされる会話の半分も聞き取れない
『なわばりの文化史』秋道智彌 ~古来、多様さと複雑さの中で続いてきた人の営為
世界の多様さと複雑さ、そしてその中で続いてきた人の営為を教えてくれる本。
陸地と海辺、山と川、田園などさまざまな地形をもった日本列島。人々の生業も多様だった。
古来、人は「なわばり」をもうけて自然を囲い込み、山野河海の資源を利用してきた。それは排他的な営みのようで、たとえば以下のように、さまざまな意味がある。
①乱獲防止(資源の持続的な利用)
ex アワビや海藻、柴などの漁撈や刈りの期間を制限
堀江敏幸『雪沼とその周辺』ものは壊れる、人は死ぬ。だから文学がある
短編集。静かで少しいびつで、エモーショナルとは程遠い雰囲気だけれど、ところどころ、言葉にならない感情に襲われて涙したり、ページから顔を上げて深い息を吐いたりした。
山あいの町、雪沼。町営のスキー場のほかには、外から来て足を止める人もないような小さな町で、それも今では流行のピークを過ぎていることが示唆される。
それぞれの物語の主人公は、年を重ねて体のあちこちにガタが来ていたり、パッとしない中華食
『大奥』よしながふみ 14~17巻「きっとどの将軍も、ひとりひとり精一杯生きて、悲しみ苦しみとともに、喜びも味わったはず」
江戸時代を男女逆転(+α)で描く『大奥』、徳川の歴代将軍の中でもとりわけ好きなのが13代家定と14代家茂だ(どちらも女性だよ)。作中、天璋院(男性ね)が「どちらも王者の器」と述懐するような、優れた将軍として造型されている。
家定は苦難に折れず独学を重ねる勤勉さと家臣の人品骨柄を見抜く才があり、さらに優秀な部下に権限を与えて責任をとる胆力をもっていた。
家茂に至っては、素直で誠実な性分があらゆる身
『こびとが打ち上げた小さなボール』 著 チョ・セヒ 訳 斎藤真理子
師走。ここへきて、2023年Myベストかもしれない。「蹴散らされた人々」の物語‥‥。
1970年代、軍事独裁政権下で都市開発が進むソウル。「こびと」を家長とする一家は、どぶ川のほとりの貧民窟で、食べるものにも苦労しながら暮らしていた。
10代の子どもたち3人は中学をやめて、町の印刷工場や鉄工所で働いている。
52歳の父親「こびと」は、高層ビルの窓ふきや水道工事などできる仕事を何でもやったが、長
『日本断層論 社会の矛盾を生きるために』 森崎和江、中島岳史
福岡に長くお住まいで(※)、昨年95歳で亡くなった森崎和江さんへのインタビュー本。福岡の諸先輩方はご存じの方も多いと思うが、私は「からゆきさん」や「まっくら」の著者……ぐらいのイメージしかなかったので、驚きの連続だった。
インターセクショナリティやジェンダー平等のような概念が横文字で輸入されるよりずっと前から、それらを自身の骨盤のようにして推進していた人がいたのだなと。
森崎さんは1927年生
『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川元一
(2022年9月 筆)
発売当時、新聞やSNSでもかなり言及されて話題になっていた。今年の初めごろから積んでいて、最近やっと手をつけ、めでたく読了。
スタイリッシュな装丁と裏腹に、一本筋が通っていて、凄みすら感じる本だった。それでいて筆致は柔らかく、書いてあるいろいろなメソッド以前に、行間からにじむもので姿勢があらたまるような気持ちになる。
あとがきに書かれた筆者自身のナラティブを読んで「は
『夏物語』川上未映子
この小説を読んだ女たちで集まれば‥‥いや、読んでなくてもエッセンスを紹介するだけでも、めちゃくちゃ白熱した読書会ができるに違いないが、白熱しすぎてあちこちでケンカと絶縁が起こる気しかしないw
この本で何度も哲学対話をしたという知人Yさんはやっぱりプロ!
第二部に入ってしばらくはずっと「ふつうの小説になったな」と思いながら読んでた。第一部が突き抜けてたのでねw
でも、それは長編小説ならではの嵐
『大奥』第13巻 地獄が網羅されるが「それでも光明はある」と信じられる物語
地獄を網羅している。
そもそも、ひとつの家系を何代にもわたって描いていく物語は多くない。登場人物が膨大になるのはもちろん、時代背景の推移を書き込むのも大変だ。「男女逆転」という野心的な設定で、徳川13代(※)にわたる江戸時代史をぐいぐい進めていくのだから、作者のすごさは読まなくてもわかりますね?
若年男性だけが罹る感染症の流行により、男子の数が極端に減り、女性が将軍職を継ぐようになった、という
『読書と日本人』 津野梅太郎
名編集者による日本人の読書史。軽く読めるけどただの雑学じゃない。想像力や思考力がめちゃくちゃ刺激される! こういうのを「教養」っていうんじゃないかな。
「日本人は昔から識字率が高かった」という漠然とした感覚ってありますよね。戦国時代または幕末・維新にかけて来日した外国人たちが驚きをもって記録していることから広まったと思われます。「寺子屋」に通う子どもたちのイメージもあるかもしれません(時代劇でよ
『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』シャルル・ペパン
私が通った文学部の中には哲学科があり、東洋哲学・インド哲学・西洋哲学・現代哲学・倫理学・仏教史・美学美術史などなど、そうそうたる授業が行われていた。もっと勉強しておけばよかった。40を過ぎてからフランスの高校生レベルの本を読んでいます(笑)
でも、大人になったから興味を持てることってあるんだよね。大人になりすぎた感があるけど‥‥w
とにかく、これを読んでいる間じゅう感じていたのは、ヨーロッパっ