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『大人の本音だだもれ。』6話 40代女性は新しい人が来て焦りを感じてる【Web小説】

第6話 みんなの関心があの人に集まってる

 ウソでしょ。派遣スタッフが美人すぎる!

 目鼻立ちがハッキリとした彫りの深い顔、目は大きくまつげが長い。メイクをしているのかわからないけど手を加える必要はない。同性なのに見とれてしまうほどの美貌。

 いるんだよね、持って生まれた人。
 きれいな顔のうえに体形も標準。デブならよかったのに。
 でも服装はダメね。

 素材はいいのにグレーのパンツスーツは地味すぎる。もっと明るい色を使ったブラウスにスカート姿だと映えるだろうに。

 負けたと思ったけど彼女は大丈夫かも。

 挨拶は「汪花おうかです、よろしくお願いします」で終わってしまい、コミュニケーション能力が低いことに安心できた。朝礼後、上司が席へ案内し始めたので汪花に声をかけてみた。

「汪花さん、私は隣の席の町家まちやよ。よろしくね。
 わからないことがあったら遠慮なく聞いて?」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 笑顔で答えたけどそれだけ。やっぱりコミュ力がないようなので安心し、さっそく彼女の仕事ぶりの評価を始めることにした。

 鼻の下を伸ばして業務の説明をしているわ。

 いつもだるそうにしてる上司の声のトーンが少し上がっていて動作がぎこちない。パソコンのことは詳しくないくせに、いちいちやり方を説明している。

 みっともない顔だわ。
 美人にいいところでも見せたいの?

 態度の変わりように腹が立つけど、今は汪花の実力を知りたい。上司の説明はわかりにくいので、少し前に聞いていた彼女の仕事内容を思い出してみた。

 汪花の担当は書類作成。ワープロソフトを使ってデータに情報を追加したり、古い情報を削除して新しいものへ修正したりする。場合によっては表やグラフを作る必要もある。

 作業内容は紙の資料に赤字で書き込まれており、必要なデータが添付されている。指示書に従ってUSBメモリーに保存されているファイルを開いて上書きしていくというものだ。

 同じ作業をしたことがあるのでやり方を知っている。この仕事は必要なデータがどれなのか判断できないと手こずるものだ。

 上司の説明だとわからないわ。
 汪花さんは大丈夫かしら?

 心配だけど汪花の仕事スキルを確認するため静観し続ける。

 さっきから資料とパソコン上にコピーしたデータを見ているだけだわ。
 もしかして汪花さんはパソコンが使えないのかしら?

 仕事上、パソコンは欠かせないアイテムだけど、日常生活ではスマートフォンがあれば事足りる。自宅のパソコンはネット検索したり動画を見るだけという人は多く、家にパソコンがない人もいると聞く。

 汪花さんの仕事はワープロや表計算ソフトを使う。
 もしソフトが使えないなら話にならないわね。
 ふふっ。パソコンスキルも私のほうが上ね。

 安心して自分の仕事に集中しようとしたとき、汪花が資料を読むのをやめた。パソコンに目を落とすと手を動かし始めた。

 タッチタイピングでどんどんとデータを修正していくわ。
 キーを打つスピードは速いし、ショートカットキーも使いこなしてる!

 軽快にキーを打ち、視線は資料と画面を行き来していて手元は見ていない。仕事ができないと思いきや、彼女は仕事ののみ込みが早く、パソコン操作にも慣れている。

 パソコンスキルは上級じゃないの!?
 お願い、ミスしてよ!

 念を飛ばしてみるけど汪花はつまずくことなく作業を進めていく。

 そんな! 簡単にグラフを作ったりしないでよ。
 私と同じ位置に立たないで!

 文字入力できる人は多いけど表計算ソフトを使ってグラフを作れる人は少ない。

 助けを求めてくると思っていたのに。
 まさか汪花さんがこんなに仕事ができるなんて……。

 汪花を見ていたら奥にいる十住とすみが視界に入った。彼はぽかんと口を開けて彼女を見ている。周りに目をやれば、ほかの従業員も汪花に視線を送っていた。

 みんなも彼女のスキルに気づいたわ!

 容姿では勝てないけど、パソコンスキルは自分のほうが上だと思っていた。ところが汪花は同じくらいのスキルがある。

 このままだと私の居場所がなくなってしまう……。


 ライバルが現れたことがショックで、集中できないまま一日の業務を終えた。帰宅しても汪花のことが気になったままベッドに入った。いつもはすぐに寝てしまうのに、なかなか眠気がこない。

 汪花は同じ非正規雇用なのでスタート地点は一緒だ。これからビジネスパーソンとしてのスキルと、女としての魅力を競うことになる。

 これまで積み上げてきた地位を守ることができるのか不安で、マイナス方向に考えてしまう。ずっと悶々もんもんとしていたけど明け方になってようやく眠りについた。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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