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2021年2月の記事一覧

田村亮(2010)『28歳で政治家になる方法』経済界



参入障壁が異様に高く感じられてしまう政治の世界への入門本として、若者の感じるハードルを下げるには一定の効果がある著作物だと思う。もちろん楽観にすぎる部分はあり、また校正のなっていない部分が多いのは残念である。

執筆から10年がたった今でこそ、N国の立花孝志や戸田市議のスーパークレイジー君など政治の舞台にも革新が起きているが、こうした政治の"民主化"に筆者が貢献したのは間違いないだろう。目立つ

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前田健太郎(2014)『市民を雇わない国家:日本が公務員の少ない国へと至った道』東京大学出版会



ある時点まで、官僚支配の日本という自画像は国民の中に大きかっただろう。今こそ政治主導が叫ばれ果てて、画一的なイメージは薄まっているが、それでも「日本は公務員が少ない国だ」と言われると実感と違うと思う人は多いだろう。

本書では市民を雇わない国家たる日本の姿を、政治経済学・比較政治学的に論証した労作である。本書の示してくれた共通認識に立ち、この先我が国の公務員制度について考えていきたい。著者は最

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有川浩(2017)『キャロリング』幻冬舎文庫



基本的には家族や恋人との絆をテーマにしたエンタメ本。キーとなる子どもがどこか年齢離れしていて、物語の進行上仕方ないにしても少し残念。しかしながら、要所要所の心理描写が的を射ていて秀逸である。

夫婦の争いを目前で見せられる子どもの感情、元恋人への自然と出てしまう躊躇い、親代わりと思ってきた人への信頼、取り戻せない愛しさと変わらない愛情。生きとし生けるものの感じる情動の大きさよ。

柚木麻子(2020)『さらさら流る』双葉文庫



人間が全力で感情をぶつけ合って生きて、そして別れて、振り返りながらまた一つ強くなっていく。誰にどうされようと動かない自分の芯のような部分があったりして、その強さに自分でも恐ろしくなってしまったりする。それでも捨てられないものだから、私なりに向き合って進んでいく。

現代の男女交際を基軸に、リベンジポルノのようなもの題材として取り上げ、今という時代に生きる人間の姿を湧水のような瑞々しさで描く。こ

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阿月まひる(2020)『たとえ好きなものが見つからなくても』角川文庫



望ましい人生とか望まれる生き方とか、ちゃんとするっていうことが何だか馴染まない。好きになったものが、たとえ世間には認められないものだったりしても、それでもきっと私たちは生きていく。

緩やかなタイムリープ物。25歳のフリーターが10年前の高校生活をやり直していく中で、あの頃には気づかなかった現実があることを知っていく、そして自分のよわい心にも向き合っていく物語。今あなたに見えている世界は、決し

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