深夜、女の子とふたり旅

四ツ谷の夜勤が午前3時に終わって
始発までまだだいぶ時間があって。
それにだいぶ寒い季節だし。




駅のシャッターが開くのを待ってる夜勤終わりの警備員、という構図が見苦しく感じられるあたしは、とりあえず歩く!




昨日はね、
やはり同じ四ツ谷で
同じように午前3時に夜勤が終わったとき
『わたしは家まで歩く!』と
勇ましく叫んでる女の子(たぶんアメリカ人)に、だいたいの道順を教えてあげて、
あたしはあたしで勝手に歩き出した。
おっさん達は始発までシャッター前で座り込み。




きょうも午前3時、
だいたい同じような展開になり。




そしたら
昨晩『家まで歩く!』と叫んでた彼女があたしに言うわけ。
いっしょに歩いてほしいって。



勇ましく叫んでたわりには
昨晩はけっきょくおっさん達と
シャッター前に座り込みだったんだってさ。



夜中、女の子ひとりで歩くのは怖いから。




だから昨晩歩いてたのは
けっきょくあたしだけだったらしい。




『夜中、女ひとりで歩きたくない』



まぁそれもそうか。



そんな気持ちを体験していないあたしのほうが珍しいだろうね。ぶっちゃけそこらのオトコより、あたしのほうが強いし。



まぁこーゆー話題はあんまし出したくはないのだが。暗い夜道を怖がらないのは、あたしが元男性なのと関係ないとは言えないだろう。実際、真夜中に知らない男と出くわして、キモイと思うことはあっても、怖いと思うことはないから。あーまぁ、そこには別の理由もあるし、あたし自身はそっちを強調したいですけど。




そんなわけで午前3時20分、
カタコトのニホンゴしか通じない彼女とふたり、
真夜中の都心を歩き始めた。




個人的には、
起点が四ツ谷だとね、
『内側を横切って』
新橋とか有楽町に着くコースが好き。
鉄道路線はだいたい頭に入っていて、
しかしクルマを持たず道路を知らない身だと、四ツ谷→虎ノ門とか、こんなショートカットがどうして可能なのか??!?みたいな気分になる。どうしてこんなに近いの??それが楽しい。
なので昨日は午前3時の四ツ谷から
午前5時くらいまでかけて新橋まで歩いた。





でもまぁ今日は連れがいてですね、
彼女は早く家に帰りたいわけだから。
彼女の家に近づく方向にひたすら歩くことにした。




道順はあたしが勝手に決めていいらしいので、四ツ谷→麹町→半蔵門→千鳥ケ淵→九段下。それにしても以前はマラソン選手だったみたいな、ものすごい早足だな。



老若男女問わず、
誰彼構わず追い抜きながら歩くのが、
あたしの常態になっているのだが、
同じペースで彼女も歩く。



夜中だから邪魔は入らないし、
信号待ちもほとんどない。










ここ数年は、
知らない人(※単なる通行人)と出くわすのがイヤだ、というひどく偏屈な理由で、わたしは不要な外出をほとんどしなくなってしまった。
けれども、そんな“過敏な”自分になる前は散歩が趣味で、あちこち歩き回っていた。
いまも、夜勤明けにヒマができたら、とりあえず歩く。夜はほとんど誰とも出くわさないし。





歩くのが好きな理由って、
けっきょく風景を眺めるのが好きなんだと思う。とくに夜中だと、土地の雰囲気が色濃く出るからね。住みたい土地、近づくのもイヤな土地。自分自身の好みは、夜中に近接すれば一瞬で判別つくよ?!





あたしはこんなふうに、
根が道楽者なのだが、
同伴の彼女にはそんな余裕は無い。






警備業界によくある話、
彼女も昼夜働いてお金を稼いでいて、
つまり夜勤が明けたら、
次の日勤が始まる前に、
少しでも休みたいから、
少しでも早く家に着きたい。
しかしタクシーに乗る余裕はない!
そんな理由で歩いているので、
風景を眺める余裕もない。



そんな生活が、
警備業界の『ふつう』なのです。








カタコトとはいえ、
ふたりであれこれおしゃべり。
あたしは自分から語りたい話題は何も無いから、もっぱら聞く側だけど。
料理を作り置きしたらお腹壊したとか言ってる??





『できればぜんぶ出勤したいけど』
こんど婦人科行くから仕事休まなきゃ、
なんて彼女が言い出すので、
『病気なの??』
って聞いたら、
────生理こない。





その話題にどうリアクションしていいか分からないんですけど💦
あちらも特定の態度を期待しているわけではないようなので。
つーか、オトコいるんだね!








あたしが、
れっきとした男性だった頃。
急に親しげに接近してきた同性に、
こちらとしては嫌がる理由もないから、
じゃあ仲良くしましょう!!
という感じで接していたら、
数ターン後には(※だいたい数ヶ月くらいで)
いきなり性的な関係を迫られて
面食らうこと度々。
それも、真剣な愛の告白という感じじゃなくて、ようするに『タダでやれる』と思い込んでやがって、失礼極まりねーな💢💢
そんな体験を、
じつは何度も繰り返してきました。
まったく自覚はないまま、
わたしはわたし自身を
『ゲイとしてアピールしている』
ような容姿だったようで。
鏡を見れないほど自分の容姿がキライだと
その姿がどんな意味を持つのかさえも、
自分では把握できていなかった、
ということなのですが。
わたし自身は男性との性行為にまったく興味が無かったので、その都度ひどく面食らってましたね。






ひきかえ、
女性になったいまでは、
現在同伴中の彼女は、
あたしと性的な関係になる可能性は
最初から100%無いと確信していて、
当然のように、そのように振る舞う。
え?こーゆー気楽さって、
あたしにとっては、
(思春期以降では)
生まれて初めてかも??!?





逆に言えば、
わたしも彼女に性欲を向けることは
100%無い。



というか、
『性欲を向ける』という表現じゃあ、あまりにもあからさますぎるけどさ、
もっとマイルドなニュアンスでの、
なんというか、
いわゆる、
『女の子と過ごす』ことの
特別感というやつも、
もう、まったく無いんだよね。






男性時代の末期、
わたしには、始終連れ歩いてはメシを奢ってあげている女性がいて、
はたしてそれは性的な欲望と関係があったのか、今となってはまったく謎だけれど。
すくなくとも、
『女の子を連れ歩く』特別感が、
たしかにそこにあったわけだよ。
いっしょにいるときの費用は、
全額わたしが負担していたもの。
しかも、
そんな関係の女性が、
ふたりもいたのだ。
プライベートで1名、
職場で1名。
(※2017年~2019年頃の話です)







あの頃の、
『女性を大切にする』
という精神は、
いまでは
『自分自身を大切に扱う』
という意味になり。






いまいっしょにいるこの女性から見て、
わたしは同性で、
わたしにとっても、
この彼女は、
何の変哲もない
『ごくふつうのニンゲン』
なのだった。






2019年までひたすら食事をご馳走していた女性ふたりのうちひとりは、職場の関係の人、ということは、つまりその彼女も、連勤族で昼夜働いていたわけです。
プライベートタイムも睡眠時間もなく働いていて、なおかつカネもない彼女を見るに見兼ねて、あたしは毎日食事を奢っていたのだが。




2022年のいま、
同じように、昼夜働いてプライベートもなく睡眠時間もない女性を見ても、べつに何とも思わない。
あたしが大切にするべき女性は、
このあたしですから!





2019年までいっしょにいたその女性とも、
夜勤明けはよくいっしょに歩いたものだった。
まぁあたしがパトロンということもあるからね、徒歩遠足ならぬ徒歩デートみたいな雰囲気はあったよね。
一方、
2022年現在のこの子と、
どれほど打ち解けたとしても、デートみたいな雰囲気には絶対にならないだろう。
それにあたしはこの子にお金を出す気はまったくない。






皇居沿いの、
マラソンランナー御用達の綺麗な道を歩いているとき、道路の向こうにおよそ日本らしからぬ綺麗すぎる洋館を見た彼女が声を上げた。
『この建物は??』
へぇえ??
あたしは答える。
『英国大使館。』
『イングランド!』
(※グーグル先生に教えてもらいました)





へぇ!風景、まったく見てないわけでもないんだね!?なんだかすこし安心した。





都心部のなかでも千代田区なんて皇居所在地ですからとくに治安が良くて、トイレも綺麗で。彼女は頻繁にトイレに立ち寄り、そのたびあたしは外で待機しながら、地図を見て次の道順を考えていた。





靖国神社まえで靖国通りに合流。
ヤスクニドオリ、
と言っても通じなかったが
ケイヨウドウロなら通じた。
そうです!
つまりあなたは、
あとはひたすらこの道をまっすぐ往けば
お家に帰れます!
(※ウチの会社の人達はだいたいみんな総武線の民、あたしだけ別の地区)





午前4時、九段下。
御茶ノ水発午前4時29分の
始発電車に間に合いそうなので、
御茶ノ水へ。




むかし、
神保町には毎日のように通っていたから、
このへんの道にはすごく詳しい。
御茶ノ水駅は坂の上にあり、
水道橋方から接近すると急坂なので、
駿河台下から上るんだよ!




これだって、
『女性をエスコートしてる』
ことになるのか??
まったく疑問を持たずに着いてくる彼女。
まぁあたしじゃ送り狼にはなりようがないけど。そこじゃなく、道を間違ったりしないかを、疑ってない。日ごろのあたしはムチャクチャ方向音痴なんですけどね💦






4時20分ごろ御茶ノ水駅に着いて、
改札前でちょっと喋って解散した。
わたしが改札をくぐらないのを知って、
理由に気づいた彼女は、
(※アメリカ人としては破格なくらい)
丁寧にお礼を言ってくれた。
そうです。
わたし自身は総武線の始発に乗っても帰れません!




午前3時20分くらいに四ツ谷を出発
午前4時20分に御茶ノ水駅に到着




真夜中に女の子とふたりきりでいても
まったく特別な体験にならないことを
はじめて実感させられた
シュールな1時間




あたし自身は御茶ノ水にはまったく用はないし、これからどうしようか?
そう思ってほんの数分歩いて到達したのが
男性時代に野宿をするとき愛用していた場所だったのでウケた。




女として通用するかどうかに
死ぬほど葛藤させられる身分だったけど、
いまや女性同士の安心感を普通に出せる、
カンペキな完パス状態。



ここまで到達するのに、
わたしは性転換だけに取り組めばよかったわけではなく、
振り返れば、宗教の洗脳を解いて実家と縁を切ることのほうが、はるかに、はるかに難易度の高い難事業だった。






そうしたことに思いを馳せるとき。
夜中ひとりで野外にいても平気とか。
はては、
特定の場所を定宿にするほど、
野宿の常連だったとか。





実家と縁を切ると決意してから
それを実現させるまでのあの時代、
あんなムチャクチャなことができたのは、
ぶっちゃけ男だったからだよなぁ、、、。





2016年頃、定宿にしていた、
超高級マンションの軒下で、
この原稿を書いています。





つくづく、
なんて数奇な人生なんだろうね??!?






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