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天気の無駄遣い


そうだ。あの日もちょうど雨が降っていた。

午前中は青いシャツに汗が滲むほど、カラッと晴れていたのに、お昼ご飯を食べ終わったあたりから
しとしとと雨が降り出した。

「天気を無駄遣いしちゃいけない」

君は張り切ってサンドイッチを作っていたけど、
てんでピクニック日和じゃなくなった。
それでも君はパラソルみたいに大きな傘を握り、僕を公園へ誘った。
君が僕の家のチャイムを押した頃には、雨が窓を打ち付けるくらいに激しくなっていたから、僕は君の誘いを躊躇った。
だけど君が作ったサンドイッチは格別美味しいことを知っていたから、そのサンドイッチが勿体無いと思って君について行った。

僕は数日前、傘をコンビニで盗まれたばかりだった。だから君は快くその傘に僕も入れてくれた。
二人入っても十分過ぎるほど大きなその傘は、中に入ると青空が広がっていていた。

信号が赤に変わり、立ち止まると余計に雨が傘に当たる音が聞こえる。

「譜面が見えてきた」

君は突然、道路を見つめながら言った。

「譜面?」

雨の音が邪魔して、ホルンのような君の声はかき消される。

信号が青に変わると、君は軽やかにステップを踏み始めた。

「ちょっと、何やってるんだい」

僕は君に追いつこうと小走りになる。

「『雨に唄えば』じゃないんだから」

僕は笑いながら言う。

「それを言うならトトロでしょ」

「君はそのどちらでもない」

僕らは笑いながら大きな水たまりを踏んだ。

「あ!」
「あははは」
「びしょびしょだ」

君は笑いながら、天を仰いだ。
空は相変わらずグレーの雲で埋め尽くされていたが、僕たちの頭の上だけは青空が広がっていた。

天気を無駄遣いしないって、きっとこう言うことだ。

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