「ガンダム」ではなく、「ザク」として

 社会人として、すでにギリギリのラインで踏ん張っている若者たち。そしてこの春、社会人としてスタートを切る若者たちへ。募集テーマ「#会社員でよかったこと」に寄せて。

 現在も新作が制作されるTVアニメ「ガンダム」シリーズ。その最初の作品が、「機動戦士ガンダム」です。

 小学生だった私が、生まれて初めて組み立てたプラモデルは「ザク」でした。
(厳密には陸戦用の量産型ザクⅡ・J型を指しますが、本記事では「ザク」とします)

 機動戦士ガンダムは物語の中で「一年戦争」と呼ばれる、連邦政府とジオン公国の戦争がメインストーリーのアニメです。
 「ザク」はジオン軍の主力モビルスーツとして登場します。しかし、物語が進むにつれて次々に新型が登場し、主力機の座を明け渡します。

 性能的に見劣りする「ザク」は、いわゆる「やられキャラ」的な存在になっていきますが、それでも少年時代の私は「ザク」が大好きでした。

 社会人になると新入社員は当然ながら、半人前の戦力です。様々な経験・体験を経て、一人前になります。
 1年目から「ガンダム」級の獅子奮迅の活躍は、さすがに無理です。ブラック企業なら話は別ですが、従業員を大切にする会社であれば、早々に潰れてしまう様な起用を、普通はしません。

 私は今まで、複数の会社に勤めましたが、世の中は「ガンダム」を求める会社が大半です。
 しかし新入社員は皆、「ザク」なのです。

 新入社員に大したトレーニング期間を設けずに、即戦力として現場に送り出す会社は数多くあります。私自身も、何事も実地で学んでこそ身につく、という考え方自体は否定しません。
 しかし、そのストレスフルな状況が心身を疲弊させ、早期離職につながるリスクは高まるばかりです。

 近年では、転職に対してのネガティブなイメージは薄れてきましたが、諸外国に比べると、日本はまだ生え抜き信仰が強い風潮があります。早期離職に向かってしまう若者たち自身も、その現実を承知の上で決断に迫られます。決して安易に逃げ出している訳ではありません。

 充実期を迎える中堅社員ならば、「ガンダム」級の活躍が期待されます。
 しかし、新入社員には「ガンダム」ではなく、「ザク」としてその能力に見合った仕事量を割り振るべきです。
 仕事の現場を「戦場」と称する人も世の中にいますが、撃墜必至の新兵を戦場に配置するのを、オペレーションとは呼びません。

 この春に新入社員として社会に出る若者の中には、「売り手市場」の背景も手伝って、希望する会社に入れた人も多い事でしょう。
 しかし、希望する・しないに関わらず、苦しい瞬間は大半の人に必ずやって来ます。そんな時は独りで悩まず、信頼できる先輩に相談して下さい。目の前の問題に対する、直接的な解決方法は提示してもらえなくても、打開のヒントをもらえる可能性は十分にあります。

 ある程度の人数が働いている部署ならば、色々なタイプの人がいます。その中から信頼できる人を普段からよく観察して、見つけておいて下さい。それまでの人生で培った「人を見る目」が、ここで最も活きてきます。

 「会社員でよかったこと」ですか?

 平常時ではなく、ピンチの時に助けてくれる人は、意外と出世していない「普通の人」だと学んだ事でしょうか。

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