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文学作品

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高校生の頃に作ったものを手直ししています。あとは最近の作品です。
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#記憶

僕の未来予想図⑤

僕の未来予想図⑤

僕がここの工場にたどり着いて数日、カネさん夫婦は僕の話を真剣に聞いてくれた。奥さんは声を上げて泣いてくれて、カネさんはすごく優しい笑顔で肩を叩いて励ましてくれた。
「もうナンも心配いらんよ。好きなだけココにいて良いから。修クン、ナンもないけど、ココでゆっくりしてきんさい。」
カネさんの言葉に、ようやく僕は救われたような気がした。気づけば僕も、声を上げて泣いていた。それは忘れていた涙だった。数年ぶり

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迷子になった話

迷子になった話

それはボクが小学2年生の頃の話だ。
当時は結構ワイルドな時代だったから、小学低学年のこどもの遊びで探検ごっこが流行っていた。夜のテレビで何かしらの財宝を探しに行ったとかいう番組があると、しばらくは近所の山や谷に数人で冒険の旅に出かけるのだ。

何かしら宝物が見つかるわけではない。それよりも、どこまで遠くに行ったのか。どんな目にあったのかの方が重要視された。一言で言うならオレって勇気あるだろ、の自慢

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ヨミの国からこんにちは、の話

ヨミの国からこんにちは、の話

目覚めると、ボクは色のない世界にいた。

見回すと辺りは霧がかかったように霞んでいて、先が見渡せなかった。それに耳を澄ますと、音がない。ボクの足音すら聞こえない、そんな不思議な世界にボクはいた。

奇妙な感覚に馴染めず、手で顔を覆ってみた。微かに肌の感触があった。でもボクの指先は微かに透けていた。足元をみると、靴の先が消えてなくなって見えた。

不思議な世界だ。夢でも見てるのだろうか。頼りない世界

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夢日記

夢日記

最近、よく夢を見る。
その日の午後には何も覚えていなくて、夢を見ていた、それだけ。何かしら楽しかったような…それ以上の記憶がない。モヤモヤするって、こういうヤツだ。

気になって、ある時恋人に相談した。夢日記を付けるといいって教えてくれた。目覚めたらすぐに夢の記録をつけるのだ…うー、面倒だが仕方ない。
正体の見えない誰かさんと一戦交えるような気分だ。思い出せない数々の夢に悶々とした僕は、夜が楽しみ

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幼き日の遠い記憶

幼き日の遠い記憶

幼い子どもの頃、隣のさやちゃんとよく遊んだ。
さやちゃんは同い年だけど大きなお姉ちゃんがいたせいか、ませて僕のことをいつも子ども扱いしていた。だから遊びはいつもおままごとで、僕は子どもの役ばかりだった。本当は嫌だった。けど当時の僕は幼い子どもで、さやちゃんに嫌だって言えなかった。だからさやちゃんがお母さんになって、ご飯を食べたり、一緒に横になって寝たりして遊んでいた。

その日も相変わらずのままご

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