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就活オセロゲーム


「就活」と聞くと、今でも少し後ろめたい気持ちになる。

自己分析をして、エントリーシートを書いて、黒いスーツに身を包む。
ライバルたちに挟まれて、全身全霊で臨んでも、想い届かずお祈りメール。
「私のどこが悪かったんだろう」「社会から必要とされていないのかな」と、打ちひしがれる。
そんな苦労を経験してから社会に出た人に比べて、私は試験を一つ受けただけ。
もちろん、試験に向けて努力した。
でも、苦労して就活をしたのかと聞かれたら、ちょっと違う気がする。

社会に踏み出す「はじめの一歩」について深く考えず、周りに流されてここにいる。
だから私は、就職して7年経った今も、就活に対する後ろめたさを抱えている。


小学3年生のときに、「学校の先生になりたい」という夢ができた。

元々、学校は嫌いだった。
勉強はめんどう、体育は苦手だし、牛乳は飲みたくない。ドッジボールは痛いだけで、何が楽しいのか全然分からない。いじわるな友達になかなか言い返せない。

ハイパー消極的小学生の私が、学校を好きになったのは担任のT先生の影響。

T先生は話が本当に面白かった。
よく授業内容から脱線して、いろいろな話をしてくれた。
大好きな海外旅行の話から、幼少期に髪の毛がいつまで経っても生えなくて心配された、という超プライベートなエピソードまで。20年以上経った今でも、はっきりと覚えている。
「先生の話を、一言も聞き漏らしたくない」と、毎日学校に通った。
なんと3年生は皆勤賞。
T先生のおかげで学校が楽しくなり、先生という仕事に憧れをもった。
「将来の夢は?」と聞かれると、決まって「学校の先生!」と答えるようになった。周りの人たちは「いいね、とても合っているよ」「素敵なお仕事だね」と褒めてくれた。

先生になるなら〇〇大学でしょ、と定石のように決めた大学。
家族も周りも応援してくれた。
3年生になったら教育実習に行き、4年生になったら、採用試験を受ける。
みんなと一緒に勉強をして、面接対策をして、試験に臨む。
自分なりに頑張った結果、晴れて先生として働けることになった。

しかし、ふと振り返ると「私は本当に先生になりたいのか」と立ち止まったり、他の仕事と比べてみたりしたことは、一度だってなかった。改めて自分の心の声に耳を傾けることも。
ふわりと夢を抱えたまま、ふらりと流されて、気付いたらここまで辿り着いていた。

流されるままに就いた、先生の仕事。
身も心もヘトヘトになる日もあるけど、子どもと過ごす時間は面白い。
泣いたり笑ったりしながら、大きくなっていく姿を見られる豊かな時間。
9割大変でも、1割楽しいことがあると続けてこられた。「子どもへの話し方が上手だね」と褒めてもらえることもあった。どちらかといえば、自分に合っている仕事だと感じている。

でも、仕事で悩むことがあったときは、「あのとき苦労して就活に向き合わなかったからだ」「他の仕事を見ていたら、もっと私に合う仕事があったのかもしれないのに」と、いつも大学4年生の自分を責めていた。

もし、過去に戻れるなら大学生からやり直したい。もっと自分と向き合って、もっと苦労して就職先を決めるのに。



週末に、ジムで運動しながらラジオを聴いていた。お悩み相談コーナーだった。

やりがいもあり、天職だと思うが、自分の仕事に自信が持てない。その裏に、就活を頑張りきれなかったことがモヤモヤとして、ずっと残っている

私と同じような人だ、とラジオの声に聞き入った。
苦労して就いた人の仕事に比べて、自分の仕事を下に見てしまう、とのことだった。

ラジオパーソナリティが返事をする。

そもそも、就活の最終目的は、自分の強みや性格を生かした仕事、好きな仕事を見つけること。
苦労をすることが目的ではない。
自分に向いていると思える仕事が見つかった時点で、あなたの就活は成功している


ひっくり返るような衝撃を受けた。

就活の目的は、「苦労すること」ではない。

その通りだ。

「一発で当たりを引き当てちゃったから、この道で本当によかったのか不安になっているだけ」
「天職と思えているなんて、もう最高の仕事だよ」

パーソナリティの言葉に、運動することも忘れて、ただぼーっと座り込んでしまった。

先生になって7年間。
毎日一生懸命働いてきたが、就活を頑張りきれなかった自分を、どこかで責めていた。

でも、すでに私は自分に向いている仕事を手に入れていた。あのときの就活は成功していたのだ。

就活で苦労していないことはいけないことだと、白黒つけてしまっていたのは自分だった。
向いている仕事に出会えたなら、それで成功なのに。

なんで今まで気が付かなかったのだろう。
後悔を抱えたまま仕事をしていたことが、申し訳なくなった。仕事のことも、自分のことももっと大切にしてあげたい。

たまたま聴いていたラジオに、7年間の後悔から救われることがあるなんて。

「就活は苦労することが目的ではない」

たかが一言、されど一言。
長年の考えを一気に覆す。
まるでオセロゲーム。
コマの色が一つ変わったことで、ババババーっと7年間分のコマがひっくり返った。

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