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そのスピードのままで。
大人の遠足に行った。
コンビニでトリスの缶ハイボールを買って、コロッケをふたつ。
午後6時に、奥多摩は柳沢峠へ車で向かった。
もちろん、運転手はノンアルコール。
いつもなら助手席の私も遠慮するが、これは遠足なので、はしゃいで1本だけ、お酒を買った。
丁度帰宅ラッシュで混んでいる青梅街道を走り、途中で新青梅街道に入る。あとは真っ直ぐ走るだけ。
徐々に減っていく車を横目に、私たちは他愛ない話をしなが
逃げる恥だが役に立つ。
今の家に引っ越してきて、もうすぐ一年になる。
知っている人も多い町ではあるが、道はまったくわからないし、
お店も前に住んでいた場所より少ないし、家から駅も遠い。
だから今でも結構頻繁に、「前に住んでいた家に戻りたい」などと思ってしまう自分がいる。
今の生活に不満があるわけではない。
私が寝たきりで動けない間、恋人はそっとしておいてくれるし、
小説もばりばり書けるようになったし、
悪夢を見てうなさ
鼠の話(20160429)
花々の花粉で煙っているように思える空気と半月を過ぎた朧月。
どこからかやって来る藤の花の香りが鼻先をくすぐる。
気持ちのいい、春の宵。
いつも行く飲み屋で美味しいお酒とご飯を楽しんで、ほろほろと心地良く酔っ払って辿る、家路の途中だった。
「あ」
立ち止まって、足元を見る。
そこには、車にでも轢かれたのだろう、鼠の礫死体が転がっていた。
今、死んだばかりのようだ。
街灯の光を受けたピンク色の
夜の涯てに青が溢れる(20160422)
君の首筋を噛んだら、朝が死んだ。
朝日の落ちる余韻が背骨に響いて、星々の囁きが迫るように聴こえだした。
いったいどうしてこんなことが起きたんだろう。
僕たちはふたり、いつものようにまどろみながら睦みあっていた。
「朝が来なければ、ずっと一緒にいられるのに」と君が言った後、半分夢の中にいた僕の頭の中で「彼女の首を噛んだら願いが叶うよ」という声がして、それをなんとなく実行しただけだ。
最初は何かの
祖母の食卓(20160415)
四月に吹く風を身体で浴びるたび物悲しくなるのはきっと、その風が舞いあがらせる冬の死骸がもう手の届かないところへいってしまった大事な人たちのことを思い出させるからなんだろう。
*
祖母が死んだのは冬の初めだった。
祖母の庭で遊んだのはいつも真夏だった。
それなのにどうしてだろう、彼女の事を思い出すのはきまって、冬と春のあわいにあるこの曖昧な季節。
曇った空は心なしか明るく、景色は瑞々しさをたた