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記事一覧

ホワイトホール

光が白く灼くアスファルトの上
スカートをたくしあげた君が笑っている
何かを呟いてる でも声は届かなくて
ただどうしようもなく確信的に
「殺してくれ」 と 唇が動いて見えた

それは遠い 春の日の思い出
指の下 強く脈打つ頚動脈に怯えた真昼

呼吸にすら傷つけられてしまう脆い君を
一体どうやって繋ぎ留めたらいいだろう
「世界の果てへ行きたい」と云う君の
真摯な あまりに真摯な眼差し

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冬の夜に

秋が呼吸を拒み、冬が明けた
硝子質の夜の底に星明りが反射する
手を伸ばせば届くような気がした
夜の底を 垣間見たような気がした

全ては傲慢な錯覚で
明けぬ夜がないのと同じように
夜を見通せるわけもないのに

目の前には暗闇の中 ほの白く横たわる天井があって
隣で眠る君からはいつも夜のにおいがする
明け方に目を覚ますといつも
あふれ出る夜に君がさらわれてしまったように思えて
強く強く 抱き

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終末のパレード

まだ無邪気に明日を信じていた昼下がり
どこからか 死人の唄が聴こえてきたよ
黒いヴェールがそよぐ気配
知らない言葉で 平和を呪う唄が伝ってきたよ

テレビの中の戦火は触れても熱くなくて
写真の銃は誰を傷つけることもできない
ラジオが報せるニュースの中 響く悲鳴は丁寧に消されて

私達は何処へ向かうんだろう
どれだけの国と人を滅ぼせば
奪うことを必要としない種に進化できるんだろう

目覚めたら世界が

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春を往く

動脈みたいに空を這う木の枝に
花という名の血が通う
生ぬるく吹きすさぶ風に裏返るビニール傘
記憶さえ飛んでいってしまいそうな夜

歩き出した足は
目的もないまま ただ止まらずに

生まれてから今まで
この口は何度 「寂しい」と呟いただろう
それは鋭利なナイフで
声が育んだナイーヴ
口の中は血だらけだ

家族がいて 友達がいて
だけど絶対に埋まらない孤独が
この魂の中心を貫いている

名前を呼んだ 

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ナイフのベクトル

今僕がナイフを握ったらどうするのだろう
保存を意味しない死体と
保存を容認する空気 / 世界観

君は笑っている
どうせ何も出来ないでしょうと
その白い細い腕を絡めつける
切っ先でなぞったら簡単に血管が筋肉が見えそうで
僕はナイフを模倣した指先でそれをなぞる

君はいつも僕を理解しつくしていて
それが時々性もなく理解不能で
僕は左手の指輪を草原に投げつけては見つけに行く

今僕がナイフ

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