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小説

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小説たち。
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ローレライ

 車のヘッドライトがカーテンの隙間から部屋の中へ忍び込んでくる。照らされた天井がその光を受けて白く揺らめくので、まるで水底にいるみたいだ。
 魔法は使えないけれど、魔法のような言葉なら持っている。

 ローレライ。

 そっと呟き目を閉じれば、今夜も君に逢えるような気がした。毛布を引きずり上げ、僕は目を閉じる。
 いち、に、さん……数えて。数えているうちに眠りに沈んで。そして僕は、君を探すんだ。

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咲かない春

 まだ冬の気配が色濃い春の始め、君は突然、僕の前から姿を消してしまった。

 桜が咲いたらお花見をしようね、と約束していたはずなのに、どこかに行ってしまった。同じ空の下、何食わぬ顔で元気にしているのか、それともふとした拍子に開いた異世界へ通じる穴とか扉から向こう側に行ってしまったのか。
 いくら探しても君は見つからず、僕はその過程で心をおかしくしてしまったらしい。
 同僚と話している間に日本語が喋

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