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鼠の話(20160429)
花々の花粉で煙っているように思える空気と半月を過ぎた朧月。
どこからかやって来る藤の花の香りが鼻先をくすぐる。
気持ちのいい、春の宵。
いつも行く飲み屋で美味しいお酒とご飯を楽しんで、ほろほろと心地良く酔っ払って辿る、家路の途中だった。
「あ」
立ち止まって、足元を見る。
そこには、車にでも轢かれたのだろう、鼠の礫死体が転がっていた。
今、死んだばかりのようだ。
街灯の光を受けたピンク色の
夜の涯てに青が溢れる(20160422)
君の首筋を噛んだら、朝が死んだ。
朝日の落ちる余韻が背骨に響いて、星々の囁きが迫るように聴こえだした。
いったいどうしてこんなことが起きたんだろう。
僕たちはふたり、いつものようにまどろみながら睦みあっていた。
「朝が来なければ、ずっと一緒にいられるのに」と君が言った後、半分夢の中にいた僕の頭の中で「彼女の首を噛んだら願いが叶うよ」という声がして、それをなんとなく実行しただけだ。
最初は何かの
祖母の食卓(20160415)
四月に吹く風を身体で浴びるたび物悲しくなるのはきっと、その風が舞いあがらせる冬の死骸がもう手の届かないところへいってしまった大事な人たちのことを思い出させるからなんだろう。
*
祖母が死んだのは冬の初めだった。
祖母の庭で遊んだのはいつも真夏だった。
それなのにどうしてだろう、彼女の事を思い出すのはきまって、冬と春のあわいにあるこの曖昧な季節。
曇った空は心なしか明るく、景色は瑞々しさをたた
花に嵐(20160408)
冬でもなく春にもなりきれない、身体の芯が疼くような、この予感に満ちた季節が本当はすごく苦手だ。
だから遠くへ。
うんと、ものすごい、遠くへ行きたかった。
盛大に咲き乱れた桜の花びらを乱暴に吹き散らしていく、無遠慮な春の風に乗って。
*
満開になった桜の淡いピンク色が沈む夜更け、川沿いの道を、私はひとりで歩いていた。
独り、とは書かない。
一人、とも書きたくない。
意味のある漢字にし