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散文

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#思い出

かたつむりが死んだ日から

かたつむりが死んだ日から

一日のうち、何度も死について考える。朝、目覚める前の一瞬に、もう死について考えている。空を見て、死について考える。風を感じて、死について考える。かわいい猫に触れて、死について考える。笑っているときも、泣いているときも、怒っているときも、喜んでいるときも、死について考えている。

何かが始まるのと同時に、終わりに思いを巡らせる。友人や恋人との関係が始まったとき、何よりもまず終わりを思う。朝起きて、一

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One Morning

One Morning

2014年11月15日の明け方に、僕はひとりで散歩に出かけた。僕は19歳だった。

朝まで眠らずにドラマを見たあと(若い女性が自殺する話だった)、しばらく使っていなかった水筒を棚から出して、散歩に持っていくための温かいココアを淹れた。ボーイロンドンのパーカーを着て、赤と紺のマフラーを巻いて、ベージュのスニーカーを履いて家を出た。

まだ外は暗かった。街灯の小さな灯りが遠くにぽつぽつと並んでいた。空

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わたしのケンブリッジ・サーカス

わたしのケンブリッジ・サーカス

何か恥ずかしい思いをしたり、うまくできないことがあって自分を情けないなあと思うとき、いつも心に浮かぶ風景がある。それは幼い頃にわたしが実際に行き、この目で見た思い出の場所でもあるし、それと同時に、わたしの心のなかだけに存在する心象風景であるとも言える。

先日、職場で交通安全講習会があり、30人くらいの従業員が集まって警察職員の指導を受けた。横断歩道や自転車のシミュレーターを使って実際に道路の危険

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戒めのコーヒー

戒めのコーヒー

高校生のころ、一騒動あってちょっとだけ警察のお世話になったことがある。例によって例の如く、騒動の原因はわたしの精神力のなさにあり、今は忸怩たる思いで反省するばかり。

学校をさぼってしょぼくれているわたしを見て、警察官の男性は、何に悩んでいるのか、何がつらいのか、真正面から向き合って優しく聞き出そうとしてくれたのだけれど、わたしは自分でもどうしてこんな事態になってしまっているのか理解できていなくっ

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Elevator Beat

Elevator Beat

夢の世界からむりやり引き離されて目が覚めた朝は時計に手のひらを置いたまま動けなくなる。胸のなかに石ころがつまっているようなこのどうしようもない虚しさはさっきまで誰かと一緒にいたからか。憂鬱か床に広がっていく。目を閉じて死んだふりをする。海に還りたい。長い眠りに戻りたい。
十月。きみは優しいだけだった。私も優しいだけだった。一緒にいると時間が止まってるみたいだからいけないんだって、もう前に進みたいん

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