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散文

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2021年1月の記事一覧

タイニーバード

タイニーバード

それは静かな朝だった

空も地面もしんとして
生きたもののざわめきもなく

景色は写真のように色褪せて

ふと立ち止まって
耳を澄まさずにはいられない

頬にあたる風に目を開けながらつぶやいた

今日のことを
ずっと前から知っていた気がする

くりかえし時間をめぐり
いつもこの日からはじめたこと

覚えているけどわからない

わからないことばかりなのに
悲しいくらいわかる

大事な何かを忘れている

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前世の骨

前世の骨

この世界のどこかに眠る
私の前世の骨

湿った冷たい土をかきわけて
古びた骨と遠い記憶を掘り起こしたら

あなたを赦すと伝えよう

あなたはわたし

わたしはあなたを赦します

ねえ

あなたが探していたものは
どこにもなかったよ

私も探したからわかる
求めているものはどこにもないと

だけどなにひとつ後悔できない

それは今が幸せだから

だから旅に出ようよ

あなたの破片を集めて背負うから

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その花のために

じっと植物を見つめて思った

どんなに夏の陽射しに強く
冬の風に強い草木でも

ずっと陽射しや風にさらされて
平気ってわけじゃないんだろうな

子どものころに育んだ花
弱い花と強い花

やがて荒れ果てた鉢の残骸

たくましく咲く姿に
枯れようがないと思っていた
片一方の花のぬけがら

わたしはそれと似たようなことを
だれかにしたことがあっただろうか

考えて 考えて

自分の弱さを思った

未熟だ

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エルサ、もう一度歌って

エルサ、もう一度歌って

ありのままに生きるということは、世間に背を向けることだと心のどこかで思ってた。でもいくらなんでもそれはない。礼節さえ大切にしていれば今はそんなに冷たい世間でもないはずだ。

「アナと雪の女王2」を観たあとからずっと考えてる。前作「アナと雪の女王」は、姉妹の絆を取り戻したという点ではたしかにハッピーエンドだったんだろうけど、私がエルサだったらあの物語の中で起こった出来事はかなり大きなトラウマになるだ

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夢の世界に運命は

夢の世界に運命は

ほんとうはこのごろ
ずっと無理してたんだ

自分の心が見えすぎて
人の心を読み間違えて
言葉はひとつひとつ失われ

そうじゃないんだと言えないまま
目の前で起こる誤作動を黙って見ていた

なにも言われてないのに
耐えられなくなってたんだ

だれとも言葉が通じなくなってたんだ

ずっと無理してたんだ
ほんとうはこのごろ

腕のなかで眠る白猫

たんぽぽみたいな耳の後ろに
蓄積された秘密の告白

日に

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泳ぎ

あなたの身体から力が抜けるのを見た

そのときわたしは
人が死ぬ瞬間を見た日のことを
ぼんやり思い出していた

そんなにも気を張って
わたしの目に映るあいだ
あなたはあなたでいてくれた

寒い寒い水曜日の朝
雲がやたら多く浮かんだ日
扉がついにからからと閉まった

永久に 永遠に 未来永劫

二度とわたしが開けることのできない扉が
からからと乾いた音を立てて閉まった

扉の前に立つあなたの姿勢の美

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世界中の陽だまりを

18歳の頃、神社に勤めていた。年末だけのアルバイトのつもりが、当時私が高校を中退して半分ニートだったこともあってか、そのまま続けていいと宮司さんが言ってくださって、結局そこから一年近くお世話になった。

出勤したらまず巫女装束か作務衣に着替えて竹箒で境内を掃除する。そのあとほかの巫女仲間や神職の方とお茶をして、御守りを作ったり、御札所で参拝客の対応をしたり、御祈禱に参加したり、事務仕事をしたりして

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