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原稿用紙二枚分の感覚

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「原稿用紙二枚分の感覚」の応募作や関連する記事をまとめています。
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#創作

目覚める前もずっと暗い

目覚める前もずっと暗い

 夢の中でだけれど、初めてバラの花束をもらった。青いのを三本、リボンで結んだ小さな花束だ。八重咲の花びらには蛆が這っていて、でも、とても良い匂いがする。
 棘の部分がむき出しのままだから、無理に握らされるとすごく痛い。渡してきた相手の手も血塗れで、きっと彼も同じくらいに痛かったはずだ。これでおあいこということには、けしてならないけれど。
 私と彼が初めて会ったのは子どものころで、やはり眠っていると

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掌編小説 お弁当

掌編小説 お弁当

 週5日勤務のうち4日は訪れていた定食屋が、とうとう臨時休業の貼り紙を掲げやがった。
 さほど高くなく、もちろん美味くって、ご飯のお替わりが無料で、平らげたあとも追い出す雰囲気を醸し出すことなく、ぼんやりと本を読んでいられるランチの店は近場ではここしかなった。

 仕方がないので街を行きつ戻りつうろつき歩き、適切なランチの店を探し求める。探せ、この世のすべてをそこに置いてきた、とかつぶやきながら。

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次に別れるときは「またな」って言うよ #原稿用紙二枚分の感覚

次に別れるときは「またな」って言うよ #原稿用紙二枚分の感覚

くすんだ緑色のフェンスの前に、千代紙の花で飾り付けられた看板が立っている。「卒業おめでとう」と手書きされた文字は、少し歪んで右に逸れていた。

後輩が書いたんだよ、と遥香が話す。そうなんだ、と返事をして、僕は着古した学ランの横で左手をぶらぶらさせていた。

学校裏の細道に並ぶ桜の木は、まだ満開になりきらないのに、はらりはらりと花弁を手離していた。くすんだカルピス色の空に、渦を巻いた風が薄紅

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どないもならへん

どないもならへん

天気予報では今日の降水確率は50%だといっていたのにすっかり忘れて家を出た。エイジと待ち合わせている鶴橋駅のセブンイレブンで黒い折畳み傘を税込1,100円で買った。「PayPayで」ミカはスマホを店員に向けてから「やっぱし現金で」と言い直した。財布に2枚あった一万円札のうち1枚を出す。

「ただいま五千円札を切らしておりまして」 返ってきたのは千円札が8枚と五百円玉1枚、百円玉4枚。ミカの小さな三

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「原稿用紙二枚分の感覚」を開催します

〜はじめに〜 この募集は締め切りました。

 こんにちは。伊藤緑です。

 これまで、noteでいくつかの私設賞、私設コンテスト、企画などに参加してきましたが(嶋津亮太さんの『教養のエチュード賞』、ムラサキさんの『眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー』、城戸圭一郎さんの『1200文字のスペースオペラ賞』などなど)、自分でも一度やってみたいなぁと思ったので、今回「原稿用紙二枚分の感覚」という賞(行事)を開催

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