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チューリップラジオ読んでくれた方へ
「憧れ」ってなんだろうと思いながら書きました。
部活を引退する時、
バイトを辞める時、
憧れですと何度か言われたことがあった。
自分も先輩が部活を引退する時、
ずっと憧れでした。と書いていたかもしれない。
でも実際その人に近づいて、
私生活の全てを見た時に
同じことが言えるかわからない。
人間誰しもカッコ悪いところはあると思っているから。
少なくとも私はそうだし。
もし憧れる
チューリップラジオ20
りょうが深夜ドラマの主演に選ばれたのは秋のことだった。そして同時期に、りょうさんやせい子さんたちが所属しているヴィーナスは大手事務所に買収された。正直資金繰りに困っていた吉井は大喜びで事務所を手放した。
週刊誌が出てからしばらく、せい子さんは謹慎期間として休んでいた。そのタイミングで私とせい子さんは広めのマンションを借りて2人暮らしをすることになった。その落ち込むべき期間がせい子さんにとっても私
チューリップラジオ19
ある日、事務所へ行くと、吉井が暗い顔をしていた。
「原さん、悪いニュースや」
いつもの吉井なら不気味に口角を上げているところだったが、手元の紙を見つめながら深刻そうに言った。
「せい子が週刊誌に撮られた。不倫やて。明日出るらしいわ。」
見せられた記事には(人気芸人Sが大阪美人モデルと不倫、次期戦隊ヒーローが禁断愛)とかかれていた。
「待ってください、杉田さんって奥さんいたんですか。そんなことせい子
チューリップラジオ18
いつのまにか深夜の0時を回っていて、私は帰ることにした。
「たまみちゃんありがとね〜。ふふふ。今日はよく眠れそう。」
ほろ酔いのせい子さんを背後に感じながら玄関へ向かう。しかし、脱衣所に一瞬目をやったとき、それが、終わりの始まりだった。見たことのある柄シャツ。誰の服だろうか。それは1人しかいない。ストライプデニムの杉田だっま。追求すべきか。一度見ないふりをするべきか。私は振り返ってせい子さんの顔を
チューリップラジオ15
自分の部屋に戻っても落ち着かなかった。気持ちを紛らわせようと溜まっていた洗濯を回し、浴槽に湯を溜めて入った。しかし頭の中から彼女が離れることはなく、兄のケーキを思い出した時のように甘酸っぱい何かが喉の奥から込み上げた。この正体はなんなんだ。わからない。いつだって、大切なことは後から気付いて、後から知らされて、全て手遅れなんだ。私はまだまだ未熟なんだ。だから人を助けることもできない。悔しさに似た感情
もっとみるチューリップラジオ14
せい子さんの家でりょうが来るのを待った。せい子さん部屋は相変わらず物が多かったが彼女の持ち物は全て艶めいてみえた。ベッドに脱ぎ捨てられた茶色い柄のジャケットでさえ堂々としていて羨ましかった。おそらくジャケットを羨ましいと思ったことは初めてだった。インターホンが鳴る。せい子さんがドアを開けるとりょうは慣れたように荷物を置いて手を洗いに洗面所へ向かった。
「さあ、どのケーキがいい?私はせっかくだからた
チューリップラジオ13
あの日から私は注意深く彼女を観察した。少し体調が悪そうだと吉井に強く言って撮影でもラジオでも休ませた。吉井は毎度怪訝な顔をするが、せい子さんの病気の話を持ち出すと理解してくれた。そうして、せい子さんはほとんどの仕事を順調にこなすことができた。もっと彼女をよく観察しようとすると、プライベートでもせい子さんと過ごすことがほとんどになった。大阪駅近くのショッピングモールへ行って、観覧車に乗ったりした。冬
もっとみるチューリップラジオ12
りょうはだらっと背もたれに預けていた身体を起こした。
「まず、せい子はパニック障害だ。これはせい子の意思でたまちゃんに言ってなかったんだけどね。なんでかわかる?」
私は少しもわからなかった。驚いて涙のようなものがこみ上げるのがわかる。
「せい子はたまちゃんが好きで、かっこ悪いところ見せたくないんだよ。わかってあげてくれないか。だからこのことも黙っていてあげてほしい。」
りょうは、運ばれて来たパスタ
チューリップラジオ11
初めてのラジオ収録が終わったあと、タクシーの中のことを眠りにつく前に思い出した。私は突然、あの瞬間を忘れてはいけない気がして必死になって思い出す。せい子さんが気分の良さそうな顔をして外を眺めている。大阪の夜は明るくせい子さんの綺麗な顔を照らした。
「たまみちゃん、今日本当に楽しかった。仕事もっと頑張りたいって思ったの。モデルだけじゃなくてこういうラジオとかテレビとかもやってみたい。」
せい子さんの
チューリップラジオ9
私はせい子にラジオの仕事が来ていることを話した。せい子は驚かなかった。
「ラジオね〜。楽しそうだね。」
楽観的なせい子をみて私は安心した。せい子は迷うこともなく「やってみたい」と言った。変に意識して不安になっていたのは私だけだった。
「じゃあ社長に言っておきますね。」
せい子といると不思議と何でもできそうな気がしてくる。この人についていけば幸せになれる気がする。自分にとっての幸せが何かなんてまだわ
チューリップラジオ8
ある日、社長の吉井からいつもより早めに事務所に来るように言われた。私は合鍵でせい子の部屋に入り、机にチャーハンを置くとそっと部屋を出た。午前10時だった。秋も深まってきた頃で涼しい風が吹くたびに胸が少し苦しくなった。大阪にいても季節を感じられる。私はもうこの街に馴染み始めていたし、せい子さんもそうだろう。大阪に拒まれていると感じたのは、夏の暑さのせいだったのかもしれない。なんとなくエレベーターを使
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