チューリップラジオ13

あの日から私は注意深く彼女を観察した。少し体調が悪そうだと吉井に強く言って撮影でもラジオでも休ませた。吉井は毎度怪訝な顔をするが、せい子さんの病気の話を持ち出すと理解してくれた。そうして、せい子さんはほとんどの仕事を順調にこなすことができた。もっと彼女をよく観察しようとすると、プライベートでもせい子さんと過ごすことがほとんどになった。大阪駅近くのショッピングモールへ行って、観覧車に乗ったりした。冬の寒い日に乗った観覧車からの夜景はしばらく忘れることができなかった。纏わりつく冷たい空気と無数の光、何よりマフラーに巻き込まれた髪の毛とツンとした綺麗な顔が美しかった。


しかし注意深くせい子さんを見るようになってから、気付いたことがあった。彼女から表情がなくなるときがあるということ。それは会話の間の、少しの沈黙のときに際立っていた。彼女は誰と喋る時でも平等に、愛想良く笑う。りょうは気付いているだろうか。吉井は気付いているだろうか。気付いているのは私だけだろうか。12月になった。冬の寂しさを紛らわせるように街路樹には電飾が巻き付けられていて、まぶしかった。私は大阪駅へ行って賑わったデパ地下にあるケーキ屋で少し高いフルーツのタルトを2つ買った。せい子さんのことを思うと、ケーキを買いたくなった。衝動的だった。これから毎日冷蔵庫にケーキを置いておこうかと思ったが、デパートの自動ドアが開くと冷たい空気が目に染みて、そこまでするのはやめようと思った。


大阪駅からケーキの箱を揺らさないように15分ほど歩いた。
「たまみちゃん?」
隣から声がしてびっくりして見ると、せい子さんだった。
「もしかして、これケーキ?私も買ってきたよ!」
そういうと、せい子さんはケーキの箱を持ち上げた。
「ほんとだ、ごめんなさい。これは明日食べて。」
そう言って少し後悔していると、せい子さんは笑った。
「いやそうじゃなくて、タイミング。考えること同じだなって。ほら青になったよ。」
せい子さんの足取りは軽かった。
「あ!りょう呼ぼっか?」
せい子さんはあまり大人数で集まることをしない。誰かを呼ぼうとしたことも初めてだった。せい子さんが電話すると、りょうがくることになった。

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