チューリップラジオ9

私はせい子にラジオの仕事が来ていることを話した。せい子は驚かなかった。
「ラジオね〜。楽しそうだね。」
楽観的なせい子をみて私は安心した。せい子は迷うこともなく「やってみたい」と言った。変に意識して不安になっていたのは私だけだった。
「じゃあ社長に言っておきますね。」
せい子といると不思議と何でもできそうな気がしてくる。この人についていけば幸せになれる気がする。自分にとっての幸せが何かなんてまだわからないけど、自分の歩く道の先に必ずあるような気がする。
「美味しかった〜。なんか甘いもの食べたくない?あとでコンビニ行こっか」
そう言いながら、せい子は洗面所からブラシとオイルを取ってくると長い髪をとかし始めた。机の片付けをしながらバレないようにチラチラとせい子をみた。オイルの甘い匂いが漂い、シリコンのブラシがザー、ザーと髪を溶かす。せい子の長い指に絡まる茶色い毛がツヤツヤしている。
「せい子さん、ほんと髪綺麗ですね。」
たわいもない話のはずなのに、何故か緊張してしまった。
「こんなの全然、めっちゃ傷んでるしね」
せい子さんの髪に触れたいと思う、私って気持ち悪い。私はそんな変な気を紛らわせるように机を隅々まで丁寧に拭いた。


私とせい子さんはコンビニに行くためにマンションを出た。
「上着持って来ればよかった」
そうせい子が言うので私は自分の灰色の薄いカーディガンを貸した。
「すみません。ダサくて。」
せい子は全然大丈夫というが、見るからにチンチクリンでサイズも合っていない。せい子さんの隣に並ぶのが少し恥ずかしくなった。
「たまみちゃん、敬語やめない?私、仕事仲間だけなんて嫌なの。ほら、歳も一つしか違わないし」
せい子さんと暮らして3ヶ月が立つ。今こうしてたまたま隣を歩いているが、自分が普通に暮らしていたらせい子とは確実に友達になれていない。例えると財閥の令嬢と田舎娘が友達になるような感覚がある。あとは話すとき、せい子さんは大きな声で笑わないし、しょうもない話もしない。芸能人で誰々と誰々が結婚したとか他人の話に興味がなく、それこそ人の悪口も言わない。だから話すたびに自分はなんてしょうもない人間なんだと思うし、せい子さんのようになりたいと何度も憧れる。コンビニに着くとせい子さんはモナカのアイスだけを買っていた。そこにも私がせい子さん好きな理由があった。




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