チューリップラジオ20

りょうが深夜ドラマの主演に選ばれたのは秋のことだった。そして同時期に、りょうさんやせい子さんたちが所属しているヴィーナスは大手事務所に買収された。正直資金繰りに困っていた吉井は大喜びで事務所を手放した。


週刊誌が出てからしばらく、せい子さんは謹慎期間として休んでいた。そのタイミングで私とせい子さんは広めのマンションを借りて2人暮らしをすることになった。その落ち込むべき期間がせい子さんにとっても私にとっても、大阪に出てきてから1番楽しい期間であった。


「たまちゃん、起きるの早いよ。まだ眠いから電気つけないで。」
「だめだよ。もう10時じゃん。はやく起きてせい子さん。」
せい子さんは朝が苦手だった。私はいつも無理矢理起こした。

「今日、お兄ちゃんがケーキ持ってきてくれるって。」
「えっ、本当なの?また、あのケーキが食べられるなんて夢みたい。」
せい子さんは和歌山にいたころよく兄のケーキ屋さんに通っていたらしく、その時すでに私の存在も知っていたらしい。「こんな美味しいケーキを作る兄弟は絶対良い兄弟に決まってると思いました。」そう、せい子さんは私の兄にいった。兄のケーキのおかげでせい子さんと私は出会えたのだ。


夜寝る前は、せい子さんとよく恋愛の話をした。
「たまちゃん、私ほんっと見る目ないの。笑っちゃうよね。」
「せい子さんは、優しすぎるんですよ。もし、虎だと思ってたのに触ったら実はフワフワしてて、なんかお腹とか見せてきたらびっくりしません?」
せい子さんは「意味わかんない」といって笑ってくれた。そういう日には必ず夢をみた。「愛」の夢。いつも何もかもを忘れて現実世界から離れてきたはずだったのに、いつからか、そこにせい子さんがいた。ここに誰かを連れてくる日がくると思わなかった。私の人生と運命にせい子さんという糸が絡まってくることにも、いつからか抵抗がなくなっていた。彼女が現れてから、私の人生や運命は長い夢の中のような現実になった。

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