チューリップラジオ12

りょうはだらっと背もたれに預けていた身体を起こした。
「まず、せい子はパニック障害だ。これはせい子の意思でたまちゃんに言ってなかったんだけどね。なんでかわかる?」
私は少しもわからなかった。驚いて涙のようなものがこみ上げるのがわかる。
「せい子はたまちゃんが好きで、かっこ悪いところ見せたくないんだよ。わかってあげてくれないか。だからこのことも黙っていてあげてほしい。」
りょうは、運ばれて来たパスタをみると肘を退けて場所を譲った。
「あと、せい子は俺のことも好きだった。それに関して俺はどうすることもできない。それでそういう関係ではある。身体の。それで、この件は誰が悪いとか、そういう話じゃない。だけど、たまちゃんに黙ってたことは悪かったな。ごめんな。」
りょうは必死に言葉を選んで伝えてくれているようだった。そして話を聞いてもりょうが悪いと思わなかった。
「せい子さんは、寂しいんでしょうか。」
フォークに巻きつけたパスタをそのままにして、私はりょうに尋ねた。
「うん。だからたまちゃんには感謝してる。俺も、吉井さんも。」
私たち二人はその後一言を話さずパスタを食べきった。お会計はりょうさんが払ってくれた。

りょうの撮影を見守りながら、私は何度も何度も一つのことについて考えた。せい子さんの寂しさの深さだ。その寂しさの深さは私で埋められるのか、埋めなければいけないのか、彼女の病気のためなら。しかし、その深く暗く、彼女に襲いかかる寂しさは私が背負うものではない。彼女が自分自身で折り合いをつけていかなければならない。私が何度も考えてしまうのは、私情ではなく、仕事のためだ。彼女が満足に仕事をできるようにするため、それがマネージャーという仕事だ。そうは思いつつ、もはや友人として、家族として、彼女の寂しさに思いを馳せることをせずにはいられなかった。



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